アンジオテンシン変換酵素はどこから産生され血圧を調節するか

アンジオテンシン変換酵素(ACE)はどこから産生され、どのように血圧調節に関わるのか?肺・腎臓・脳など意外な産生部位と、サルコイドーシス診断や食品との関係まで詳しく解説します。

アンジオテンシン変換酵素はどこから産生されどう血圧を調節するか

ACEが上がっても血圧は上がりません。


この記事の3ポイント要約
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主な産生場所は「肺」の血管内皮細胞

アンジオテンシン変換酵素(ACE)は全身に分布しますが、特に肺の毛細血管内皮細胞に最も多く存在し、血液が肺を循環する間にアンジオテンシンⅠをⅡへ変換します。

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ACE値の上昇そのものは高血圧を引き起こさない

血清ACE値が高くなっても直接的に高血圧にはなりません。むしろACE高値はサルコイドーシスなどの疾患診断マーカーとして重要です。

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脳・腎臓にも独立したACE産生システムが存在する

ACEは肺だけでなく、脳・腎臓・小腸・前立腺など広く分布し、それぞれの臓器で局所的にレニン-アンジオテンシン系を形成して働いています。


アンジオテンシン変換酵素(ACE)の基本:どこで産生されるのか

アンジオテンシン変換酵素(ACE:Angiotensin-Converting Enzyme)は、生体内に広く分布する酵素です。特に肺の毛細血管内皮細胞に最も多く存在しており、ここが主要な産生・放出拠点となっています。血液が肺循環を通過する際、この酵素がアンジオテンシンⅠのC末端からジペプチド(ヒスチジン-ロイシン)を切り離し、アンジオテンシンⅡへと変換するのです。


肺が中心というのは、意外と知られていません。


そもそもACEは1954年にSkeggs博士らによって発見された糖タンパク質の亜鉛金属酵素であり、1288個(ヒトでは1277個)のアミノ酸からなる膜貫通型タンパク質です。二つの活性中心(HEXXH)を持ち、両方の活性部位は細胞外に存在します。膜から切断されると血液や脳脊髄液などに移行します。


肺以外にも、ACEは以下の場所に分布しています。


- 腎臓(傍糸球体細胞周辺)
- 小腸の粘膜上皮
- 前立腺
- 脳の血管内皮
- 副腎皮質


これらの臓器が主語です。全身のACEはこうした多様な部位から供給されています。健常者では、血管内皮膜に結合した「膜結合型ACE」が血中で「可溶型ACE」となって循環しています。この循環している可溶型ACEこそが、血液検査で測定されるACE活性値の正体です。


参考:ACEの産生部位と臨床的意義について詳細に解説されています。


アンジオテンシンⅠ転換酵素(ACE)|腎・副腎皮質 検査項目解説 - メディエンス


アンジオテンシン変換酵素が関わるレニン-アンジオテンシン系の仕組み

ACEを語るうえで外せないのが「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系」です。これは血圧や体液量・血清電解質を調節する内分泌系の重要な調節機構であり、ACEはその中核を担います。


仕組みは次のとおりです。まず血圧が低下したり、血中ナトリウム濃度が下がったりすると、腎臓の傍糸球体細胞からレニンが分泌されます。レニンは肝臓で合成された「アンジオテンシノーゲン」というタンパク質(分子量約10万)に作用して、10個のアミノ酸からなるペプチド「アンジオテンシンⅠ」を切り出します。


この段階では、まだほとんど生理活性はありません。


アンジオテンシンⅠが血流に乗って肺循環に達すると、肺毛細血管内皮細胞に存在するACEがC末端から2アミノ酸(His-Leu)を切り離し、強力な昇圧物質「アンジオテンシンⅡ」(8アミノ酸)が生成されます。アンジオテンシンⅡは血管壁のAT1受容体を介して血管平滑筋を収縮させ、血圧を上昇させます。同時に副腎皮質球状層を刺激して「アルドステロン」の分泌を促し、腎臓でのナトリウム再吸収を促進することで循環血液量を増やします。これが昇圧のメカニズムです。


つまり「腎臓→肝臓→肺→血管」という流れが基本です。


さらにACEには「キニナーゼⅡ」としての別の顔もあります。ACEは血管拡張物質である「ブラジキニン」を2アミノ酸ずつ切断して不活性化する働きも持っています。降圧に働くブラジキニンを分解してしまうのです。ACEはこの二重の作用——アンジオテンシンⅡの産生とブラジキニンの分解——によって、強く昇圧方向に働く酵素と言えます。


参考:レニン-アンジオテンシン系と血圧調節の全体像が詳しく解説されています。


レニン–アンジオテンシン系と血圧調節 - 日本農芸化学会(化学と生物)


アンジオテンシン変換酵素の検査値:高値・低値が示す疾患

血清ACE活性の基準値は7.0〜25.0 U/L(笠原法)とされています。この値が基準を超えたり、下回ったりする場合、特定の疾患と深く結びついています。検査値の意味を理解しておくことは、健康管理の観点からも重要です。


