タキサン系抗癌剤は、細胞分裂に関わる微小管を阻害することでがん細胞の増殖を抑制する微小管阻害薬の一分類です。1963年に太平洋イチイの樹皮から強力な抗腫瘍性物質が発見されたことに始まり、現在では固形腫瘍の標準治療に組み込まれている重要な抗癌剤群となっています。
参考)https://oncolo.jp/dictionary/takisan-kei-yakuzai
タキサンとは、イチイ科の植物から単離・精製されたタキサン環をもつジテルペノイドの総称であり、1990年代に開発されて以来、臨床に広く用いられています。
現在使用されているタキサン系抗癌剤は以下の3種類です:
これらの薬剤は微小管を阻害する点では共通していますが、タキサン系薬剤は「役割を終えた微小管に働きかける」点が他の微小管阻害薬とは異なる特徴です。
パクリタキセルは太平洋イチイの樹皮から抽出された最初のタキサン系抗癌剤で、現在では多数の製剤が市場に存在しています。
参考)https://www.nihs.go.jp/mpj/taxans.htm
パクリタキセル製剤の主な種類:
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG01430
参考)https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2019/2020/yakuzai.html
アブラキサンは従来のパクリタキセルとは異なり、アルブミンに結合させた特殊な製剤で、溶媒による過敏反応のリスクが低減された革新的な薬剤です。これにより前投薬の必要性が減り、患者の負担軽減につながっています。
パクリタキセルは元々樹皮から生成されるため樹木伐採による環境問題が懸念されましたが、現在では半合成や細胞培養による製造が主流となっています。
ドセタキセルはヨーロッパイチイの針葉より抽出された前駆物質から半合成される薬剤で、パクリタキセルよりも水溶性が高く、より強力な抗腫瘍効果を示すことが知られています。
ドセタキセル製剤の詳細な種類:
ドセタキセルは肺がん、乳がん、胃がん、前立腺がんなど幅広いがん種に対して単剤または他の抗癌剤との併用で使用されています。特に非小細胞肺がんや転移性乳がんの標準治療として重要な位置を占めています。
タキサン系抗癌剤の作用機序は、細胞分裂時に重要な役割を果たす微小管への結合と安定化です。通常の細胞分裂では、微小管が重合と脱重合を繰り返すことで染色体の分離が行われますが、タキサン系薬剤は微小管に結合してその重合を促進・安定化させ、脱重合を阻害します。
参考)https://oncolo.jp/dic/taxane
薬理学的メカニズムの詳細:
この作用により、活発に分裂するがん細胞を選択的に攻撃することができます。しかし、正常細胞の中でも分裂が盛んな造血細胞や毛根細胞、消化管粘膜細胞なども影響を受けるため、副作用が生じます。
タキサン系抗癌剤の血中濃度には5-10倍の個体差があり、血中濃度上昇に伴う重篤な毒性の出現が報告されているため、投与時には慎重な監視が必要です。
興味深いことに、パクリタキセルとドセタキセルは同じタキサン系でありながら、微小管への結合部位や結合親和性に違いがあり、これが臨床効果や副作用プロファイルの違いに影響していると考えられています。
タキサン系抗癌剤は多くのがん腫において高い有効性が確認されており、現在では様々な固形腫瘍の標準治療に組み込まれています。
主な適応疾患と使用実績:
参考)http://www.vol-net.jp/flow/drug.html
特に注目すべきは、ホルモン抵抗性前立腺がんに対するドセタキセル療法で、QOLの改善と生存期間の延長が多くの臨床試験で実証されています。また、術前化学療法無効の食道癌に対する術後補助化学療法としての有効性も報告されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9d5c54d53ee28e6c12dcddf8944668280025bf4c