トラマドールは独特な二重の作用機序により強力な鎮痛効果を発揮します 。第一の作用として、μ-オピオイド受容体への結合により脳内で痛みの信号を感じにくくする「オピオイド作用」があります 。第二の作用として、ノルアドレナリンやセロトニンの再取り込みを阻害することで神経伝達物質の量を増やし、痛みの感覚をやわらげる「モノアミン再取り込み阻害作用」を持ちます 。
参考)いつもの痛み止めが効かない…医師が出す「トラマール」って安全…
この二重の作用機序により、トラマドールは従来の単一作用を持つ鎮痛薬よりも多様な痛みに対して効果を示します 。モルヒネなどの純粋なオピオイドと比較して、非麻薬性オピオイドに分類されるため、依存性や呼吸抑制のリスクが相対的に低いとされています 。
参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1149117.html
活性代謝物M1の役割も重要で、トラマドール自体よりも約175倍高いμ-オピオイド受容体結合親和性を持ちます 。これにより、トラマドールが体内で代謝されることで、より強力な鎮痛効果が得られるプロドラッグとしての性格を持っています。
参考)作用機序
トラマドールは非がん性慢性疼痛に対して特に有効性が認められています 。変形性関節症、腰痛症、帯状疱疹後神経痛などの慢性疼痛において、長期投与による持続的な鎮痛効果が報告されています 。
参考)慢性腰痛に対するトラマドール塩酸塩/アセトアミノフェンの除痛…
長期投与研究では、トラマドールを3年以上継続投与した症例において、投与開始時の視覚アナログスケール(VAS)が平均70.7mmであったものが、3ヵ月以降はおおむね40mm以下に推移し、約3年時には平均33.6mmまで改善しました 。これは約52%の疼痛軽減効果を示しており、長期的な疼痛管理に有用であることが示されています。
参考)非がん性慢性疼痛に対するトラマドールの長期投与―日常診療にお…
また、慢性疼痛患者における心因性要素の改善効果も報告されており 、身体的疼痛だけでなく精神的な痛みの要素にも効果を示すことが明らかになっています。この効果は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用が抗うつ効果と関連している可能性があります。
参考)トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン (トラムセットhref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/chubu/56/3/56_665/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/chubu/56/3/56_665/_article/-char/ja/lt;su…
トラマドールの効果には顕著な個人差が存在し、その主要因として代謝酵素CYP2D6の遺伝子多型があります 。日本人の約0.84%はCYP2D6の代謝能が著しく低いpoor metabolizer(PM)であり、これらの患者ではトラマドールの薬効を十分に引き出すことができません 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-17K15504/17K15504seika.pdf
CYP2D6の活性が低下している患者では、トラマドールから活性代謝物M1への変換が不十分となり、鎮痛効果が減弱します 。一方で、CYP2D6活性が正常な患者と比較して、変異を有する患者ではトラマドール血中濃度が高く推移し、副作用発現率も有意に高くなることが報告されています 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25460213/25460213seika.pdf
日本人においても、欧米人と比較してCYP2D6活性が極端に低下する遺伝子変異は少ないものの、軽度の活性低下を示す遺伝子多型であってもトラマドールの効果に有意な影響を与えることが明らかになっています 。このため、単純計算で約120人に1人の割合でトラマドールの薬効を十分に得られない患者が存在する可能性があります 。
参考)トラマドールの効かない患者!?プロドラッグ代謝酵素の遺伝子多…
トラマドールとアセトアミノフェンの配合剤(トラムセット)は、単独使用よりも優れた鎮痛効果を示します 。配合剤では、トラマドールが中枢神経系で作用する一方、アセトアミノフェンは主に中枢神経系で異なる機序により鎮痛作用を発揮するため、相乗効果が期待できます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2007376/
抜歯後疼痛を対象とした臨床試験では、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤(75mg/650mg)は、トラマドール単独(75mg)やアセトアミノフェン単独(650mg)と比較して、疼痛緩和の開始時間が短縮し(配合剤:122分、トラマドール単独:122分、アセトアミノフェン単独:183分)、より持続的な鎮痛効果を示しました 。
運動器慢性疼痛に対する検討でも、配合剤は腰背部痛、頸部上肢痛、下肢痛などの様々な疼痛に対して有効性が確認されており 、特に脊椎疾患による慢性疼痛に対して良好な成績が報告されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/3fd5960d78fc42ef9e0aed4c2f70c1348811ee8d
トラマドールは非麻薬性オピオイドに分類されているものの、長期使用により薬物依存を生じる可能性があります 。依存のメカニズムには、オピオイド受容体を介した従来の依存性に加えて、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用によるセロトニン作用薬様の依存性も関与していると考えられます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6862981/
離脱症状は、通常のオピオイド離脱症状(不安、発汗、不眠、悪寒、疼痛、悪心、振戦、下痢など)に加えて 、セロトニン再取り込み阻害薬の離脱症状に類似した症状も現れることがあります 。特筆すべきは、トラマドール離脱により精神症状(幻覚、精神病症状)が報告されていることで 、これはトラマドール特有の複合的な作用機序に起因すると考えられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3905496/
症例報告では、1日あたり1200mgといった大量使用から急激に中止した際に、幻聴や妄想を伴う精神病症状が出現したケースが報告されています 。また、若年者における非医学的使用では、「薬に囚われる」という表現で依存状態が記述されており 、治療中断率も高いことが示されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10472933/