
コルチゾールは副腎皮質束状帯から分泌されるグルココルチコイドで、視床下部−下垂体−副腎(HPA)軸によって厳密に制御されています。視床下部からのCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体前葉に作用し、ACTHが分泌され、副腎を刺激してコルチゾールが産生されます。正常ではコルチゾール自身がHPA軸へのネガティブフィードバックを担い、過剰分泌を抑制します 。
関連)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/177.html
このフィードバック機構が何らかの原因で破綻したとき、コルチゾール過剰状態(高コルチゾール血症)が持続します。臨床的には、血中コルチゾールが20 μg/dL以上を高値と判断し、同時にACTH値(60 pg/mL以上を高値とみなす)と組み合わせて病態を分類します 。これが鑑別の出発点です。
関連)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/177.html
コルチゾールには生理的日内変動があり、早朝(午前8〜10時)に最高値となり夜間に最低値をとります。この変動が消失している場合も病的な過剰分泌のサインです 。早朝安静臥床後の採血と深夜唾液コルチゾール測定を組み合わせることで、より正確な評価が可能です。
関連)https://www.lukesashiya.com/blog/2018-08-post-31-html/
| 血中ACTH値 | 血中コルチゾール値 | 想定される病態 |
|---|---|---|
| 高値(≥60 pg/mL) | 高値(≥20 μg/dL) | ACTH依存性クッシング症候群(クッシング病・異所性ACTH症候群) |
| 低値(<10 pg/mL) | 高値(≥20 μg/dL) | ACTH非依存性クッシング症候群(副腎腫瘍・副腎過形成) |
| 低値 | 低値(<4 μg/dL) | 副腎不全(二次性・三次性) |
| 高値 | 低値(<4 μg/dL) | 原発性副腎不全(アジソン病など) |
つまり、ACTH値とコルチゾール値の組み合わせで鑑別の方向性が決まります 。
関連)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/177.html
⚡ 吸入ステロイドや関節注射でも、コルチゾール過剰は起こります。
コルチゾール過剰の原因として、臨床現場で最も頻度が高いのは「医原性クッシング症候群」です。プレドニゾロンなどの経口ステロイド薬を長期・高用量で使用している患者に発症します。これは外因性コルチゾール過剰であり、内因性のクッシング症候群とは治療方針が大きく異なるため、問診による確認が最初のステップです 。
関連)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1671/
重要なのは、注射剤や吸入剤でも同様のリスクがある点です。関節腔内注射(トリアムシノロンなど)、硬膜外注射、吸入コルチコステロイドの高用量長期使用でも、HPA軸抑制を介したコルチゾール過剰状態に陥ることが報告されています 。これは見落とされがちです。
関連)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1671/
また、測定値の解釈に注意が必要なケースがあります。プレドニゾロンは測定キットによっては10〜30%の交差反応を示すため、プレドニゾロン内服中の患者では血中コルチゾールの実測値が偽高値となる可能性があります。デキサメタゾンはほとんど交差反応しません 。外因性の除外なしに検査値を解釈すると誤判断につながります。
関連)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/177.html
外因性が除外されて初めて、内因性コルチゾール過剰の精査に進みます。これが原則です。
内因性コルチゾール過剰は大きく「ACTH依存性」と「ACTH非依存性」に分類されます。ACTH依存性は内因性の約80%を占め、そのうち約68%がクッシング病(下垂体腺腫由来)、約12%が異所性ACTH産生腫瘍です 。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/2017/d100401
クッシング病の原因は、ACTH産生下垂体微小腺腫(径1cm以下)がほとんどです。この微小腺腫はネガティブフィードバックへの感受性が低下しており、高コルチゾール状態にもかかわらずACTHの分泌が抑制されません 。通常のデキサメタゾン抑制試験(低用量)では抑制されないことが診断の糸口になります。
関連)https://www.shouman.jp/disease/details/05_18_033/
一方、異所性ACTH産生腫瘍では、下垂体以外の組織(肺小細胞癌・カルチノイド・膵腫瘍・胸腺腫瘍など)がACTHを自律的に産生します。非常に高いACTH値(数百〜数千 pg/mL)を示すことが多く、コルチゾール過剰も重篤になりやすい病態です 。正中静脈洞サンプリング(IPSS)でACTHの中枢・末梢比(C/P比)を測定し、クッシング病との鑑別を行います。
関連)https://www.shouman.jp/disease/instructions/05_18_034/
