ドケルバン病は手首の親指側に生じる腱鞘炎で、正式名称を「狭窄性腱鞘炎」といいます 。手首の背側第一コンパートメントを通る短母指伸筋腱と長母指外転筋腱の腱鞘に炎症が起こることで発症します 。
参考)https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/de_quervain_disease.html
症状の特徴として、物をつかんだりタオルを絞ったりする動作で手首の親指側に強い痛みが走り、腫れや腱鞘部分の圧痛も認められます 。炎症により腱の滑りが悪くなり、腱鞘が厚くなることで腱の通り道が狭窄し、さらなる摩擦と炎症の悪循環を引き起こします 。
参考)https://hospital.city.chiba.jp/aoba/department/section/orthopedics/hand_surgery/de-quervain/
病名の由来は1895年にスイスの外科医ドケルバン先生が最初に報告したことにちなんでおり 、現在でも世界中で使用される病名です。
ドケルバン病の主な原因は手指の過度な使用で、特に現代ではスマートフォンの長時間使用が大きなリスクファクターとなっています 。繰り返し動作による微細外傷の蓄積が腱鞘の炎症を引き起こし、症状に至ります 。
参考)https://www.a-seikei.com/column/1064/
特に発症しやすい人群として以下が挙げられます:
産後の場合は授乳終了とともに改善に向かうことが多いですが、更年期や骨格的要因がある場合は慢性化しやすく治療が困難になります 。
ドケルバン病の診断は主に臨床所見と整形外科的テストで行われ、典型的症状では画像検査を省略することも多いです 。
最も重要な診断テストがアイヒホッフ(Eichhoff)テストで、親指を握った状態で手首を小指側に曲げた際に手首の親指側に痛みが誘発される場合、ドケルバン病を強く疑います 。
参考)https://ar-ex.jp/sakudaira/664544406347/
フィンケルシュタインテストも診断に用いられ、手首をまっすぐ固定した状態で親指を反対の手で曲げて痛みを確認します 。ただし、これらのテストのみでは関節炎やばね指の可能性も否定できないため、総合的判断が必要です 。
必要に応じて超音波検査で炎症の程度を評価し、重症度判定に活用されます 。腱鞘の肥厚が2mm以上、ドップラーエコーでの炎症所見、腱の滑走障害などが重症化の指標となります 。
ドケルバン病の治療は段階的に行われ、軽症例では保存療法が第一選択となります 。最も重要なのは親指・手首をできる限り使わず安静にすることで、サポーターやテーピングによる固定が推奨されます 。
参考)https://mymc.jp/clinicblog/213689/
薬物療法では消炎鎮痛剤の内服・外用に加え、温熱療法により炎症を抑制します 。急性期でも適度なストレッチが推奨される場合があり、前腕部のストレッチが効果的とされています 。
保存療法で改善が得られない場合や症状が強い際には、ステロイド注射(局所麻酔併用)を腱鞘内に投与します 。この治療法は数ヶ月間効果が持続し、多くの症例で症状改善が期待できます 。
参考)https://ishigami-seikei-cl.com/%E7%96%BE%E6%82%A3%E5%88%A5%E8%AA%AC%E6%98%8E/%E3%83%89%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%B3%E7%97%85/
ただし、反復注射でも効果が不十分な場合や重症例では手術適応となります 。
参考)https://nishiharu-clinic.com/2023/08/28/de-quervain/
従来の手術法では局所麻酔下で皮膚を切開し、肥厚した腱鞘を切開して腱の通り道を拡張します 。腱鞘内の隔壁も切除し、2本の腱(短母指伸筋腱・長母指外転筋腱)の滑走を改善させます 。
近年では「切らない手術」として、独自の低侵襲手技を導入する施設も出現しており、早期の職場復帰・日常生活復帰が可能となっています 。この新しい手法では従来の切開手術に比べ、感染リスクの軽減や美容的配慮が期待できます 。
手術適応は保存療法・注射療法無効例、力が入らない重症例、再発を繰り返す症例とされています 。術前に炎症が強い場合は術後の滑走障害が遷延する可能性があるため、適切な術前管理が重要です 。
術後は抜糸後も積極的なリハビリテーションを行い、指の動きにくさの改善を図ります 。
ドケルバン病の予防には日常生活での手首・親指の使用法改善が最も重要です。具体的な予防策として以下が推奨されます :
参考)https://yokoi-sports.clinic/%E3%83%89%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%B3%E7%97%85%E7%8B%AD%E7%AA%84%E6%80%A7%E8%85%B1%E9%9E%98%E7%82%8E
作業環境の改善:
予防的ストレッチの実施:
サポーターの活用により手首の過度な動きを制御し、関節保護効果も期待できます 。ただし、痛みを感じるような無理なストレッチは症状悪化の原因となるため、心地よい範囲でのケアが重要です 。
参考)https://fuelcells.org/topics/50329/
早期発見・早期治療により慢性化を防ぎ、良好な予後が期待できる疾患であることを理解し、適切な対処を心がけることが大切です。