ラクチトール(商品名:ポルトラック)は、非代償性肝硬変に伴う高アンモニア血症の治療に使用される糖アルコール系薬剤です。消化管粘膜にはラクチトールを分解する酵素が存在しないため、経口投与後に分解・吸収されることなく大腸に到達し、効果を発揮します。
大腸に到達したラクチトールは、腸内細菌のうち有用性が高いビフィズス菌(Bifidobacterium)を増加させます。これらの腸内細菌によってラクチトールは短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)に代謝され、腸内pHを低下させることでアンモニアの産生と吸収を抑制します。
国内延べ186施設で実施された臨床試験では、評価対象総計263例において以下の改善率が報告されています。
これらの臨床データは、ラクチトールが高アンモニア血症に対して高い治療効果を示すことを裏付けています。
ラクチトールの副作用は主に消化器系に現れます。臨床試験で報告された副作用の発現頻度は以下の通りです。
1~5%未満の副作用
1%未満の副作用
その他の副作用(1%未満)
下痢は最も頻度の高い副作用であり、糖アルコールの特性として多量摂取時にお腹が緩くなる作用があります。これは浸透圧作用による生理的な反応であり、投与量の調整により管理可能です。
重大な副作用の記載はありませんが、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うことが重要です。
ラクチトールの使用にあたっては、以下の注意事項を遵守する必要があります。
用法・用量
通常、成人にはラクチトール水和物として1日量18~36gを3回に分けて、用時水に溶解後経口投与します。便通状態(回数及び性状)に応じて投与量を調節することが推奨されています。
高齢者への投与
高齢者では生理機能が低下していることが多く、副作用があらわれやすいため、少量(例えば1回6g)から投与を開始し、患者の状態を観察しながら慎重に投与する必要があります。
相互作用
併用注意薬剤として、α-グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース、ボグリボース、ミグリトール)があります。これらの薬剤との併用により消化器系副作用が増強される可能性があるため、注意深い観察が必要です。
妊婦・授乳婦への投与
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与します。授乳婦についても、治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮して投与の可否を決定する必要があります。
医療用途以外でも、ラクチトールは食品添加物として広く使用されており、その安全性について詳細な評価が行われています。食品安全委員会の評価では、以下の安全性データが報告されています。
急性毒性試験
ラットでの経口急性毒性試験において、LD50は10.0g/kg以上と報告されており、急性毒性は極めて低いことが確認されています。
変異原性試験
5種類の試験菌株を用いた復帰突然変異試験では、S9mix存在下/非存在下に関わらず変異コロニー数の増加は認められず、陰性と判定されています。
長期投与試験
マウスを用いた104週間投与試験では、0~10%の食餌濃度でラクチトールを投与したところ、一般に良好な耐性を示し、平均体重や死亡率への影響は認められず、発がん等も認められませんでした。
ヒト試験データ
健康あるいは糖尿病の人に24g/日のラクチトールを経口摂取した試験では、耐性があり、血中グルコース濃度、血中インスリン濃度には影響がなく、糖尿病患者に下痢を誘発しなかったと報告されています。
これらの安全性データは、適切な用量での使用において、ラクチトールが高い安全性を有することを示しています。
高アンモニア血症の治療においては、ラクチトール以外にもラクツロースやリファキシミンなどの治療選択肢があります。それぞれの特徴を比較することで、適切な薬剤選択が可能になります。
ラクチトール vs ラクツロース
両者とも二糖類系の薬剤ですが、ラクチトールはラクツロースと比較して以下の特徴があります。
ラクチトール vs リファキシミン
リファキシミンとの比較試験では、ラクチトール群で13.8%(87例中12例)に副作用が認められ、主なものは下痢で4.6%(87例中4例)でした。一方、リファキシミン群では6.0%(84例中5例)の副作用発現率であり、消化管に対する副作用プロファイルに違いが見られます。
臨床選択の指針
これらの比較データを参考に、個々の患者の状態に応じた最適な治療選択を行うことが重要です。