笛音は気管支喘息患者の90%で頸部において聴取される特徴的な異常音です 。前胸部の頸部は笛音を最も確実に検出できる重要な聴診部位で、特に「はい、吸って~」「強くフーっと吐いて~」という声かけとともに強制呼気を行うことで、より明瞭な笛音の聴取が可能になります 。
参考)聴診器を当てるべき場所(疾患別)
頸部での笛音聴取には特筆すべき特徴があります。胸部で聴こえる笛音の90%は頸部でも聴こえるため、頸部聴診は笛音検出の効率的な方法として臨床で重要視されています 。また、笛音は複数の音が聴こえる場合(笛音の多重奏)と、1種類の音のみが聴こえる場合があり、複数の笛音が聴こえる場合は気管の狭窄を示唆する重要な所見となります 。
頸部で聴取される笛音の音の高さは、口元からの距離の近さに比例するのではなく、気管支壁の硬さと狭窄部位の狭さに依存することが重要な特徴です 。このため、頸部聴診による笛音の評価は、単純な距離的要因ではなく、病変の性質を反映する診断的価値の高い検査法といえます。
心尖部周辺での笛音聴取は、主に心疾患に関連した病態で重要な意味を持ちます。左第5肋間と鎖骨中線の交点(5LMCL)は心尖部に近い領域で、左心室や僧帽弁の異常がある場合に心雑音を聴取しやすい部位です 。この部位では、II音よりI音のほうが大きく聞こえることが特徴的で、心疾患による笛音様の異常音を検出する際の重要な聴診点となります。
参考)https://www.katsuyama-clinic.com/library/604598084ba764b90e383c40/67715e1251417f067cbccf7c.pdf
心尖部での笛音聴取は、特に左側臥位において明瞭になる傾向があります 。過剰心音であるIII音やIV音は心尖部、特に左側臥位で聴きやすく、これらが笛音様に聞こえる場合があります。IV音は心房収縮により心室へ駆出された血流が心室壁で急激に阻止された音であり、心室拡張末期圧上昇時に聴取されやすく、肺高血圧症や大動脈弁狭窄症などで聴取されます 。
参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) 過剰心音(href="https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-5.html" target="_blank">https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-5.htmlamp;#8546;…
心尖部周辺での笛音は、心不全の徴候として重要な診断的価値を持ちます。僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症、心筋梗塞、虚血性心疾患、心筋症、心筋炎などで聴取され、I、II、III音が引き続いて聴取されると馬の早駆けの音に似る奔馬調(gallop rhythm)を呈することがあります 。
笛音の発生は気管支の狭窄部位によって音響特性が大きく異なります。末梢側の細くて硬い気道で音が発生するため、笛音は比較的病変部に限局した音になる特徴があります 。この局在性により、喀痰などの分泌物の影響をあまり受けず、咳払いをしても音が変わらないという重要な診断的特徴を示します 。
参考)副雑音の特徴
細い気管支での笛音は、「ヒューヒュー、キューキュー、ピーピー」という表現で記述される400Hz以上の高音として聴取されます 。これは、狭窄した細い部分を空気が通過する際に発生する物理現象で、口笛で高い音を出すために口先をすぼめることと同様の原理です 。NHKの時報放送の「プッ」(440Hz)と同等か、それより高い音として覚えておくと臨床現場で識別しやすくなります 。
参考)聴診器で何を聴いてるの? - ブログ
太い気管支での狭窄では、笛音とは異なる「いびき音」が発生します。これは200-250Hz以下の低音で「グーグー」という音として聴取され、太くて柔らかい気道での狭窄や気道内分泌物によって発生します 。この音の区別は重要で、200-400Hzの間の音は人間の聴力では聴き分けが困難なため、どちらかの音に割り切って判定し、その後医師や上司に相談することが推奨されています 。
笛音の発生メカニズムは、気道の一部に機能的、器質的または分泌物による狭窄が生じることで、その部位で気流速度が増大するために発生すると説明されています 。その他に気流による気道壁の振動や共振が原因とする説もあり、複合的なメカニズムが関与していると考えられています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsvc1984/30/1/30_1_21/_pdf
音響学的特徴として、笛音は比較的大きな音として聴取されることが多く、音源が一カ所でも胸腔内で広く聴取されます 。主に呼気時に出現することが特徴的で、呼気終末期により明瞭に聴取される傾向があります 。これは、呼気時に気道が生理的に狭窄しやすくなるため、既存の狭窄部位での気流速度増大がより顕著になることが関係しています。
喘息患者での笛音の特徴は特に重要で、吸気と呼気の両方で笛音が聴こえることがあります 。この場合、頸部や胸部全体で聴こえ、特に呼気時に特徴的な高い笛音が強く聴こえることが診断の手がかりとなります。鳥が鳴いているような高音として表現され、複数の高さの音が混じった笛音として聴取されることも多く見られます 。
参考)気管支喘息患者さんの聴診音
体位変化は笛音の聴取に重要な影響を与える要因です。患者の体位によって聴診で聴こえる音の強弱が変わることがあり、特に間質性肺炎のように捻髪音が聴こえる患者で顕著に観察されます 。腹臥位またはそれに近い体位では、正常位のときに聴いた音に比べて音が弱く聴こえる現象が起こります 。
参考)呼吸音と体位の関係
この現象は、重力によって下肺野背側の肺が膨らむため、細気管支で閉塞が起こりにくくなることが原因です 。笛音についても同様の原理が適用され、体位によって気道の狭窄度合いが変化し、音の強度や明瞭度に影響を与えます。そのため、聴診時には患者の体位をしっかりと確認し、猫背や不良姿勢による音の変化を考慮することが重要です 。
臨床現場では、標準的な座位または立位での聴診を基本とし、必要に応じて側臥位や前傾位などの体位変換を行って笛音の変化を観察します。特に左側臥位は心音関連の笛音様異常音の聴取に有効で、心尖部での過剰心音やIII音、IV音の聴取に適した体位として推奨されています 。体位変化による音の変化は病態の理解と診断精度の向上に重要な情報を提供します。