乾癬の症状と治療方法について
乾癬の基本知識
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疫学と発症機序
日本人の約0.3%が罹患する免疫介在性炎症性皮膚疾患。T細胞の過剰活性化とサイトカインの異常分泌が主な病態。
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主な症状
境界明瞭な紅斑、皮膚の肥厚、銀白色の鱗屑を特徴とし、かゆみを伴うことも。関節炎を併発するケースもある。
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治療アプローチ
症状の重症度に応じて段階的に外用療法、光線療法、全身療法を選択。患者のQOL向上を目指した包括的ケアが重要。
乾癬の主な症状と病型分類
乾癬は、皮膚の角化サイクルが著しく短縮し、通常28~30日かかる皮膚細胞の生まれ変わりが3~5日で起こることで特徴づけられる慢性炎症性疾患です。この異常な細胞増殖によって、特徴的な皮膚症状が現れます。
乾癬の主な皮膚症状は以下の3つに分類されます。
- 紅斑:皮膚の炎症による赤み
- 肥厚:皮膚の炎症による盛り上がり
- 鱗屑:皮膚表面に付着する銀白色のかさぶた状の角質層
これらの症状は身体の特定部位に好発します。特に肘、膝、頭皮、腰背部など、外部からの摩擦や刺激を受けやすい部位に多く見られます。また、約60~90%の患者さんにはかゆみも伴いますが、その強さには個人差があります。
乾癬は症状の現れ方によって、以下の5つの主要な病型に分類されます。
- 尋常性乾癬(プラーク型):最も一般的で、乾癬患者の80~90%を占めます。境界明瞭な赤色局面と厚い鱗屑を呈し、肘、膝、頭皮などに好発します。
- 滴状乾癬:小さな赤い斑点(直径数mm~1cm程度)が全身に多発します。主に小児から若年者に多く、溶連菌感染後に誘発されることが多いのが特徴です。
- 膿疱性乾癬:無菌性膿疱を伴う比較的まれな型です。限局型(掌蹠膿疱症)と全身型(汎発性膿疱性乾癬)があります。後者は発熱などの全身症状を伴い重篤となる場合があります。
- 乾癬性関節炎:乾癬患者の10~30%に見られる炎症性関節炎です。指の腫れ(ソーセージ指)や関節の痛みを特徴とします。皮膚症状が軽度でも関節症状が重篤になることもあり、注意が必要です。
- 紅皮症型乾癬:身体の80%以上が赤くなり、発熱、悪寒、倦怠感などの全身症状を伴う最重症型の一つです。
また、乾癬患者には高血圧(42%)、脂質異常症(30%)、糖尿病(24%)などのメタボリックシンドローム関連疾患の合併が多いことが知られており、全身管理の観点からも注意が必要です。
乾癬の外用療法と内服薬による治療
乾癬の治療は症状の重症度や範囲に応じて段階的に行われます。軽症から中等症の乾癬に対しては、まず外用療法から開始するのが一般的です。
【外用療法】
外用療法は乾癬治療の基本となります。主に以下の薬剤が使用されます。
- ステロイド外用薬:炎症を抑える作用があり、乾癬の赤みや腫れを軽減します。効果は比較的早く現れますが、長期連用による副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張など)に注意が必要です。
- 活性型ビタミンD3製剤:皮膚の新陳代謝を調整し、正常な皮膚の形成を促進します。ステロイドと比較して即効性は劣りますが、長期使用の安全性が高いことが特徴です。
- ビタミンD3とステロイドの配合剤:マーデュオックス、ドボベットなどが代表的で、両剤の利点を組み合わせた外用薬です。一日一回の塗布で済み、使いやすさが特徴です。
- コムクロシャンプー:頭皮の乾癬に効果的なステロイド成分含有シャンプーです。15分間頭皮に付けた後に洗い流すという使用方法で、副作用も出にくいとされています。
【内服療法】
外用薬で効果が不十分な場合や、皮疹が広範囲に及ぶ中等症から重症例では内服治療が検討されます。主な内服薬には以下のものがあります。
- ビタミンA誘導体:チガソンカプセル(一般名:エトレチナート)などが代表的で、皮膚細胞の過剰な増殖を抑制します。催奇形性があるため、妊娠可能な女性への使用には厳重な避妊指導が必要です。
- 免疫抑制薬。
- ネオーラルカプセル(一般名:シクロスポリン):T細胞の活性化を抑制し、サイトカイン産生を減少させます。
- メトトレキサート:核酸合成を阻害し、炎症細胞の増殖を抑制します。
