ネオマイシンの効果と副作用:医療従事者が知るべき使用上の注意点

ネオマイシンは強力なアミノグリコシド系抗生物質として医療現場で使用されていますが、腎毒性や聴器毒性などの重篤な副作用があります。適切な使用法と注意点を理解して安全な医療を提供できているでしょうか?

ネオマイシンの基本的特徴と作用機序

ネオマイシンの基本情報
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アミノグリコシド系抗生物質

1948年にワクスマンが発見した強力な殺菌作用を持つ抗生物質

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30Sリボソーム結合機序

細菌のタンパク質合成を阻害して殺菌効果を発揮

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外用・経口限定使用

強い毒性により注射剤としては使用されない

ネオマイシンの発見と歴史的背景

ネオマイシンは1948年にウクライナ出身のセルマン・ワクスマンによって発見されたアミノグリコシド系抗生物質です。放線菌の一種であるStreptomyces fradiaeが生産することから、フラジオマイシン(fradiomycin)とも呼ばれています。分子量は614.65で、CAS登録番号は1405-10-3です。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%AA%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%B3

 

ワクスマンの下で研究を行っていた大学院生のHubert A. Lechevalierが実際の発見者であり、この発見は科学雑誌サイエンスに掲載されました。ネオマイシンはネオマイシンA、B、Cの混合物として存在し、市販品の主成分はネオマイシンB(90%超含有)で、ネオマイシンAは1%未満、残りがネオマイシンCとなっています。
参考)https://www.weblio.jp/content/%E3%83%8D%E3%82%AA%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%B3

 

日本薬局方においては硫酸フラジオマイシン(FRM)として収載されており、別名はソフラマイシン、フラミセチンとして知られています。医療現場では特に外用薬として広く使用されており、その殺菌作用の強さから重要な治療薬の一つとなっています。

ネオマイシンの作用機序と殺菌メカニズム

ネオマイシンの作用機序はカナマイシンと類似しており、細菌の30Sリボソームに結合することによって細菌のタンパク質合成を阻害します。この結合により、mRNAからタンパク質への翻訳過程が阻害され、細菌は生存に必要なタンパク質を合成できなくなり死滅します。
参考)https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0114-0887.html

 

アミノグリコシド系抗生物質は主に好気性グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して殺菌的に作用します。ネオマイシンは比較的広範な抗菌スペクトルを有し、グラム陰性菌、グラム陽性菌ともに強く阻害する特徴があります。
参考)https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc_hisiryou_neomycin_300124.pdf

 

細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合し、タンパク質の生合成を阻害することにより作用すると考えられており、この作用は濃度依存的であり、最小発育阻止濃度(MIC)以上の濃度で殺菌効果を発揮します。また、ポストアンチバイオティック効果(PAE)も認められ、薬剤濃度が下がっても一定時間殺菌効果が持続する特徴があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000494387.pdf

 

ネオマイシンの抗菌スペクトルと適応症

ネオマイシンは広範囲な抗菌スペクトルを持つアミノグリコシド系抗生物質として、多くの細菌感染症に対して効果を示します。グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌、連鎖球菌などに、グラム陰性菌では大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ属などに強い抗菌活性を示します。
国内では主に外用薬として使用され、皮膚・軟部組織感染症、創傷感染、火傷感染などの治療に用いられています。また、眼科領域では結膜炎や角膜炎などの眼感染症の治療薬として使用されています。動物用医薬品としては、牛、豚、鶏の細菌性下痢症および牛の乳房炎に対して承認されています。
参考)https://www.meetaugust.ai/ja/library/medications/view/neomycin-ophthalmic-route

 

ネオマイシンの力価は乾燥物換算で680IU/mg以上とされており、強力な殺菌作用を持っています。しかし、後述する重篤な副作用のため、全身投与(注射剤として)は行われず、外用剤や経口剤としてのみ使用されています。

ネオマイシンの重篤な副作用:腎毒性と聴器毒性

ネオマイシンの最も重要な特徴は、強い急性毒性および腎毒性が認められることです。これらの毒性により、ネオマイシンは経口剤か外用剤としてのみ使用され、注射剤としての全身投与は禁止されています。
聴器毒性においては、ネオマイシン(フラジオマイシン硫酸塩)>アミカシン硫酸塩、カナマイシン硫酸塩>トブラマイシン、ゲンタマイシン硫酸塩、ストレプトマイシン硫酸塩の順で強いことが報告されています。特にネオマイシンは最も聴器毒性が強いアミノグリコシド系抗生物質とされています。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000245253.pdf

 

外用薬として使用する場合でも、広範囲な熱傷や潰瘍のある皮膚には長期間連用しないよう注意が必要です。腎障害や難聴があらわれることがあるため、長期連用は避けるべきとされています。また、感作のおそれがあるため、そう痒、発赤、腫張、丘疹、小水疱等の感作症状が現れた場合は使用を中止する必要があります。
参考)https://teika-products.jp/mdcFiles/doc/mdc57.inv.pdf

 

ネオマイシンの適切な使用方法と安全管理

ネオマイシンの使用においては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の使用にとどめることが重要です。外用薬として使用する場合は、1日1-3回患部に塗布し、最長一週間の使用が推奨されています。
参考)https://ameilog.com/otc-top/neomycin_topical

 

眼科用として使用する場合は、コンタクトレンズの着用は避け、手をよく洗ってから点眼する必要があります。また、他の人と共用してはならず、期限の切れた薬は使用しないよう注意が必要です。眼科用薬の使いすぎは目の刺激やヒリヒリ感を増加させる可能性があります。
パッチテストでは、小児において最もよくみられるアレルゲンの一つとしてネオマイシンが挙げられ、4.3%の陽性率が報告されています。そのため、初回使用時はアレルギー反応の有無を十分に観察することが重要です。また、ネオマイシンやゲンタマイシン、ストレプトマイシンなどの他のアミノグリコシド系抗生物質にアレルギーがある患者には使用を避ける必要があります。
参考)https://www.carenet.com/news/general/carenet/32776

 

分子生物学の研究分野では、ネオマイシン耐性遺伝子が選択マーカーとして形質転換細胞の分離に利用されており、研究用試薬としても重要な役割を果たしています。医療従事者は患者の安全を最優先に考え、適切な使用法を遵守することが求められます。