パイナップル茎搾汁の効果と副作用:医療現場での安全使用

パイナップル茎搾汁精製物(ネキソブリッド)の壊死組織除去効果と重篤な副作用について、医療従事者が知るべき最新の安全性情報を詳しく解説。適切な使用法とは?

パイナップル茎搾汁精製物の効果と副作用

パイナップル茎搾汁精製物の概要
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壊死組織除去効果

深達性Ⅱ度・Ⅲ度熱傷の壊死組織を選択的に除去

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重大な副作用

適用部位出血、ショック、アナフィラキシー

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使用上の注意

パイナップル関連アレルギーの既往歴確認が必須

パイナップル茎搾汁精製物の基本的な効果と作用機序

パイナップル茎搾汁精製物(ネキソブリッド外用ゲル)は、パイナップル茎由来のタンパク質分解酵素の混合物を有効成分とする壊死組織除去剤です。本剤は深達性Ⅱ度又はⅢ度熱傷における壊死組織の除去を効能・効果として、2023年8月に販売が開始されました。

 

作用機序として、パイナップル茎に含まれるブロメライン等の酵素が壊死組織のタンパク質を選択的に分解し、健常組織を温存しながら壊死組織のみを除去します。この選択的作用により、従来の外科的デブリードマンと比較して患者への侵襲を大幅に軽減できることが特徴です。

 

物動態では、最高血中濃度到達時間(Tmax)は4.0時間、半減期(T1/2)は18±3.5時間と報告されており、全身への吸収は限定的ですが、血中への移行は確認されています。

 

パイナップル茎搾汁による重大な副作用と安全性情報

2024年8月27日に医薬品医療機器総合機構(PMDA)から重要な安全性情報が発出され、「適用部位出血」が重大な副作用として追加されました。この改訂により、減張切開創や裂創等の創傷がある患者への使用時には、本剤と創部の接触による出血リスクについて十分な注意が必要となりました。

 

重大な副作用として以下が報告されています。

  • ショック・アナフィラキシー:発疹、紅斑、血圧低下、頻脈、呼吸困難、全身紅潮等
  • 適用部位出血:使用部位での出血(発現頻度25.6%)

その他の主な副作用には以下があります。

  • 適用部位の疼痛(16.3%)
  • そう痒症、皮下血腫
  • 発熱、頻脈
  • 創縁のエロジオン、発赤、浮腫

本剤はタンパク質製剤であるため、アナフィラキシー反応のリスクが常に存在し、使用時には緊急処置の準備が必須です。

 

パイナップル茎搾汁使用時の禁忌と注意事項

本剤の使用にあたって最も重要な注意点は、パイナップル関連のアレルギー歴の確認です。パイナップル茎由来の成分を含有するため、以下のアレルギー既往歴について慎重な確認が必要です。

  • パイナップルに対する過敏症
  • パパイヤに対する過敏症
  • パパインに対する過敏症
  • ブロメラインに対する過敏症

これらの既往歴を有する患者は、臨床試験では除外されており、投与の可否を慎重に判断する必要があります。

 

また、銀やヨウ素を含有する薬剤との併用により、壊死組織除去作用が減弱する可能性があるため、硝酸銀、スルファジアジン銀、ポビドンヨード、銀含有被覆材等を使用した場合は、これらを完全に除去してから本剤を塗布することが重要です。

 

疼痛管理も重要な要素で、本剤の塗布前および除去前には適切な疼痛管理を行うことが推奨されています。

 

パイナップル茎搾汁の臨床現場での適正使用法

本剤の適正使用には、適応患者の選択から使用手技まで、細心の注意が必要です。深達性Ⅱ度又はⅢ度熱傷患者において、壊死組織の範囲と深度を正確に評価し、本剤による治療が最適かを判断することが重要です。

 

使用手技においては、以下の点に特に注意が必要です。

  • 潰瘍面よりやや小さめのガーゼに薄く延ばして使用
  • 潰瘍辺縁に触れないよう注意深く塗布
  • 眼科領域での使用は禁止

薬価は162,995.90円/瓶と高額であり、医療経済的な観点からも適応を慎重に検討する必要があります。処方箋医薬品として厳格な管理下での使用が求められています。

 

承認条件として全症例対象の使用成績調査の実施が義務付けられており、使用症例については詳細な記録と報告が必要です。

 

パイナップル茎搾汁の将来的な応用可能性と研究動向

パイナップル茎搾汁精製物の応用は、現在の熱傷治療領域を超えて拡大する可能性があります。ブロメライン酵素の抗炎症作用や免疫調節作用に関する基礎研究が進んでおり、創傷治癒促進効果についても注目が集まっています。

 

興味深いことに、パイナップル茎は従来廃棄物として扱われていた部分であり、この医薬品開発は持続可能な医療資源の活用という観点からも意義深いものです。天然由来の酵素を用いた選択的デブリードマンという概念は、今後の創傷治療において新たなパラダイムを提示する可能性があります。

 

しかし、天然由来製剤特有の課題として、品質の均一性確保や安定供給体制の構築が重要な課題となっています。また、酵素活性の個体差や環境要因による影響についても、さらなる研究が必要とされています。

 

現在進行中の使用成績調査により、日本人患者における長期的な安全性と有効性データが蓄積されることで、より精緻な適応基準の確立や使用ガイドラインの策定が期待されます。特に、適用部位出血のリスク因子の特定や予防策の確立は、臨床現場での安全使用において極めて重要な課題です。

 

医療従事者としては、この革新的な治療選択肢を適切に活用するため、継続的な情報収集と症例経験の蓄積が不可欠です。患者の安全を最優先に、エビデンスに基づいた慎重な使用判断を行うことが求められています。

 

PMDAによるパイナップル茎搾汁精製物の使用上の注意改訂について
KEGG医薬品データベース:ネキソブリッド詳細情報