- PDE4阻害薬:オテズラ錠(一般名:アプレミラスト)は、炎症性サイトカインの産生を抑制し、乾癬の炎症を軽減します。他の免疫抑制薬と比較して感染症リスクが低いという利点があります。
注意すべき点として、ステロイドの内服は膿疱性乾癬を誘発する可能性があるため、乾癬治療では一般的に推奨されていません。
また、かゆみに対する抗ヒスタミン薬や、乾癬性関節炎の痛みに対する消炎鎮痛薬などの対症療法も、患者のQOL向上のために重要な役割を果たします。
乾癬の光線療法と生物学的製剤
乾癬の治療において、外用療法や内服療法で十分な効果が得られない場合や、広範囲に症状がある場合には、光線療法や生物学的製剤による治療が検討されます。
【光線療法】
光線療法は乾癬治療において古くから用いられてきた方法です。夏に症状が改善する患者が多いことから、紫外線の治療効果は経験的に知られていました。
- ナローバンドUVB:311~312nmの波長域に絞った紫外線B波を照射する方法です。従来の広帯域UVBと比較して効果が高く、副作用が少ないとされています。週に1~3回の頻度で照射を行います。
- エキシマレーザー:308nmの単一波長の紫外線を病変部のみに照射できるため、健常皮膚への影響を最小限に抑えることができます。限局した病変に対して有効です。
- PUVA療法(ソラレン+UVA):光感受性物質であるソラレンを内服または外用した後にUVA(長波長紫外線)を照射する方法です。強力な効果がある一方で、長期使用による皮膚癌発生リスクの増加が懸念されるため、現在はナローバンドUVBが主流となっています。
光線療法は単独で用いられる場合もありますが、外用療法や内服療法と併用することでより高い効果を発揮することが多いです。
【生物学的製剤】
生物学的製剤は、乾癬の病態に関わる特定のサイトカインやその受容体を標的として作用する分子標的薬です。近年、乾癬治療において画期的な進歩をもたらしています。
主な生物学的製剤とその作用機序は以下の通りです。
- TNF-α阻害薬:ヒュミラ(アダリムマブ)など。炎症性サイトカインであるTNF-αの作用を阻害します。
- IL-17阻害薬:コセンティクス(セクキヌマブ)など。IL-17というサイトカインの働きを抑制します。
- IL-23阻害薬:トレムフィア(グセルクマブ)、スキリージ(リサンキズマブ)など。IL-23の作用を阻害し、下流のTh17細胞活性化とIL-17産生を抑制します。
生物学的製剤は優れた効果を示す一方で、高額な医療費、感染症リスクの上昇、一部の患者での効果不足や効果減弱など、いくつかの課題も存在します。また、使用には日本皮膚科学会による「乾癬分子標的薬使用承認施設」の認定が必要となります。
生物学的製剤を使用する前には、結核やB型肝炎などの感染症スクリーニングが必須であり、治療中も定期的な検査によるモニタリングが重要です。
乾癬のライフスタイル管理と予防戦略
乾癬は遺伝的要因に環境因子が加わって発症する疾患であり、完全な治癒は難しいものの、適切な生活習慣の修正により症状のコントロールが可能になることが多いです。医療従事者として、患者に以下のライフスタイル管理と予防戦略を指導することが重要です。
【乾癬悪化因子の回避】
乾癬の症状悪化に関連する因子として、以下のポイントについて患者教育を行いましょう。
- 感染症対策:風邪や扁桃炎などの感染症が乾癬発症や悪化のきっかけになることがあります。特に滴状乾癬では溶連菌感染後に誘発されることが多いため、手洗い・うがいの励行や十分な睡眠確保など、基本的な感染予防対策を指導します。
- ストレス管理:精神的ストレスは乾癬の悪化因子として知られています。ストレス軽減のために趣味や適度な運動、必要に応じてリラクゼーション技法の実践などを勧めます。
- メタボリックシンドローム対策:乾癬患者はメタボリックシンドローム関連疾患(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)の合併率が高く、これらの疾患は乾癬の重症度とも関連します。肥満の是正、健康的な食生活、定期的な健康診断の受診を勧めましょう。
- 薬剤の影響確認:一部の高血圧治療薬など、他疾患治療のための薬剤が乾癬を悪化させることがあります。新たな薬剤導入後に症状が悪化した場合は、自己判断での中断をせず、必ず医師に相談するよう指導します。
【日常生活の注意点】
乾癬患者の日常生活での具体的な注意点を以下にまとめます。
- スキンケア。
- 入浴は熱すぎない温度(38℃〜40℃程度)で、長時間の入浴は避ける
- 強くこすらずに優しく洗う(ケブネル現象予防のため)
