慢性腎臓病(CKD)における腎不全のステージ分類は、病気の進行度を客観的に評価し、適切な治療戦略を決定するための重要な指標です。この分類システムは、糸球体濾過量(GFR)と蛋白尿の程度を組み合わせることで、患者の腎機能の状態を正確に把握できるように設計されています 。
参考)腎臓の機能をチェックしてみましょう
現在、世界的に標準化されたCKD重症度分類では、G1からG5までの6段階のGFR区分と、A1からA3までの蛋白尿区分を組み合わせたCGA分類が使用されています。この分類により、腎不全の進行度だけでなく、将来の心血管疾患リスクや生命予後も予測することが可能となります 。
参考)腎不全の診断
腎不全のステージG1(GFR≧90)は、腎障害は存在するものの腎機能は正常または軽度低下の状態を示します。この段階では、血液検査で軽微な異常が見つかったり、尿検査でタンパク尿や血尿が認められることがありますが、多くの患者では自覚症状はありません 。
参考)慢性腎不全(CKD)
ステージG2(GFR 60-89)では、軽度の腎機能低下が認められますが、依然として症状はほとんど現れません。しかし、この段階でも適切な治療介入により、腎機能の回復や進行の抑制が期待できるため、生活習慣の改善と原因疾患の治療が重要となります 。
参考)腎不全の進行度がわかるCKDステージとステージ毎の症状・治療…
早期段階での対策としては、高血圧や糖尿病などの基礎疾患の厳格な管理、禁煙、適正体重の維持(BMI25未満)、定期的な運動習慣の確立が推奨されています。また、腎毒性のある薬剤の使用を避け、定期的な血液・尿検査による経過観察を行うことが必要です 。
参考)腎臓病のステージと進行
腎不全のステージG3は、G3a(GFR 45-59)とG3b(GFR 30-44)に細分化されており、腎機能が正常の約半分程度まで低下した状態を表します。この段階から様々な合併症が出現し始め、患者の生活の質に大きな影響を与える可能性があります 。
G3aでは、電解質バランスの軽度な異常、夜間頻尿、軽度の疲労感などが現れ始めます。G3bに進行すると、むくみ、手足のつり、腎性貧血による顔色の悪さや息切れ、高血圧の悪化などの症状がより顕著になります 。
参考)合併症について
治療方針としては、ACE阻害薬やARBによる腎保護療法、スタチンによる脂質管理、NSAIDsの使用制限などが重要となります。また、この段階から腎臓専門医による定期的な管理が推奨され、合併症の予防と進行抑制に重点を置いた治療が行われます 。
参考)慢性腎臓病・腎不全を医師が解説
腎不全のステージG4(GFR 15-29)では、腎機能が高度に低下し、様々な尿毒症症状が出現します。体のだるさ、頭痛、吐き気、食欲低下、睡眠障害などの全身症状に加え、高カリウム血症や代謝性アシドーシスなどの生命に関わる合併症のリスクが高まります 。
ステージG5(GFR<15)は末期腎不全と呼ばれ、腎機能が極度に低下した状態です。肺水腫、心不全、呼吸困難、意識障害などの重篤な症状が現れ、腎代替療法(透析療法や腎移植)の導入が必要となります 。
参考)BLOG第350回 透析導入の適切なタイミングについて②
透析導入の適応は、単純にGFRの数値だけでなく、尿毒症症状の程度、栄養状態、日常生活への影響を総合的に判断して決定されます。一般的にはGFR 15未満で導入の検討が始まり、GFR 8-10程度で症状が出現することが多いとされています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/46/12/46_1134/_pdf/-char/en
各腎不全ステージにおいて特有の合併症が出現するため、ステージに応じた適切な管理が必要です。ステージG3以降では、心血管疾患、骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)、腎性貧血、二次性副甲状腺機能亢進症などの管理が重要となります 。
参考)コラム
CKD-MBDは、活性型ビタミンDの産生低下により血中カルシウムが低下し、代償的に副甲状腺ホルモン(PTH)が亢進する病態です。この結果、骨からのカルシウム流出が進み、骨がもろくなると同時に血管の石灰化が進行し、心血管疾患のリスクが増大します 。
参考)1.腎臓の構造と働き-一般のみなさまへ-一般社団法人 日本腎…
腎性貧血は、腎臓で産生されるエリスロポエチンの減少により生じ、動悸、息切れ、めまいなどの症状を引き起こします。また、高カリウム血症は不整脈や心停止のリスクがあり、食事療法による管理が重要です 。
参考)慢性腎臓病の食事療法
腎不全の進行に伴い、食事療法の内容も段階的に調整する必要があります。ステージG1-G2では生活習慣病の管理が中心ですが、G3以降では腎機能保護を目的とした特殊な栄養管理が必要となります 。
参考)よくわかる基礎知識
タンパク質制限は腎不全治療の基本で、糸球体過剰濾過を防ぎ腎機能低下の進行を遅らせる効果があります。ステージG3では0.8-1.0g/kg体重/日、G4-G5では0.6-0.8g/kg体重/日程度の制限が推奨されています 。
塩分制限(6g/日未満)は高血圧や体液貯留の管理に重要で、カリウム制限は高カリウム血症の予防に必要です。また、リン制限は骨ミネラル代謝異常の進行抑制に有効であり、ステージが進行するほど厳格な管理が求められます 。