扁平苔癬は、赤色または紫色の小さな隆起した発疹が現れる、かゆみを伴う再発性の皮膚疾患です。典型的な病変は、そう痒を伴い平坦に隆起した多角形で紫色の丘疹および局面として観察され、初期病変は直径2~4mmで辺縁が角ばっており、横から光を当てると特徴的な光沢がみられます。病理組織学的には、表皮真皮接合部を覆う帯状のリンパ組織球浸潤が古典的な苔癬型皮膚炎の特徴として挙げられ、シバット小体(アポトーシスを起こした基底細胞)、基底細胞の扁平化、真皮のマクロファージ内のメラニン色素(色素失調)などが観察されます。
参考)扁平苔癬 - 17. 皮膚の病気 - MSDマニュアル家庭版
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扁平苔癬の原因は不明ですが、特定の薬剤やB型またはC型肝炎ウイルスの感染に対する反応である可能性が考えられています。頬粘膜に好発する口腔扁平苔癬は、口腔潜在的悪性疾患に含まれ、一般的に0.4~5%の頻度で癌化するリスクを有します。癌化のリスク要因として、タバコが2.95倍、アルコールが3.52倍、HCV感染が5.95倍と報告されており、特に口腔扁平苔癬ではHCV陽性率が高く、C型肝炎との関連性が示唆されています。
参考)口腔扁平苔癬の癌化は0.4~5%
苔癬化という用語は、慢性的な掻破や摩擦により皮膚が厚くゴワゴワした状態を指し、慢性単純性苔癬(ヴィダール苔癬)では、首元や太ももなど皮膚がこすれやすい部分に現れます。苔癬化した皮膚はゴワゴワしてシワが目立ち、象の皮膚のような外観となり、非常に強いかゆみが特徴です。
参考)苔癬って何?首元に湿疹ができる原因や治療方法を詳しく解説
乾癬は、何らかの原因によって免疫系が異常をきたすことで、正常な皮膚のおよそ10倍の速さで皮膚の細胞が増殖し、ターンオーバーを繰り返す疾患です。表皮の基底細胞が角質化して垢として脱落するまでの時間(ターンオーバー時間)が、通常45日程度であるのに対して、乾癬の皮膚では4~7日と著しく短縮していることが明らかにされています。角化細胞の増殖が亢進しており、これに炎症反応が加わるため、皮膚の赤みや盛り上がりも出現します。
参考)乾癬|大田区大森・大木皮膚科【原因と治療薬・治し方を詳しく解…
乾癬の組織学的特徴として、不全角化を伴う角質増殖、角質下への好中球浸潤(マンロー微小膿瘍)、表皮突起の肥大化と延長、真皮乳頭層の上方への突出・浮腫と血管拡張、真皮のリンパ球・好中球などの炎症細胞浸潤の5つが挙げられます。臨床的には、境界明瞭な紅斑、紅斑表面の鱗屑、紅斑の浸潤(肥厚)などの皮疹が特徴的で、皮疹のない部位に外傷などの刺激を加えると皮疹が新たに誘発されるケブネル現象、鱗屑をはがし続けると点状出血がみられるアウスピッツ現象が認められます。
参考)乾癬の検査・診断
乾癬の根本的な原因はいまだ完全に解明されていませんが、もともと生まれ持った遺伝的素因に環境因子が加わることで発症すると考えられています。環境因子には、肥満、妊娠・出産、高脂血症、糖尿病、睡眠不足、ストレスなどの内的要因と、外傷、日焼けなどの皮膚への物理的刺激、皮膚の乾燥、食べ物、気候の変化、感染症、薬剤の影響などの外的要因があります。
参考)『乾癬(かんせん)』の原因・症状・治療法【症例画像】|田辺三…
苔癬と乾癬の鑑別は、基本的に臨床症状から可能ですが、類乾癬や扁平苔癬など他の炎症性角化症との鑑別が困難な場合には病理組織学的な検討を加えます。類乾癬は、乾癬に似た角化性紅斑が多発するが乾癬とはまったく関係がなく、鱗屑は細かく粃糠状である点が特徴です。乾癬との相違点は皮疹の色調で、類乾癬のほうが薄い傾向にあり、色素沈着や皮膚萎縮を伴うことが多く鱗屑が軽度です。
参考)類乾癬について
扁平苔癬と乾癬を病理組織学的に鑑別する際の重要なポイントとして、扁平苔癬では錯角化は一般的に欠如しており、これがあったら扁平苔癬の診断を再考すべきとされています。扁平苔癬では表皮真皮接合部を覆う帯状のリンパ組織球浸潤が特徴的であるのに対し、乾癬では不全角化を伴う角質増殖と角質下への好中球浸潤が顕著です。youtube
