テーカイン®原末(一般名:テトラカイン塩酸塩)は、ヴィアトリス製薬株式会社とシオノギファーマ株式会社によって製造販売されてきた局所麻酔剤でしたが、2022年10月に販売中止が発表されました。その後、経過措置期間を経て2024年3月31日をもって完全に市場から姿を消すことになりました。
参考)https://www.viatris-e-channel.com/viatris-products/di/info/pdf/11_NBZ27M200A_2022%E5%B9%B4%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E4%B8%AD%E6%AD%A2%E4%BA%88%E5%AE%9A%E3%81%AE%E3%81%94%E6%A1%88%E5%86%85%EF%BC%88%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%8E%9F%E6%9C%AB%EF%BC%89.pdf
この経過措置満了は単なる製品の終了ではなく、医療現場に広範囲な影響を与える重要な変化です。厚生労働省告示第309号(令和5年11月21日付)により、正式に経過措置品目への移行が告示され、2024年4月1日以降は保険請求ができなくなっています。
参考)https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/information/pdf/202311tetocainesoldout.pdf
🔍 テーカイン原末の基本情報
製造販売中止の理由について、メーカーは「諸般の事情により」との説明にとどまっており、詳細な理由は公表されていません。ただし、2022年末から2023年初頭にかけて、販売中止発表後に平常時を大幅に超える注文が殺到し、急激な需要増加により十分な在庫量の確保ができない状況が発生していました。
参考)https://www.viatris-e-channel.com/viatris-products/di/info/pdf/NBZ27M280A_%E4%BE%9B%E7%B5%A6%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%94%E6%A1%88%E5%86%85%EF%BC%88%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%8E%9F%E6%9C%AB%EF%BC%89.pdf
経過措置期間の管理は段階的に実施されました。まず2023年5月に製造販売中止の案内が医療関係者に送付され、その後2023年11月22日から経過措置品目への移行が開始されました。
📊 経過措置スケジュール
時期 | 内容 | 法的根拠 |
---|---|---|
2022年10月 | 販売中止予定の案内 | メーカー判断 |
2023年5月 | 製造販売中止の正式案内 | 薬事法に基づく手続き |
2023年11月22日 | 経過措置品目への移行開始 | 厚生労働省告示第309号 |
2024年3月31日 | 経過措置期間満了 | 薬事法に基づく期限 |
2024年4月1日以降 | 保険請求不可 | 保険制度上の制限 |
この期間中、医療機関は在庫の管理と代替薬への切り替え準備を進める必要がありました。多くの病院では薬事委員会を通じて切り替え計画を策定し、患者への影響を最小限に抑える取り組みが行われました。
参考)http://m-p-a.jp/pdf/20240125%E3%80%80%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%97%85%E9%99%A2%E3%80%80%E6%8E%A1%E7%94%A8%E8%96%AC%E6%83%85%E5%A0%B1.pdf
テーカイン原末の代替薬選択は、各医療機関の薬事委員会を中心に慎重に検討されました。局所麻酔剤という特性上、同等の効果と安全性を持つ代替品の選定が重要な課題となりました。
🏥 主要な代替薬の選択肢
しかし、テーカイン販売中止に伴い、他の局所麻酔薬にも影響が波及しました。特に「キシロカイン注射液0.5%、1%、2%」等のリドカイン製剤においても、他の局所麻酔薬の限定出荷に伴う需要増により供給が不安定化する事態が発生しました。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001366628.pdf
福岡大学病院では、第301回薬事委員会において「鼓膜麻酔液(l-メントール、テーカイン販売中止のため)」の削除を決定するなど、院内製剤の見直しも必要となりました。これは単純な代替では対応できない複合的な影響を示しています。
代替薬選択の考慮点
医療機関によっては、テーカインの特殊な用途(耳鼻科領域での鼓膜麻酔等)において、完全に同等の代替薬が存在しない場合もあり、処置方法自体の見直しが必要となるケースも報告されています。
テーカインの供給停止は、医療現場において多面的な対応を必要としました。特に在庫管理、処方システムの変更、スタッフへの教育など、組織全体での取り組みが求められました。
💡 実務対応の重要ポイント
東部済生会病院の事例では、2024年3月末の経過措置満了に伴い、テーカイン原末の院外限定採用を削除し、今後院内での関係委員会を経て院内処方での交付に変更する予定として対応を進めました。このような段階的な移行により、患者への影響を最小化する工夫が見られました。
参考)https://www.tobu.saiseikai.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2024/03/yakuji_202403.pdf
システム面での対応事項
また、一部の医療機関では「低頻度院内製剤の削除」として、テーカインを含む複合調製薬の見直しも実施されました。これは単一製剤の販売中止が、関連する院内製剤全体に影響を与える好例といえます。
患者対応での配慮事項
経過措置満了後の薬事管理は、単純に代替薬に切り替えるだけでは完了しません。継続的な供給状況の監視、副作用情報の収集、品質管理の徹底など、包括的なアプローチが必要です。
🔧 薬事管理の継続課題
山口大学病院の事例では、小林化工株式会社の製品出荷停止時に見られたように、代替薬への切り替え時期を慎重に設定し、在庫状況に応じた段階的な移行を実施しています。このような経験は、テーカイン代替でも活用できる貴重な知見となっています。
参考)http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yakuzai/di-express/de0123.pdf
治験119番の質問・見解集では、医薬品の供給に関する問題について「治験実施計画書で規定される投与及び観察が終了するまで安全性情報を継続提供すべき」との見解が示されており、一般的な医療用医薬品においても同様の継続的な安全性監視が重要です。
参考)https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/tiken119/nqbv9t000000002y-att/20250115.pdf
長期的な管理体制の構築
代替薬への切り替えにおいて最も重要な観点は、患者の安全性と治療効果の維持です。局所麻酔剤という性質上、効果の確実性と副作用の予防は特に慎重に管理する必要があります。
⚕️ 安全性確保のための取り組み
テーカイン(テトラカイン塩酸塩)はエステル型局所麻酔薬に分類され、主に表面麻酔として使用されてきました。代替薬の選択においては、同じエステル型(プロカイン等)またはアミド型(リドカイン等)の特性を理解した上での選択が重要です。
薬理学的考慮事項
項目 | テーカイン | リドカイン | プロカイン |
---|---|---|---|
化学構造 | エステル型 | アミド型 | エステル型 |
作用発現 | 迅速 | 迅速 | 中等度 |
作用持続 | 長時間 | 中等度 | 短時間 |
代謝経路 | 血漿エステラーゼ | 肝代謝 | 血漿エステラーゼ |
また、医療機関における品質管理の観点から、代替薬の保管条件、調製方法、使用期限の管理についても、テーカインとは異なる要求事項がある場合があります。
継続的な安全性監視
日本製薬工業協会の治験119番対応チームが示すように、医薬品の変更時には「治験使用薬による健康被害の拡大を未然に防ぐ」という観点から、継続的な安全性情報の収集と提供が重要です。これは一般医療においても同様に適用される原則といえます。
医療従事者は、テーカインから代替薬への切り替えを単なる製品変更として捉えるのではなく、患者安全の確保と医療の質の維持という視点から包括的に管理していく必要があります。そのためには、薬剤師による専門的な薬学的管理、医師による臨床的な評価、看護師による患者観察の連携が不可欠です。