ゴシツ(牛膝)は、ヒナタイノコズチ(Achyranthes bidentata)またはAchyranthes fauriei の根を基原とする生薬で、日本薬局方に収載されています。漢方医学において、ゴシツは通経、利尿、筋骨を強める作用を持つとされ、特に下半身の症状に対して重要な役割を果たします。
主要な効能として以下が挙げられます。
ゴシツに含まれる主要成分には、chikusetsusaponin IVa、V、achyranthoside C、Dなどのサポニン類があり、これらが薬理作用の中心となっています。また、多量のカリウム塩や粘液質も含有しており、利尿作用や抗炎症作用に寄与していると考えられています。
ゴシツは単独で使用されることは少なく、多くの場合、複数の生薬と組み合わせた漢方処方として使用されます。代表的な処方には以下があります。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
体力が低下し、冷えを伴う高齢者に多用される処方です。ゴシツは血液循環を改善し、足腰の痛みやしびれを和らげる役割を担います。主な適応症は。
疎経活血湯(そけいかっけつとう)
関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛に使用される処方で、ゴシツが血行改善と鎮痛作用を発揮します。特に慢性的な痛みに対して効果的とされています。
折衝飲(せっしょういん)
婦人科疾患に使用される処方で、ゴシツの通経作用が重要な役割を果たします。
これらの処方において、ゴシツは他の生薬との相乗効果により、単独では得られない治療効果を発揮します。
ゴシツを含む漢方薬の副作用として、以下のような症状が報告されています。
消化器系副作用
これらの症状は、特に胃腸が弱い方や著しく胃腸機能が低下している方に現れやすい傾向があります。
皮膚症状
生薬に対する過敏反応として現れることがあり、症状が現れた場合は直ちに服用を中止する必要があります。
重篤な副作用
稀ではありますが、以下の重篤な副作用の報告もあります。
これらの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
ゴシツを含む漢方処方は、妊娠中の使用が禁忌とされています。これは、ゴシツに含まれる成分が子宮収縮を促進し、流産や早産のリスクを高める可能性があるためです。
妊娠中の禁忌理由
牛車腎気丸においては、ゴシツに加えてボタンピ(牡丹皮)も流早産のリスクを高める成分として知られており、さらにブシ末(附子末)の副作用も妊娠中は増強される可能性があります。
授乳中の注意
授乳中の女性についても、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を慎重に比較検討し、授乳の継続または中止を決定する必要があります。多くの場合、継続使用は避け、中止を検討することが推奨されています。
代替治療の検討
妊娠中や授乳中の女性に対しては、ゴシツを含まない他の治療選択肢を検討することが重要です。症状に応じて、より安全性の高い漢方処方や西洋薬への変更を検討する必要があります。
ゴシツの臨床効果を最大化するためには、品質管理と適切な使用法の理解が不可欠です。特に医療従事者が知っておくべき独自の視点について解説します。
産地による品質差
ゴシツには産地による品質差が存在します。中国産のAchyranthes bidentataを基原とするものは「懷(懐)牛膝」と呼ばれ、高品質とされています。一方、日本国内では奈良県や茨城県で栽培されており、品質の安定性が確保されています。
保存条件の重要性
ゴシツは天然物の性質上、吸湿性があり、保存法が悪いと変質しやすい特徴があります。適切な保存には以下の条件が必要です。
患者の体質判定における注意点
ゴシツを含む処方の適応決定には、患者の体質(証)の正確な判定が重要です。特に以下の点に注意が必要です。
現代医学との併用における考慮点
ゴシツを含む漢方薬と西洋薬の併用時には、以下の点を考慮する必要があります。
効果判定の時期
ゴシツを含む漢方薬の効果判定には適切な期間設定が重要です。一般的に、服用開始から1ヶ月程度で効果を評価し、全く効果を感じない場合や症状が悪化する場合は、体質に合っていない可能性や他の疾患が隠れている可能性を考慮する必要があります。
これらの独自視点を踏まえることで、ゴシツを含む漢方薬のより安全で効果的な臨床応用が可能となります。医療従事者として、患者一人ひとりの状態を総合的に評価し、最適な治療選択を行うことが重要です。
公益社団法人東京生薬協会によるゴシツの詳細な品質基準と成分情報
https://www.tokyo-shoyaku.com/wakan.php?id=81
ツムラによるゴシツ含有漢方薬の添付文書と安全性情報
https://www.carenet.com/drugs/category/crude-drugs-and-chinese-medicine-formulations/5100069X1081