テリフルノミドを「副作用が軽いから安心して処方できる」と思っていると、肝機能障害の見落としで患者さんが重篤化します。

テリフルノミドは、免疫抑制薬であるレフルノミドの活性代謝物として古くから知られていた化合物です。 関節リウマチ治療に使われるレフルノミドは、体内でテリフルノミドに変換されて効果を発揮することが判明しており、その活性本体としての有効性に着目する形で多発性硬化症(MS)への応用研究が進みました。
関連)https://www.tokyo-med.ac.jp/news/media/docs/170725Press.pdf
米国FDA は2012年に再発型MSに対する治療薬として承認し、欧州(EMA)は2013年に続いて承認しました。 日本ではサノフィが承認申請を行い、PMDAによる審査を経て2021年3月に「再発寛解型多発性硬化症、疾患活動性を有する二次性進行型多発性硬化症」を適応症として承認されました。 つまり、日本での承認は米国より約9年遅れとなります。
作用機序は、ミトコンドリア内膜に存在する酵素であるDHODH(ジヒドロオロト酸脱水素酵素)を選択的に阻害することにあります。 DHODHはリンパ球のピリミジン合成経路における律速酵素であり、これを阻害することでT細胞・B細胞の増殖を抑制し、MS病態に関わる過剰な自己免疫反応を抑えます。これが基本です。
関連)https://www.kegg.jp/entry/dr_ja:D10172
投与量は7mgまたは14mg、1日1回経口投与であり、服用の簡便さが外来管理における利点の一つとなっています。 TEMSOおよびTOWERの第III相試験では、14mg投与群でプラセボ比較における年間再発率の相対リスクがそれぞれ31%・36%低減したことが報告されています。結論は、中等度の有効性を持つ経口DMDです。
関連)https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/26365096
2023年に改訂された「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」では、疾患修飾薬(DMD)の選択基準が明示されています。 テリフルノミドは再発寛解型MSに対する「中等度有効性を持つDMD」として位置づけられており、高活動性MSに対してはより強力な薬剤が推奨される場合があります。
関連)https://www.neurology-jp.org/files/images/20230317_01_01.pdf
ASCLEPIOS試験(第III相)では、テリフルノミド14mg群とオファツムマブ群が比較され、年間再発率の有意な差が確認されました。 オファツムマブはテリフルノミドと比較して優れた有効性と同等の安全性を示し、5年間の追跡でも新たな安全懸念は報告されませんでした。 意外ですね。これは「どの薬を選ぶか」という判断に直結します。
関連)https://www.nejm.jp/abstract/vol383.p546
実臨床では、患者の再発活動性・MRI所見・年齢・妊娠希望・服薬アドヒアランスなどを総合的に評価した上でテリフルノミドを選択することが求められます。「再発が年1回未満」「MRI上の新規病変が少ない」など活動性が低い場合は、テリフルノミドが第一選択として検討される場面が多い状況です。これは使えそうです。
テリフルノミドの主要な副作用として、肝機能障害・下痢・悪心・脱毛・好中球減少症・リンパ球減少症が挙げられています。 これらは欧米の臨床試験でも日本人を対象とした国内データでも一貫して報告されており、投与前の肝機能検査は必須です。
特に肝毒性については、投与開始から最初の6ヵ月間は月1回以上のALT(GPT)モニタリングが推奨されています。ALTが正常上限の3倍を超えた場合は投与中断を検討し、8倍を超えた場合は永続的な投与中止が原則となります。これが原則です。
脱毛については、治療開始後3〜6ヵ月ごろにピークを迎えることが多く、患者への事前説明が重要です。多くの場合、治療継続中でも改善が期待できますが、患者の精神的負担につながるため、説明なく処方を継続することは推奨されません。厳しいところですね。
