手関節背屈運動を担う筋肉群は、前腕背側に位置する複数の筋肉から構成されています 。主要な筋肉として、長橈側手根伸筋(ECRL)、短橈側手根伸筋(ECRB)、尺側手根伸筋(ECU)、および総指伸筋が挙げられます 。これらの筋肉は共同して手関節の背屈運動を実現し、手首の安定性を維持する重要な役割を果たしています 。
参考)https://ar-ex.jp/toritsudai/768772083730/%E8%82%98%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%BA%E2%91%A4%E6%89%8B%E9%96%A2%E7%AF%80%E9%81%8B%E5%8B%95%EF%BC%88%E6%8E%8C%E5%B1%88%E3%83%BB%E8%83%8C%E5%B1%88%EF%BC%89
手関節背屈の可動域は通常0〜70°とされており、この範囲内での動きは日常生活動作において不可欠です 。前腕伸筋群として総称されるこれらの筋肉は、単独で作用するだけでなく、複数の筋肉が協調して働くことで、掌屈・背屈時の橈屈や尺屈動作も制御しています 。
参考)手関節の働きと役割(掌屈・背屈)
手関節背屈筋群の神経支配は主に橈骨神経によって行われ、特に橈骨神経の深枝(後骨間神経)が重要な役割を担っています 。血管支配については、後骨間動脈が主要な栄養血管として機能しています 。
参考)尺側手根伸筋│clindsc
長橈側手根伸筋は上腕骨外側上顆のやや近位(外側顆上稜)から起始し、第2中手骨底の背側・橈骨側に停止します 。この筋肉は手関節の伸展と橈屈を主要な作用とし、補助的に肘関節の屈曲にも関与します 。橈骨神経(C6〜C7)によって支配され、手首を上方向に反らす動きと外側に動かす役割を担っています 。
参考)長・短橈側手根伸筋(ECRL/ECRB)の評価とアプローチ …
短橈側手根伸筋は上腕骨外側上顆から起始し、第3中手骨底の背側に停止する筋肉です 。長橈側手根伸筋とともに働いて手首の動きをサポートし、主に手首の伸展(背屈)を担当します 。橈骨神経の深枝(C7〜C8)によって支配され、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の最も一般的な原因筋として知られています 。
参考)短橈側手根伸筋│clindsc
尺側手根伸筋は上腕骨外側上顆と尺骨の後側縁から起始し、第5中手骨の基部に停止します 。手関節の背屈と尺屈を主な作用とし、手首の安定性に重要な役割を果たしています 。橈骨神経の深枝によって支配され、手首を内側(小指側)に曲げる動きと背屈を同時に行います 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/15/3/15_3_204/_pdf/-char/en
総指伸筋は上腕骨外側上顆および前腕筋膜から起始し、第2〜5指の中節骨と末節骨底の背側部に停止する筋肉です 。この筋肉の最も重要な特徴は、各指に向かう腱が腱間結合によって互いに結合していることで、個別の指の動きではなく総合的な指伸展運動を担当します 。
参考)【2022年版】総指伸筋の機能解剖学 起始停止から機能訓練ま…
総指伸筋は第2〜5指のDIP関節、PIP関節、MP関節の伸展に加えて、手関節の背屈にも作用します 。筋体積は29㎤、筋線維長は11.6㎝で、速筋と遅筋の比率は52.7:47.3となっています 。橈骨神経の深枝(C6-8)によって支配され、後骨間動脈から栄養供給を受けています 。
参考)総指伸筋 - Wikipedia
総指伸筋は力強く握る動作において、手関節を背屈位に固定する作用も持っています 。これは「テノデーシスアクション」と呼ばれる機能で、手指の屈曲を代償する際にも利用されます 。この筋肉の障害は上腕骨外側上顆炎や橈骨神経麻痺との関連性が高く、臨床上重要な意味を持ちます 。
参考)総指伸筋を解説
手関節背屈筋群の機能は単独の関節運動だけでなく、握力発揮においても極めて重要な役割を果たしています。身体の構造上、手関節を30°背屈した状態が最も握力の入りやすい状態とされており、この肢位を保持するためには手関節の背屈筋群が十分な張力を発生する必要があります 。
参考)8/25 院内勉強会「手関節の可動性改善や握力強化のリハビリ…
臨床研究では、手関節背屈筋力の強化により握力が最大で3kg向上することが報告されています 。これは橈骨遠位端骨折後の症例において特に重要で、廃用によって背屈筋群が弱化すると握力低下の原因となります 。手関節背屈角度と筋力の関係についての研究では、FCU(尺側手根屈筋)、FDS(浅指屈筋)の筋力と手関節背屈角度との間に密接な関係があることが示されています 。
参考)https://www.jhu.ac.jp/common/img/info/info_20220930_151226.pdf
強い握力を発揮するためには、手関節伸筋群の強い活動と手関節屈筋群との協調性が必要です。握力発揮時には手関節が約30〜35度背屈し、この際に総指伸筋を含む背屈筋群が協調的に働くことで、効率的な握力発揮が可能となります 。この生理学的特性は、リハビリテーションや筋力強化プログラムの設計において重要な指標となります。
手関節背屈筋群の機能改善には、段階的なトレーニングプログラムが有効です。基本的なトレーニング方法として、ダンベルを用いたリバースリストカールがあります 。前腕をベンチに置き、手首から先を出した状態で手の甲を上にし、手首を背屈方向に動かすことで前腕伸筋群を効果的に鍛えることができます 。
参考)《コラボ連載:体の知識》ダンベルを使った手首トレーニング5選…
脳梗塞などの中枢神経疾患に対するリハビリテーションでは、手関節背屈運動の促進が重要な課題となります 。60°程度の背屈が正常範囲とされていますが、段階的に背屈方向への意識的な動きを促すことで、生活上で物をつかんだり操作したりする機能の改善が期待できます 。膝上に本を置き、前腕を支持した状態で重みを軽減しながら行う自主トレーニングが推奨されています 。
参考)脳梗塞リハビリ費用を減らすための15の戦略!!手の自主トレ1…
臨床における手関節背屈筋群の評価では、等速性筋力測定や握力との関連性評価が行われます。テニスプレイヤーなどのアスリートでは、手関節背屈筋力の特異的な評価が競技パフォーマンス向上に重要とされています 。また、手関節テーピングの効果についても、テープ圧が手関節背屈および掌屈の等速性筋力発揮に及ぼす影響が研究されており、適切な圧迫により筋力発揮の改善が期待できます 。
参考)測27-007 手関節テーピングのテープ圧が手関節背屈および…