シナカルセト塩酸塩は2008年に上市されて以来、二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)治療において重要な役割を果たしてきました。シナカルセトはカルシウム感知受容体(CaR)にアロステリックモジュレーターとして作用し、PTH分泌を抑制します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/52/7/52_443/_article/-char/ja/
シナカルセトの治療効果は確立されており、強いPTH低下作用により、副甲状腺摘出術(PTx)の件数を著しく減少させる画期的な効果をもたらしました。投与量は通常12.5mgから開始し、最大200mgまで増量が可能です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/52/10/52_585/_pdf
しかし、シナカルセトには重要な制約があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/154/1/154_35/_pdf
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000001168
エボカルセトは2018年に上市された次世代型カルシミメティクスで、シナカルセトの問題点を改善することを目標に開発されました。構造改変により、画期的な薬理学的改良が達成されています。
最も注目すべき特徴は高いバイオアベイラビリティです。エボカルセトのバイオアベイラビリティは62.7%と、シナカルセトと比較して大幅に向上しており、低用量でも十分な薬効を発揮します。
投与量の特性。
参考)https://jinzounet.pro/%E7%89%B9%E9%9B%8635%E7%AC%AC2%E7%AB%A0/
参考)https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/36-2/36-2_280.pdf
薬効面での同等性
エボカルセトはシナカルセトと同等のPTH、カルシウム低下作用を示すことが第III相試験で確認されています。完全血清PTH濃度低下率からの換算では、シナカルセトに対する非劣性が確認されており、治療効果の面では遜色ありません。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6182462/
シナカルセトの最も問題となる副作用は上部消化管症状です。悪心、嘔吐、腹部不快感などの症状が用量依存性に出現し、治療継続の大きな障害となっています。
発現メカニズム
シナカルセトによる上部消化管症状は、消化管に発現しているカルシウム受容体への直接的な刺激によって惹起されることが明らかになっています。この直接作用により、以下の症状が発現します:
主な消化管症状。
臨床的影響
消化管症状により、必要な投与量まで増量できない症例が存在し、治療効果が十分得られない場合があります。また、服薬コンプライアンスの低下も大きな問題となっており、長期治療継続の妨げとなっています。
研究では、コモンマーモセットを用いた嘔吐作用の検討において、シナカルセト500μg/kg投与群で6例中5例の嘔吐が認められ、消化管への強い作用が確認されています。
エボカルセトの最大の優位性は、消化器副作用の大幅な軽減です。種々のin vivo評価系を用いた検討により、エボカルセトは上部消化管に対する作用がシナカルセトに比べて明らかに少ないことが確認されています。
副作用軽減のメカニズム
エボカルセトの消化器副作用軽減は、以下の要因によるものと考えられます。
臨床試験での安全性確認
シナカルセトを対照とした二重盲検比較試験において、エボカルセトは上部消化管障害が有意に少ないことが確認されています。実際の切り替え研究でも、消化管運動改善薬を中止できる症例が散見され、消化器症状のある患者は切り替え後で明らかに減少しています。
シナカルセトの重要な臨床上の注意点として、薬物相互作用があります。シナカルセトはCYP2D6を強く阻害するため、同じ酵素で代謝される薬剤との併用時には注意が必要です。
主要な薬物相互作用
相互作用が問題となる薬剤例。
代謝特性による制約
シナカルセトの代謝特性により、以下の臨床的制約があります。
これらの制約により、特に多くの併用薬を有する透析患者では、処方設計が複雑になる場合があります。