- 入浴後は保湿剤で皮膚の乾燥を予防する
- 衣類選び。
- 皮膚への摩擦を減らすためにゆとりのある服を選ぶ
- 肌刺激の少ない綿素材を優先し、ウールや化学繊維は避ける
- 寝具(枕カバー、シーツなど)も刺激の少ない素材を選ぶ
- 日光浴:過度の日焼けには注意しつつ、適度な日光浴は症状改善に有効な場合が多いです。特に冬季の症状悪化時には、短時間の日光浴を勧めることも検討します。
【患者教育と心理的サポート】
乾癬は目に見える皮膚症状があるため、患者の心理面にも配慮した総合的なアプローチが必要です。
- 治療の継続性:乾癬は慢性疾患であり、症状が軽減しても治療を自己中断せず継続することの重要性を説明します。
- 定期的な受診と相談:症状の変化や治療に関する疑問点があれば、積極的に主治医に相談するよう促します。
- 患者コミュニティの紹介:必要に応じて、乾癬患者の会などのサポートグループを紹介し、同じ悩みを持つ患者同士のつながりを支援します。
これらのライフスタイル管理と予防戦略は、薬物療法と併用することで相乗効果を発揮し、乾癬患者のQOL向上に大きく貢献します。
乾癬治療における水素療法と免疫調整アプローチの新展開
乾癬治療は近年急速に進化しており、従来の治療法に加えて新たなアプローチが研究・開発されています。特に注目されているのは、酸化ストレス軽減を目指す水素療法と、より特異的な免疫調整を行う新規治療です。
【水素療法の可能性】
最新の研究では、水素吸入療法が乾癬の症状緩和に有効である可能性が示唆されています。水素の主な作用機序として以下が考えられています。
- 抗酸化作用:水素は強力な抗酸化作用を持ち、乾癬の病態形成に関与する活性酸素種(ROS)を選択的に除去します。ROSの過剰産生は角化細胞の増殖亢進や免疫応答の異常活性化を促進するため、その抑制は乾癬の炎症制御に重要です。
- 抗炎症作用:水素には炎症性サイトカイン産生を抑制する効果があり、乾癬の主要な病態である炎症カスケードを抑制します。
- 補助療法としての位置づけ:水素療法は従来の治療法に追加する補助療法として、特に従来治療で効果不十分な難治性乾癬に対する新たな選択肢となる可能性があります。
水素療法は副作用が少なく、他の治療法との併用も可能であるため、今後のさらなる研究と臨床応用が期待されています。
【新たな免疫調整アプローチ】
乾癬の病態理解が進むにつれ、より特異的な免疫調整を目指した新規治療薬の開発も進んでいます。
- JAK阻害薬:ヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害することで、複数の炎症性サイトカインのシグナル伝達を同時に抑制します。既に関節リウマチや他の免疫疾患で使用されており、乾癬および乾癬性関節炎への適応拡大が進んでいます。経口投与が可能で、生物学的製剤との使い分けや併用療法が検討されています。
- TYK2阻害薬:JAKファミリーに属するチロシンキナーゼ2(TYK2)を特異的に阻害する薬剤の開発が進んでいます。IL-23、IL-12、I型インターフェロンのシグナル伝達を選択的に阻害することで、より標的を絞った治療効果と安全性の向上が期待されています。
- バイオシミラー製剤の普及:既存の生物学的製剤のバイオシミラーの開発が進み、高額な医療費という課題を緩和する可能性があります。これにより、より多くの患者が生物学的製剤による治療を受けられるようになることが期待されます。
- 個別化医療の展開:遺伝子解析技術の進歩により、患者一人ひとりの遺伝的背景や炎症プロファイルに基づいた治療選択(治療反応性予測など)が可能になりつつあります。これにより、より効率的で副作用の少ない治療が実現する可能性があります。
【統合医療的アプローチ】
乾癬治療においては、西洋医学的治療に加えて、患者のQOL向上を目指した統合医療的アプローチも注目されています。
- 食事療法:抗炎症作用を持つオメガ3脂肪酸の摂取増加や、一部の患者で報告されているグルテンフリー食などの食事調整が補助的役割を果たす可能性があります。ただし、科学的エビデンスの蓄積は今後の課題です。
- マインドフルネスや認知行動療法:ストレス管理を通じて乾癬の増悪因子を制御し、患者のセルフケア意識向上と治療アドヒアランス改善に寄与する可能性があります。
新たな治療アプローチは、従来の治療法と組み合わせることで、より効果的で患者負担の少ない乾癬治療の実現を目指しています。医療従事者は、これらの新しい選択肢について最新情報を収集し、個々の患者に最適な治療法を提案できるよう努めることが重要です。