パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル塩酸塩(商品名:テーカイン)は、エステル型局所麻酔薬として分類される薬剤です。この薬剤の作用機序は、細胞膜に作用して神経インパルスの発生および伝導を抑制することにあります。
具体的な薬理作用として、本剤は電位依存性ナトリウムチャネル(SCN1A、SCN2A、SCN3A、SCN4A、SCN5A)を標的として作用します。これらのチャネルを阻害することで、神経細胞の脱分極を防ぎ、痛覚の伝達を遮断します。
薬効の特徴として、家兎角膜反射実験において、効力はテトラカインと同等でありながら、作用時間はテトラカインより長いことが確認されています。また、ヒト皮内注射における麻痺発現時間はジブカインより速く、持続時間はジブカインより短いという特性があります。
分子量は328.88、組成式はC17H29N2O2・Clで、精神神経系用薬の麻酔薬、局所麻酔薬に分類されています。この化学的特性により、局所での麻酔効果を効率的に発揮することができます。
本剤の適応症は多岐にわたり、伝達麻酔、浸潤麻酔、表面麻酔、歯科領域における伝達麻酔・浸潤麻酔に使用されます。
伝達麻酔での使用法:
浸潤麻酔での使用法:
表面麻酔での使用法:
歯科領域での使用法:
これらの用量は年齢、麻酔領域、部位、組織、症状、体質により適宜増減する必要があります。特に眼科疾患用薬として眼科用局所麻酔薬の分類で使用される場合、薬価は1g:249円/gとなっています。
パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル塩酸塩の使用において、医療従事者が最も注意すべきは重篤な副作用です。
ショック(頻度不明):
血圧降下、顔面蒼白、脈拍の異常、呼吸抑制等の症状が現れる可能性があります。これらの症状が確認された場合には、直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。ショック症状は生命に関わる重篤な状態であり、迅速な対応が求められます。
中枢神経障害(頻度不明):
振戦、痙攣等の中毒症状が現れることがあります。このような症状が確認された場合には、直ちに投与を中止し、ジアゼパムまたは超短時間作用型バルビツール酸製剤(チオペンタールナトリウム等)の投与等の適切な処置を行う必要があります。
局所麻酔薬中毒の症状として、眠気、興奮、眩暈、嘔気・嘔吐、振戦、痙攣などが現れ、適切な処置を施さなければ循環破綻ならびに呼吸停止に至る可能性があります。
これらの重篤な副作用を防ぐため、本剤の投与に際しては十分な観察を行い、ショックあるいは中毒への移行に注意し、必要に応じて適切な処置を行うことが重要です。
重篤な副作用以外にも、様々な副作用が報告されています。
精神神経系の副作用(頻度不明):
これらの症状については、観察を十分に行い、ショックあるいは中毒への移行に注意し、必要に応じて適切な処置を行うことが求められます。
過敏症(頻度不明):
特殊な副作用:
メトヘモグロビン血症をきたす可能性があることも報告されています。これは血液中のヘモグロビンが酸素運搬能力を失う状態で、チアノーゼや呼吸困難を引き起こす可能性があります。
高齢者への配慮:
高齢者では生理機能が低下していることが多く、副作用が発現しやすいため、より慎重な投与が必要です。
妊婦への配慮:
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないため、妊娠末期の婦人には慎重に投与する必要があります。特に麻酔範囲が広がりやすいという特徴があります。
本剤の使用において、絶対的禁忌となる条件があります。
絶対禁忌:
血管収縮剤添加時の禁忌:
以下の患者には血管収縮剤(アドレナリン、ノルアドレナリン)を添加してはいけません。
特定部位での血管収縮剤添加禁忌:
耳、指趾または陰茎の麻酔を行う場合には、血管収縮剤を添加してはいけません。これは壊死状態になるおそれがあるためです。
肝機能障害患者への注意:
本剤は主にグルクロン酸抱合にて肝臓で代謝されるため、肝機能障害のある患者では中毒濃度になりやすく、特に反復投与する場合には中毒量に十分な注意が必要です。
静脈内区域麻酔での使用禁止:
本剤による局所静脈内麻酔での心停止および死亡症例が報告されているため、静脈内区域麻酔として使用してはいけません。
これらの禁忌事項と注意事項を遵守することで、安全で効果的な局所麻酔を実施することができます。医療従事者は患者の既往歴や現在の状態を十分に把握し、適切な判断を行うことが重要です。
日本麻酔科学会の局所麻酔薬に関するガイドライン
https://anesth.or.jp/files/pdf/local_anesthetic_20190905.pdf
KEGG DRUGデータベースでの薬剤情報
https://www.kegg.jp/entry/dr_ja:D01967