半月板損傷が「一生治らない」と言われる最大の理由は、半月板の血流分布にあります。半月板は血管分布により3つのゾーンに分類されます。
内側2/3の損傷が「一生治らない」と表現される理由は、修復に必要な栄養素や成長因子が血液によって運ばれないためです。この血流の乏しさが、半月板損傷の治癒を困難にする生理学的根拠となっています。
興味深いことに、40歳を超えると半月板に含まれる水分量が急激に減少し、クッション機能が著しく低下することが報告されています。これにより、日常生活動作でも損傷リスクが高まり、一度損傷すると修復がより困難になります。
半月板損傷による症状は段階的に進行し、最終的に変形性膝関節症へ発展するリスクがあります。主な症状の進行パターンは以下の通りです。
初期症状
進行期症状
末期症状
ロッキング現象は、損傷した半月板の破片が関節内で挟まることで発生し、これが出現した場合は手術適応となることが多いとされています。また、半月板損傷を放置すると軟骨の摩耗が進行し、将来的に人工関節置換術が必要になる可能性があります。
保存療法は手術を行わない治療法として広く実施されていますが、その効果には明確な限界があります。主な保存療法には以下があります。
薬物療法
装具療法
保存療法の限界として、内側2/3の損傷では症状の改善が期待できないことが挙げられます。特に血流のない部位の損傷では、いくら保存的治療を継続しても根本的な修復は望めません。
しかし、全ての半月板損傷が手術適応ではないことも重要なポイントです。軽度の損傷や症状が軽微な場合、適切な保存療法により日常生活に支障のないレベルまで回復することが可能です。
手術療法は関節鏡を用いた低侵襲手術が主流となっており、主に2つの術式があります。
半月板縫合術
半月板部分切除術
近年注目されているフィブリンクロット法は、患者自身の血液から作製したフィブリンクロットを接着剤として使用し、血流の乏しい部位の治癒を促進する革新的な手術法です。この方法により、従来は「治らない」とされた内側の損傷でも治癒が期待できるようになりました。
手術成績については、縫合術で80-90%の良好な結果が報告されていますが、部分切除術では長期的に関節変形が進行するリスクが指摘されています。そのため、可能な限り半月板を温存する縫合術が推奨されています。
従来の「半月板損傷は一生治らない」という概念を覆す可能性を持つのが再生医療です。主な再生医療として以下が実施されています。
PRP療法(多血小板血漿療法)
幹細胞療法
最近の研究では、PRP-FD治療により軟骨体積の増加が確認されており、従来の対症療法とは異なる根本的治療の可能性が示唆されています。
また、「一生治らない」という診断が患者に与える心理的影響も重要な考慮点です。この診断により以下のような心理的問題が生じることがあります。
医療従事者として、患者に「一生治らない」と断定的に伝えるのではなく、血流分布による治癒可能性の違いや、保存療法から再生医療まで幅広い治療選択肢があることを説明し、希望を持続できるような情報提供が重要です。
実際に、適切な治療により登山やマラソンなどのスポーツに復帰した症例も多数報告されており6、「一生治らない」は必ずしも正確な表現ではないことが明らかになっています。
患者個別の症状、年齢、活動レベル、治療に対する希望を総合的に評価し、最適な治療方針を決定することが、半月板損傷治療における医療従事者の重要な役割と言えるでしょう。