つまり、ACTH依存性の鑑別には画像診断だけでなく、負荷試験と血液採取部位の組み合わせが鍵です 。
関連)https://www.shouman.jp/disease/instructions/05_18_034/
参考リンク(ACTH依存性クッシング症候群の診断基準・手引きについて)。
異所性ACTH産生症候群 診断の手引き(小児慢性特定疾病情報センター)
ACTH非依存性コルチゾール過剰は、副腎皮質そのものがACTHの制御を離れて自律的にコルチゾールを産生する病態です。代表的な原因は副腎皮質腺腫で、内因性クッシング症候群の約20%を占めます 。
関連)https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=31
副腎皮質腺腫は良性腫瘍で、腫瘍細胞がステロイド合成酵素を高発現してコルチゾールを過剰産生します。画像上は副腎の片側性腫瘤として描出され、対側副腎はACTH低下による萎縮を示すことが特徴です。131I-アドステロールシンチグラフィーも機能確認に用いられます 。
関連)https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=31
まれではありますが副腎皮質癌もコルチゾール過剰の原因となります。腫瘍が大きく(多くは4cm以上)、コルチゾール以外にDHEA-Sや性ホルモン前駆体の過剰を伴う場合は悪性を疑います 。また、両側性大結節性副腎過形成(BMAH)では、両側副腎の多発結節がACTH非依存性に機能亢進し、コルチゾール過剰をきたします。GIP受容体など「異所性受容体」の異常発現が一部の症例で関与します。これは意外ですね。
関連)https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=31
副腎疾患によるコルチゾール過剰では、ACTHが低値(しばしば検出限界以下)となる点が診断の重要なポイントです 。
関連)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/177.html
参考リンク(副腎腫瘍によるコルチゾール過剰産生の確認方法について)。
クッシング症候群(日本内分泌学会 一般向けページ)
SCSのスクリーニングには、1mg デキサメタゾン抑制試験(オーバーナイト・デキサメタゾン抑制試験)が広く用いられます。デキサメタゾン1mgを深夜0時に服用し、翌朝8時の血中コルチゾールが1.8 μg/dL未満に抑制されれば正常と判断します。抑制が不十分な場合、さらなる精査が必要です 。
関連)https://practice.dm-rg.net/special/ebm/4dbece78-8998-45fa-8fb2-f5d9e9b6d5f8
参考リンク(サブクリニカルクッシング症候群のエビデンスについて)。
クッシング症候群—診断・治療の最新エビデンス(糖尿病リソースガイド)
コルチゾール過剰の原因特定は、段階的なアプローチが必要です。まず「高コルチゾール血症があるかどうか」を確認し、次に「ACTH依存性か否か」を判定し、最後に「原因部位を特定する」という3ステップが基本になります 。
関連)https://practice.dm-rg.net/special/ebm/4dbece78-8998-45fa-8fb2-f5d9e9b6d5f8
ステップ1:高コルチゾール血症の確認には以下3つの検査のうち少なくとも2つを用います。①24時間尿中遊離コルチゾール(UFC)、②深夜唾液コルチゾール(2回測定)、③1mg(または2mg)デキサメタゾン抑制試験。1検査だけでは偽陽性・偽陰性のリスクがあるため、複数の検査の組み合わせが原則です 。
関連)https://practice.dm-rg.net/special/ebm/4dbece78-8998-45fa-8fb2-f5d9e9b6d5f8
ステップ2:ACTH依存性か否かの判定は、血中ACTH値で行います。ACTH非常に低値(<10 pg/mL)かつコルチゾール高値であればACTH非依存性(副腎性)を強く示唆します。逆にACTH高値(≥60 pg/mL)であれば下垂体または異所性ACTH産生を疑います 。
関連)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/177.html
ステップ3:原因部位の特定では、下垂体MRIと副腎CTが主役です。ただし下垂体微小腺腫は造影MRIでも描出困難なことがあり、その際はIPS(下錐体静脈洞)サンプリングによる採血が確定診断に役立ちます 。
関連)https://www.shouman.jp/disease/details/05_18_033/
また、偽性クッシング症候群(アルコール多飲・うつ病・肥満症で一時的に高コルチゾール血症を示す状態)との鑑別も重要です。アルコール多飲例では飲酒中止後にコルチゾール値が正常化します 。これだけ覚えておけばOKです。
関連)https://www.sotsugo.com/img/file146.pdf
参考リンク(コルチゾール検査値の解釈と注意点について詳しく解説)。
コルチゾール値の解釈(シー・アール・シー よくある検査のご質問)
参考リンク(クッシング症候群の診断・治療の最新エビデンス)。
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