📈 高値を示す主な疾患


| 疾患名 | ポイント |
|---|---|
| サルコイドーシス | 活動性例の80%以上で著明高値 |
| 甲状腺機能亢進症 | 代謝亢進と関連 |
| 糖尿病 | 血管内皮障害と関連 |
| 肝硬変 | 肝内血管壁からの過剰産生 |
| 腎不全・腎障害 | 腎局所でのRAS亢進 |


📉 低値を示す主な疾患


| 疾患名 | ポイント |
|---|---|
| 多発性骨髄腫 | 血管内皮機能低下 |
| 慢性リンパ性白血病 | 同上 |
| 甲状腺機能低下症 | 代謝低下と関連 |


注目すべきは、ACE値が高くなっても直接高血圧をきたすことはないという点です。アンジオテンシンⅠからⅡへの変換は主に肺循環の過程で行われる「局所反応」であるため、血清中のACE活性が上昇しても全身の血圧には影響しないのです。これは多くの人が誤解しやすいポイントです。


なお、ステロイド治療を開始したサルコイドーシス患者では、ACE値が比較的速やかに低下します。そのためステロイド投与前にACE値を測定しておくことが必要とされています。ACE阻害薬を服用している場合も値は低下するため、測定前には服薬状況の確認が欠かせません。


参考:サルコイドーシスの診断基準とACE検査の位置づけが記載されています。


サルコイドーシスの診断基準と重症度分類(厚生労働省研究班)


脳内のアンジオテンシン変換酵素:アルツハイマー病との意外な関係

ACEは肺や腎臓だけでなく、脳内にも独立したレニン-アンジオテンシン系が存在することが明らかになっています。脳のACEは血圧調節とは別に、中枢神経系固有の機能を持っています。これはあまり知られていない事実です。


岩手医科大学・国立長寿医療研究センターの研究グループは、ACEが「Aβ変換酵素」としての新たな機能を持つことを発見しました。アルツハイマー病の発症に関わる毒性の強い「Aβ42」から、神経保護作用を持つ「Aβ40」へと変換する酵素が、まさにACEであることを特定したのです。


具体的には、ACEはN端ドメインでAβ42をAβ40へ変換し、C端ドメインでアンジオテンシン変換活性を持ちます。つまり一つの酵素が二つの異なる役割を担っているわけです。これは興味深いところです。


さらに注目すべきは、ACE遺伝子の多型(I/D多型)がアルツハイマー病発症リスクと関連するという報告です。ACE遺伝子のイントロン16に287塩基対のインサートがある「I型(II型)」の個体がアルツハイマー病発症と正の相関を示すという研究結果(メタアナリシス)があります。


また、降圧薬として広く使われているACE阻害薬がアルツハイマー病発症に影響を与える可能性も示唆されています。血液脳関門を通過できるACE阻害薬は認知機能低下を抑制する可能性がある一方、通過できないACE阻害薬ではリスクが上がるという報告もあります。現時点では最終的な結論は出ていませんが、今後の研究が注目されています。


参考:ACEとアルツハイマー病のメカニズムが詳細に解説されています。


アンギオテンシン変換酵素の新しい顔:Aβ変換酵素(日本生化学会誌)


食品由来ACE阻害ペプチドで血圧ケアができる理由

「食べ物で血圧が下がる」というと半信半疑に思われがちですが、これにはACEを介した明確なメカニズムがあります。食品中のある種のペプチドがACEの働きを阻害することで、アンジオテンシンⅡの産生が抑えられ、血圧上昇が緩和されるのです。


代表的な例がイワシ由来ペプチドです。イワシ筋肉タンパク質をペプシンで分解して得られる「Val-Tyr(バリル-チロシン)」などの短鎖ペプチドは、臨床研究においても有意な降圧作用を示すことが確認されています。同じ仕組みで、発酵食品(特定の乳製品、かつお節など)に含まれるペプチドも、ACE阻害活性を持つことが多数報告されています。


これは使えそうです。


こうした食品由来ACE阻害ペプチドを配合した機能性食品や特定保健用食品は、「血圧が高めの方に適した食品」として消費者庁に届出・認可されている製品が複数あります。医薬品のACE阻害薬ほどの強力な効果はありませんが、軽症高血圧者や高血圧予備軍の日常的な血圧ケアとして活用できます。


💡 食品由来ACE阻害ペプチドの主な由来食品


- 🐟 イワシ(Val-Tyrなど)
- 🥛 カゼイン(乳由来ペプチド)
- 🐟 かつお節(かつおペプチド)
- 🫘 大豆(大豆ペプチド)
- 🦑 イカの発酵食品(いしる・いかなご醤油など)


ただし食品だけで血圧を管理しようとするのは危険です。すでに高血圧と診断されている場合や、医師からACE阻害薬を処方されている場合は、自己判断で食品に置き換えることなく、必ず医師に相談したうえで活用するようにしてください。


参考:食品由来ACE阻害ペプチドと血圧降下のメカニズムについて詳しく解説されています。


血圧降下ペプチド(antihypertensive peptide)用語集 - ビフィズス菌研究所