結膜下出血は、球結膜下の毛細血管が破綻することで発生する疾患です。球結膜は強膜を覆う薄い透明な膜で、豊富な血管網を有しています。この血管網は直径10-50μmの毛細血管から構成され、血管壁は単層内皮細胞と基底膜のみの薄い構造となっています。
病態生理学的には、以下のメカニズムで出血が発生します。
出血した血液は結膜下腔に貯留し、重力の影響で下方に移動する特徴があります。重要な点は、結膜下出血では眼球内部への血液侵入は生じないため、視力への直接的影響はないことです。
結膜下出血の原因は、臨床的に以下の4つに分類されます。
1. 特発性(原因不明)結膜下出血
最も頻度が高く、全体の約60-70%を占めます。中高年に多く、結膜弛緩症との関連が指摘されています。結膜のたるみにより、瞬目時の摩擦で血管が損傷しやすくなります。
2. 外傷性結膜下出血
3. 全身疾患関連
4. 薬剤性
特に注意すべきは、繰り返し発症する症例では全身疾患の可能性が高いことです。血液検査や循環器系の精査が必要となります。
結膜下出血の初期症状は特徴的で、診断は比較的容易です。
主要症状
重要な陰性所見
鑑別診断で最も重要なのは「充血」との区別です。
項目 | 結膜下出血 | 充血 |
---|---|---|
色調 | 鮮明な赤色 | 淡い赤色 |
血管 | 見えない | 拡張血管が見える |
分布 | 斑状・限局性 | びまん性 |
症状 | 軽微 | 痛み・かゆみあり |
緊急性を要する所見
これらの所見がある場合は、眼球破裂や眼窩骨折の可能性を考慮し、緊急的な精査が必要です。
結膜下出血の重症度評価は、出血範囲と随伴症状により判定します。
軽症(Grade 1)
中等症(Grade 2)
重症(Grade 3)
治療方針の基本は以下の通りです。
保存的治療
薬物療法
軽症例では基本的に無治療で経過観察します。中等症以上で炎症所見を伴う場合、以下を検討。
経過観察のポイント
参天製薬の結膜下出血治療ガイドライン
https://www.santen.com/jp/healthcare/eye/library/hyposphagma/3
結膜下出血の予防は、原因に応じた多角的アプローチが重要です。特に繰り返し発症する患者には、包括的な予防プログラムの提案が効果的です。
生活習慣の改善指導
眼局所の環境改善
薬物管理の最適化
抗凝固薬使用患者では、以下の配慮が必要。
患者教育の重要ポイント
結膜下出血に対する患者の不安軽減と適切な対応のため、以下の教育を実施。
フォローアップ戦略
兵庫県医師会による結膜下出血の詳細解説
https://hyogo.med.or.jp/health-care/%E7%99%BD%E7%9B%AE%E3%81%AB%E5%87%BA%E8%A1%80/
結膜下出血は一見して患者に強い不安を与える疾患ですが、適切な診断と治療により良好な予後が期待できます。医療従事者として、患者の不安軽減と適切な医療提供のバランスを保ちながら、質の高い診療を提供することが重要です。特に繰り返し発症する症例では、全身疾患の可能性を念頭に置いた包括的な評価が必要となります。