ケモカインとサイトカインの違い

ケモカインとサイトカインは免疫や炎症において重要な役割を果たす物質です。両者の構造的・機能的特徴や分類、受容体の違いを理解することは、臨床現場での免疫関連疾患の理解に不可欠ですが、その詳細な違いをご存知ですか?

ケモカインとサイトカインの違い

この記事のポイント
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基本的な分類

ケモカインはサイトカインの一種で、主に細胞遊走を担う特殊なグループ

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構造の違い

システイン残基の配列によりCC、CXC、C、CX3Cの4種類に分類される

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臨床応用

炎症性疾患や免疫疾患の治療標的として重要な役割を果たす

ケモカインとサイトカインの定義と基本概念

 

サイトカインは、細胞から分泌される低分子量のタンパク質で、細胞間の情報伝達を担う生理活性物質です。主にリンパ球、貪食細胞、内皮細胞など様々な細胞によって産生され、免疫応答、炎症、細胞の成長と分化など多岐にわたる生理機能を調節します。サイトカインは特定の内分泌組織ではなく、様々な種類の細胞によって合成され、狭い範囲の近傍の細胞にのみ作用する点がホルモンと異なる特徴です。
参考)ケモカインとサイトカイン: 詳細な比較研究 - Assay …

一方、ケモカインは「chemotactic cytokines(走化性サイトカイン)」の略称であり、サイトカインの一種として位置づけられます。ケモカインの最大の特徴は、白血球やリンパ球などの免疫細胞の遊走(走化性)を制御する点にあります。炎症部位や感染部位に免疫細胞を誘導する役割を果たし、免疫応答や炎症反応の調整に重要な働きをします。
参考)サイトカインとは?サイトカインの種類や働きを徹底解説!

サイトカインは広範囲の生理活性を持つタンパク質の総称であるのに対し、ケモカインはその中でも細胞の遊走制御に特化したグループを指すという包含関係にあります。つまり、すべてのケモカインはサイトカインですが、すべてのサイトカインがケモカインというわけではありません。​

ケモカインの構造的分類と種類

ケモカインは、その構造的特徴、特にシステイン残基の配列パターンによって4つの主要なサブファミリーに分類されます。
参考)ケモカイン | 一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集

CCケモカインは、N末端側の2つのシステイン残基が隣接して配置されているタイプで、現在23種類以上が同定されています。代表的なものにRANTES、MCP-1、MIP-1α、エオタキシン、TARC、MDCなどがあり、主にTh1細胞、Th2細胞、好酸球、好塩基球、単球の遊走に関与します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1782646/

CXCケモカインは、2つのシステイン残基の間に1つのアミノ酸(Xで表現)が挟まれているタイプで、14種類以上が知られています。代表例としてIL-8、IP-10、Mig、I-TACなどがあり、主に好中球、CD8+T細胞、NK細胞、Th1細胞の遊走を誘導します。
参考)ケモカイン

CケモカインCX3Cケモカインはマイナーファミリーとして各1種類ずつ同定されており、Cケモカインには4つのシステイン残基のうち2つが欠損したLymphotactin(XCL1)が、CX3CケモカインにはFractalkineが属します。これらはそれぞれT細胞、NK細胞やアストロサイトの遊走に関わっています。
参考)https://jams.med.or.jp/event/doc/126038.pdf

これらの構造的分類は、受容体との結合特異性や機能的な役割分担と密接に関連しており、現在までに50種類以上のケモカインが同定されています。
参考)ケモカイン - Wikipedia

サイトカインの多様な分類と機能

サイトカインは作用や構造から複数のカテゴリーに分類され、それぞれが特有の生理機能を担っています。
参考)サイトカイン

インターロイキンは30種類以上が同定されており、主にリンパ球や貪食細胞が分泌し、免疫系細胞の分化、増殖、細胞死に働きます。IL-1、IL-2、IL-6などは炎症反応や免疫応答の中心的な役割を果たし、IL-2は血管肉腫や胃がんの治療にも応用されています。
参考)免疫におけるサイトカインの役割や種類~疾患の原因になることも…

インターフェロンはNK細胞やマクロファージを活性化させ、ウイルス感染の制御や抗腫瘍免疫に重要な役割を果たします。**腫瘍壊死因子(TNF)**スーパーファミリーは主に細胞死(アポトーシス)を誘導し、炎症反応の調節にも関与します。
参考)サイトカインとは?治療への応用とコロナウイルスとの関係は?

造血因子は血球の分化・増殖を促進し、G-CSF、エリスロポエチンなどが臨床で広く使用されています。細胞増殖因子は血球以外の特定の細胞の増殖を促進し、組織修復や発生に関与します。​
これらのサイトカインは互いに重複する機能を持つものも多く、一つのサイトカインが別のサイトカインの産生を誘導・抑制する「サイトカインカスケード」や「サイトカインネットワーク」と呼ばれる複雑な相互作用を形成しています。
参考)サイトカインとは?免疫システムの司令官 - 株式会社リプロセ…

ケモカイン受容体とサイトカイン受容体の特徴

ケモカイン受容体は、すべてGタンパク質共役型受容体(GPCR)に分類される7回膜貫通型受容体です。現在、CXCR1~6(6種類)、CCR1~10(10種類)、XCR1、CX3CR1の計18種類のシグナル伝達型ケモカイン受容体が同定されています。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00028.html

