放射性ヨウ素の副作用と甲状腺治療後の注意事項

放射性ヨウ素治療における副作用と症状について詳しく解説します。甲状腺がんやバセドウ病の治療で知っておくべき情報とは?

放射性ヨウ素治療の副作用

放射性ヨウ素治療の主な副作用
🩺
甲状腺機能低下症状

倦怠感、むくみ、体重増加、体温低下などが出現

💊
放射線による直接的症状

吐き気、耳下腺腫脹、味覚障害、唾液分泌低下など

⚠️
長期的リスク

二次発癌の可能性、不妊への影響など

放射性ヨウ素治療の甲状腺機能低下症状

放射性ヨウ素治療における副作用は大きく2つの種類に分けられます 。第一の副作用は、治療前に行う甲状腺ホルモン剤の中止によって生じる甲状腺機能低下症状です 。
参考)放射線治療(ヨウ素治療)

 

具体的な症状として、以下のようなものが現れます。

  • 倦怠感と全身のだるさ
  • むくみ(浮腫)
  • 体重増加
  • 体温低下
  • 気力の低下

これらの症状は治療の4週間前から甲状腺ホルモン剤(チラーヂンなど)の服用を中止するために起こります 。幸い、これらの症状は治療後にホルモン剤の服用を再開することで次第に改善していきます 。
参考)https://housya.hiroshima-u.ac.jp/medical/disease201310.pdf

 

バセドウ病の場合は、治療後1〜2ヶ月頃から徐々に症状が改善し、首の腫れが軽減してきます 。しかし、放射線の影響で甲状腺ホルモンの分泌量が低下しすぎた場合、永続的な甲状腺機能低下症になる可能性があります 。
参考)https://www.pdradiopharma.com/wpeptip/wp-content/themes/wpeptip/_assets/docs/pdf/hcw/imagedb/ptt3_0.pdf

 

放射性ヨウ素の消化器・唾液腺への副作用

内服した放射性ヨウ素は病変に取り込まれるだけでなく、消化管や耳下腺などの唾液腺にも取り込まれるため、さまざまな副作用が現れます 。
参考)甲状腺癌の放射性ヨード治療

 

主な消化器系と唾液腺系の副作用。

  • 吐き気・嘔吐:消化管への放射線の影響
  • 耳下腺部の腫れと痛み:唾液腺への取り込みによる
  • 唾液分泌低下(口渇):唾液腺の機能低下
  • 味覚障害:味覚細胞への影響
  • 気分不快・全身倦怠感:放射線の全身への影響

これらの症状は放射性ヨウ素摂取後しばらくしてから出現し、一般的には一過性です 。ほとんどの場合、時間の経過とともに改善しますが、ヨウ素治療を何度も繰り返した患者では、味覚の変化や唾液の出にくさが残る場合もあります 。

放射性ヨウ素治療の血液・アレルギー系副作用

頻度は稀ですが、放射性ヨウ素治療では血液系やアレルギー系の副作用も報告されています 。
血液系の副作用として以下が挙げられます。

  • 白血球減少:骨髄への放射線影響
  • ヘモグロビン減少:赤血球産生への影響
  • 血小板減少:血小板産生能の低下

アレルギー系反応として。

  • 発疹:皮膚への過敏反応
  • 喉頭浮腫:気道の腫脹による呼吸困難
  • 血管迷走神経反応:自律神経の失調による失神様症状
  • アレルギー反応:薬剤に対する過敏症

これらの副作用の発生頻度は非常に低いものの、治療前には十分な問診と既往歴の確認が重要です。特に若年者に対するアイソトープ治療は、成人より甲状腺癌発生の可能性が高いことが報告されているため、慎重な適応判断が必要です 。

放射性ヨウ素治療の長期的な影響と安全性

放射性ヨウ素治療の長期的な副作用として、二次発癌のリスクが極めて小さな確率で存在します 。しかし、このリスクと比較して本治療により得られる治療利益の方が勝ると考えられています 。
妊娠・出産への影響については、以下の点が重要です。

  • 妊娠中の使用禁止:放射線が胎児に影響するため
  • 授乳の中止:放射性物質の乳汁への移行
  • 妊娠計画への影響:1年以内の妊娠は推奨されない
  • 不妊への影響:治療が原因で不妊が生じることはない

最新の研究では、ヨウ素摂取量が多い日本のような地域では、従来考えられていたほど厳格なヨウ素制限は必要でない可能性が示唆されています 。2024年の名古屋大学の研究によると、治療時の尿中ヨウ素濃度と成功率に関連がないことが明らかになりました 。
参考)ヨウ素摂取量が多い地域におけるバセドウ病放射性ヨウ素内用療法…

 

また、甲状腺がん患者に対する放射性ヨウ素治療の安全性について、継続的なモニタリングが実施されており、九州大学病院では1984年から年間150〜180人の患者が治療を受けている実績があります 。

放射性ヨウ素治療後の生活注意事項と対策

放射性ヨウ素治療後は、体内の放射性物質が基準値以下になるまで特別な注意が必要です 。
参考)https://oncology.jsnm.org/sites/default/files/pdf/thyroid-guideline_2018-06.pdf

 

治療直後の制限事項

  • 個室隔離:放射線が基準値まで低下するまで4〜7日間
  • 面会・外出禁止:他者への被曝防止のため
  • 特別な排泄管理:トイレの水洗を2回流すなど
  • 寝具・衣類の分離:他の人との共用を避ける

退院後の生活制限

  • 小児・妊婦との距離保持:1m以上の距離、15分以内の接触
  • 長距離移動の制限:列車・飛行機での6時間以上の移動禁止
  • 水分摂取の推奨:放射性ヨウ素の排泄促進
  • 患者情報カードの携行:緊急時の対応のため

食事制限の継続
治療後も一定期間、ヨウ素を含む食品の制限が必要です :

  • 海藻類(昆布、わかめ、ひじき、のり)の摂取禁止
  • 魚介類(ただし、いか・たこ・鮭・えび・ほたては摂取可能)
  • ヨウ素含有調味料の使用禁止
  • 昆布だし、寒天使用食品の摂取禁止

これらの制限により、放射性ヨウ素が効率的に病変部に集積し、治療効果を最大化できます。また、周囲への放射線影響を最小限に抑えることで、安全な治療環境を維持できます 。