臨床的には、扁平苔癬が紫色の多角形丘疹で光沢を伴うのに対し、乾癬は境界明瞭な紅斑と銀白色の鱗屑を呈する点で区別されます。また、扁平苔癬ではシバット小体や基底細胞の液状変性が観察されるのに対し、乾癬では表皮突起の延長と真皮乳頭の上方突出が特徴的です。
参考)http://www.ndu.ac.jp/~pathhome/kanbetsu/kanbetsu18_ans.html
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苔癬と乾癬の治療には、いくつかの共通点と相違点があります。扁平苔癬の治療では、ステロイド外用薬が基本となり、炎症を抑え皮膚の痒みを和らげる効果が期待できます。強力なコルチコステロイドの軟膏を患部に塗り、その部分をラップで覆って一晩そのままにしておくことで効果を高めることができ、コルチコステロイドをしみこませた市販のサージカルテープを貼ることで、かゆみと炎症を和らげ、皮膚をかかないよう保護することもできます。
参考)ビダール苔癬
乾癬の治療では、外用療法、光線療法、内服療法、生物学的製剤などが病状に応じて選択されます。光線療法は、紫外線が持つ免疫の過剰な働きを抑制する力を利用し、皮疹に紫外線を照射して症状の改善をうながす治療で、UVA(長波長紫外線)を用いる「PUVA療法」、UVB(中波長紫外線)を用いる「UVB療法」や「ターゲット型光線療法」があります。外用療法で効果がみられない場合や、皮疹の範囲が広くて薬を塗るのが大変な場合などに行われ、一般に光線療法は入院で週4~5回、外来で週2~3回の頻度で実施されます。
参考)乾癬の治療について|乾癬ネット
扁平苔癬も光線療法が治療選択肢の一つとして用いられることがありますが、乾癬ほど確立されたプロトコルはありません。中等症から重症の乾癬には内服療法が用いられ、角質細胞の異常な増殖を抑える薬、免疫の過剰な働きを抑える薬、炎症を抑える薬が処方されます。両疾患ともステロイド外用薬が基本治療となる点は共通していますが、乾癬では全身療法の選択肢がより多様で、治療のアルゴリズムも確立されています。
参考)皮膚の角化症の種類と治療について-渋谷駅前おおしま皮膚科
扁平苔癬、特に口腔扁平苔癬は口腔潜在的悪性疾患に含まれ、癌化のリスクを有する点が臨床的に重要です。口腔扁平苔癬の癌化率は0.1%以下から5%まで報告によって幅がありますが、継続的な経過観察が必要とされています。口腔扁平苔癬は癌化までの期間が非常に長いため、癌化までの過程を詳細に観察した研究報告があまり見られず、癌化リスクの高い患者を選別し早期に癌を発見して治療できるようにすることが課題となっています。
参考)http://www.med.oita-u.ac.jp/oralsurg/allpdf/%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%85%AC%E9%96%8BOLP%E7%99%8C%E5%8C%96.pdf
癌化のリスク要因として、タバコ、アルコール、C型肝炎ウイルス(HCV)感染が明らかにされており、特にHCV感染は5.95倍のリスク上昇と関連しています。口腔扁平苔癬ではHCV陽性率が高く、C型肝炎との関連性が考えられているため、口腔扁平苔癬患者に対してはHCV検査を含めた全身的な評価が推奨されます。口内炎症状が2週間改善しない場合は、口腔外科の受診が強く推奨され、早期診断と継続的なフォローアップが重要です。
一方、乾癬は癌化のリスクは低いものの、慢性に経過し増悪と寛解を繰り返す疾患で、慢性炎症を反映して特に重症型ではメタボリックシンドロームや虚血性心疾患など全身疾患のリスク因子になることが知られています。約15%の症例で関節炎を合併することがあり、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)として分類され、リウマトイド因子は通常陰性であることが多い点で関節リウマチと鑑別されます。