ケモカイン受容体の重要な特徴は、その多重性と冗長性です。すなわち、多くのケモカイン受容体は複数のケモカインと結合可能であり、逆に個々のケモカインも複数の受容体と相互作用できます。例えば、CXCR3はIP-10、Mig、I-TACという複数のCXCケモカインの共有レセプターであり、Th1細胞の遊走に関わります。同様に、CCR3はエオタキシン、RANTES、MCP-2/3/4など複数のCCケモカインと結合し、好酸球好塩基球の遊走を制御します。​
白血球の種類により発現する受容体の種類が異なり、一般的にTh1細胞はCCR5/CXCR3を、Th2細胞はCCR3/4/8を、樹状細胞はCCR7を、好酸球はCCR1/2/3をその細胞表面に発現しています。この選択的な受容体発現パターンにより、特定の免疫細胞が炎症部位へ効率的に誘導される仕組みが形成されています。​
一方、サイトカイン受容体は、ケモカイン受容体とは異なる多様な構造を持ちます。インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、TNF受容体など、各サイトカインファミリーに対応した特異的な受容体が存在し、その構造や細胞内シグナル伝達機構も多岐にわたります。​

ケモカインとサイトカインの機能的違い

ケモカインとサイトカインの最も顕著な機能的違いは、その主要な作用メカニズムにあります。​
ケモカインは主に走化性に関与し、細胞の移動を直接的に誘導する機能に特化しています。炎症部位から産生されたケモカインは濃度勾配を形成し、白血球はこの濃度勾配に沿って低濃度から高濃度の方向へと遊走します。この過程で、ケモカインは白血球の遊走だけでなく、血管内皮への接着や血管外への移動も促進します。具体的には、ケモカインは白血球細胞膜表面に結合能力の強いインテグリンを誘導し、内皮細胞との強固な接着を可能にします。
参考)白血球走化因子

一方、サイトカインはより幅広いシグナル伝達の役割を果たします。細胞の成長、分化、活性化、増殖、免疫応答の調節など、多様な生理機能に影響を及ぼします。例えば、TNF-αやIL-1、IL-6といったサイトカインは、ウイルス侵入時に周辺の細胞に危険を知らせる「警報」として機能し、発熱や倦怠感を引き起こします。また、サイトカインは免疫細胞を活性化させて異物を排除する「アクセル」の役割と、過剰な免疫反応を鎮める「ブレーキ」の役割を両立させる絶妙なバランス制御機能を持ちます。​
分子量の観点からも違いが見られ、ケモカインは比較的小さな分子量を持つのに対し、他のサイトカインはより大きな分子量を持つ傾向があります。これらの機能的違いにもかかわらず、ケモカインとサイトカインの機能は大幅に重複しており、多くの場合、体の防御機構を調整するために連携して機能します。
参考)https://www.kanto-ctr-hsp.com/patient/department/images/byori/pdf/201208.pdf

炎症反応におけるケモカインとサイトカインの協調作用

炎症反応において、ケモカインとサイトカインは密接に協調して働きます。感染や組織損傷が起こると、まずマクロファージや内皮細胞などが炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6など)を産生し、これが炎症反応の開始シグナルとなります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10637585/

これらのサイトカインは内皮細胞を活性化し、血管細胞接着分子(VCAM)や細胞間接着分子(ICAM)の発現を誘導します。同時に、局所で産生されたケモカインは血管内を流れる白血球に作用し、白血球表面のインテグリンを活性化させます。活性化されたインテグリンが内皮細胞のICAMやVCAMと結合することで、白血球は血管内皮に強固に接着します。​
接着した白血球は、ケモカインの濃度勾配に従って血管外へと遊走し、炎症部位へと集積します。この過程では、IL-8(CXCL8)が好中球の遊走に、CCケモカイン群が単球やリンパ球の遊走に中心的な役割を果たします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1870893/

このように、サイトカインが炎症の「警報」と「準備」を担い、ケモカインが免疫細胞の「誘導」を担うという機能分担により、効率的な免疫応答が実現されています。しかし、この協調作用が過剰になると、サイトカインストームと呼ばれる病的状態を引き起こし、多臓器不全などの重篤な合併症につながる可能性があります。​

臨床応用と医療における重要性

ケモカインとサイトカインは、現代医療において診断・治療の両面で重要な役割を果たしています。
参考)サイトカイン・ケモカインの臨床応用 (臨床検査 45巻1号)…

治療への応用として、サイトカイン自体を治療薬として利用する方法と、サイトカインの作用をブロックする抗サイトカイン療法の2つのアプローチがあります。前者の例として、IL-2は血管肉腫や胃がんに、G-CSFやエリスロポエチンは血液疾患に広く使用されています。インターフェロンもウイルス感染症や一部の悪性腫瘍の治療に臨床応用されています。​
抗サイトカイン療法は、関節リウマチなどの自己免疫疾患、慢性炎症性疾患の治療に革新をもたらしました。TNF-α阻害薬、IL-6受容体抗体などの抗体医薬品が開発され、これらの疾患の病態進行を効果的に抑制できるようになっています。
参考)https://www.scas.co.jp/development/scas-news/sn-back-issues/pdf/54/SCASNEWS2021-2_web_p17-20.pdf

診断への応用では、可溶性IL-2受容体(sIL-2R)が非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病(ATL)のバイオマーカーとして使用されています。また、重症薬疹の早期診断において、特定のサイトカインやケモカインの測定が有用であることが報告されています。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610039A_upload/201610039A0033.pdf

近年、免疫療法の進展に伴い、サイトカイン放出症候群(CRS)への対応が重要課題となっています。CARーT細胞療法などの強力な免疫療法では、大量のサイトカイン放出が生じ、時に致命的な副作用となるため、サイトカイン測定による早期検出と適切な管理が求められています。​
ケモカインとその受容体を標的とした創薬も活発に進められており、炎症性疾患、がんの転移抑制、感染症など幅広い領域での治療応用が期待されています。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H02755/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H02755/amp;mdash; 研究課題をさがす

 

 


ケモカインと疾患: その基礎と臨床