感染症リスクについても注意が必要です。テリフルノミドはリンパ球を減少させるため、結核や帯状疱疹のリスク管理が求められます。投与前に結核スクリーニングを実施することは現行の適正使用ガイドに明記されており、潜在性結核感染が確認された場合はINH予防投与などを検討します。肝機能と感染症、両方の管理が条件です。
テリフルノミドは強い催奇形性を持ち、動物実験では骨格奇形・胎児死亡が確認されています。妊娠可能な女性患者への投与は、妊娠していないことを確認し、かつ信頼性の高い避妊法を用いることが必須条件とされています。
問題は、投与を中止しても血中からテリフルノミドが消失するまでに非常に長い時間がかかる点です。自然消失には最大2年以上かかる可能性があります。これは知らないと大きなリスクです。
このため、妊娠を希望する患者や投与中止が必要になった患者には「加速排泄法(accelerated elimination procedure)」が推奨されます。具体的には、コレスティラミン8gを1日3回・11日間投与するか、または活性炭50gを1日2回・11日間投与することで、血中濃度を治療前レベル(0.02mg/L以下)まで迅速に下げることが可能です。コレスティラミンが第一選択です。
男性患者への影響については、精液中へのテリフルノミド移行の可能性があるため、投与中は適切な避妊を行うよう指導が必要です。パートナーへの催奇形性リスクが否定できない以上、男性側への避妊指導も適正使用ガイドに含まれています。これは盲点になりやすい部分です。
参考:PMDAによるテリフルノミド(オバジオ)の適正使用ガイド(サノフィ株式会社)では、上記催奇形性管理が詳細に規定されています。
経口DMDとして日本で承認されている薬剤にはテリフルノミドのほか、フマル酸ジメチル(テクフィデラ)やシポニモドがあります。 テリフルノミドとの比較において、患者属性や生活状況に応じた薬剤選択の視点が医療現場でどれほど活かされているかは、意外と検討されていない領域です。
関連)https://med.suzuya-auto.com/tekufiderakapuseinotadashiichishiki.html
ここで注目したい独自の視点として、「処方の継続率(アドヒアランス)」と「患者の就労状況」の関連があります。再発型MSは30〜40代の就労世代に多く発症し、注射や点滴が必要な高効能薬と比較して、1日1回経口投与という簡便さがテリフルノミドの実用上の強みです。一方で、脱毛という目に見える副作用は患者の服薬継続意欲に大きく影響します。これは見落とされやすいポイントです。
また、テクフィデラ(フマル酸ジメチル)の年間薬剤費が約302万円に達するのに対し、テリフルノミドは費用効果の面でも比較検討に値します。 難病医療費助成制度の自己負担上限額は患者の所得区分によって異なり、月額最大3万円程度が上限となるケースもあります。患者への経済的な説明も処方時の重要な業務の一つです。
関連)https://med.suzuya-auto.com/tekufiderakapuseinotadashiichishiki.html
以下は、主な経口MS治療薬の特徴を比較した表です。
| 薬剤名 | 作用機序 | 日本承認 | 主な副作用 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| テリフルノミド(オバジオ) | DHODH阻害 | 2021年3月 | 肝機能障害・脱毛・下痢 | 催奇形性、加速排泄法 |
| フマル酸ジメチル(テクフィデラ) | Nrf2活性化 | 2015年 | 潮紅・胃腸障害・PML | リンパ球数モニタリング必須 |
| シポニモド(メーゼント) | S1P受容体調節 | 2021年 | 徐脈・黄斑浮腫・肝障害 | CYP2C9遺伝子型確認が必要 |
参考:コクランレビューによるテリフルノミドの有効性・安全性評価(2025年更新)
Cochrane:テリフルノミドの多発性硬化症に対するエビデンス(日本語)
テリフルノミドの処方場面では、患者個々の病態・ライフスタイル・将来の妊娠計画を丁寧にアセスメントした上で、ガイドラインと最新エビデンスの両輪で判断することが求められます。それが質の高い神経内科的ケアにつながります。
関連)https://www.neurology-jp.org/files/images/20230317_01_01.pdf
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