ドボベットは、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.643mg/g(ベタメタゾンとして0.5mg/g)とカルシポトリオール水和物52.2μg/g(カルシポトリオール無水物として50μg/g)を配合した外用剤です 。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400098/870206000_22600AMX00752_F100_1.pdf
この二つの有効成分は、それぞれ異なる作用機序で乾癬症状に働きかけます 。ベタメタゾン(ステロイド成分)は強力な抗炎症作用により、乾癬病変部の「炎症の火事」を素早く鎮火し、赤みやかゆみを即座に抑制します 。
参考)https://uchikara-clinic.com/prescription/dovobet-ointment/
一方、カルシポトリオール(活性型ビタミンD3)は、乾癬の根本的病態である表皮角化細胞の異常な増殖速度にブレーキをかけ、正常なターンオーバー周期へと導きます 。健常皮膚では表皮細胞の入れ替わりに約28日要するところ、乾癬患者では3-4日と著しく短縮されており、この異常サイクルを正常化させることで皮膚の盛り上がりや鱗屑(銀白色のフケ様物質)を改善します 。
このデュアルエフェクトにより、「現在進行中の炎症抑制」と「将来の異常皮膚生成予防」という二方向からのアプローチが可能となり、単剤使用時を上回る治療効果を発揮します 。
参考)https://medicaladver.com/2017/06/%E3%83%89%E3%83%9C%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%88%EF%BC%8F%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%88%9D%E3%80%81%E5%B0%8B%E5%B8%B8%E6%80%A7%E4%B9%BE%E7%99%AC%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E9%85%8D%E5%90%88%E5%A4%96%E7%94%A8/
ドボベットの適応症は尋常性乾癬のみに限定されており、その他の皮膚疾患への使用は承認されていません 。処方対象は主に軽症から中等症の尋常性乾癬患者であり、重症例では全身療法との併用が検討されます 。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/medicines/dovobet/
処方時の重要な除外基準として、以下の患者群では使用禁忌となります :
また、高カルシウム血症またはそのリスクのある患者、重篤な腎臓・肝臓障害患者では慎重な投与検討が必要です 。
処方量は1週間に90gを超えてはならないという厳格な上限が設定されており、これはカルシポトリオール成分による高カルシウム血症リスクを最小化するためです 。
参考)https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2014/20140911_01.html
ドボベットには軟膏、ゲル、フォームの3剤形が用意されており、患者の病変部位や個人の好みに応じた選択が可能です 。
参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/10/23/5589/pdf
軟膏タイプは従来からの標準剤形で、全身の乾癬病変に幅広く使用できます 。保湿効果が高く、乾燥した皮疹に適していますが、べたつき感があるため患者によっては使用感に課題があります 。
参考)https://kobayashi-clinic.co.jp/blog/780/
ゲルタイプは2018年6月に発売された剤形で、特に頭皮乾癬に優れた使用感を提供します 。親油性ゲル基剤により、塗布時は粘性があるものの、展開するにつれてサラサラとした手触りに変化する独特な性状を示します 。頭部全体(手のひら4-5枚分の面積)への使用では、1日約1gの使用量となり、15gボトル1本で約2週間の治療が可能です 。
参考)https://www.matsushima-hifuka.com/2018/07/09/%E3%83%89%E3%83%9C%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%AB%E3%81%AE%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%83%BB%E5%A1%97%E3%82%8A%E6%96%B9%E3%83%BB%E8%96%AC%E4%BE%A1%E3%83%BB%E4%BD%BF%E7%94%A8%E9%87%8F%E4%B8%8A/
フォームタイプは最も新しい剤形で、2021年6月に発売されました 。既存軟膏の有効性を担保しつつ、簡易性と利便性を大幅に向上させており、世界40ヵ国以上で承認されています 。フォーム剤形は他の剤形と比較して最も高い生物学的利用率を示し、尋常性乾癬に対する治療効果が最も優秀であることが報告されています 。
参考)https://sapporo-shiroishi-hifuka.jp/psoriasis/
剤形選択の指針として、頭皮病変にはゲル、広範囲の体幹・四肢病変にはフォーム、限局性病変や乾燥傾向の強い部位には軟膏を基本とし、患者のライフスタイルや好みも考慮して決定します 。
ドボベット使用時の副作用は主に局所的な皮膚症状が中心となりますが、重篤な全身性副作用への注意も必要です 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/medicine-clinical-questions/22civmbbksd
最も頻度の高い副作用は毛包炎(頻度0.9%)であり、毛穴周囲の炎症として現れます 。その他の皮膚局所副作用として、皮膚刺激感(ヒリヒリ感、かゆみ、発赤)、疼痛、色素脱失、乾癬の一時的悪化、膿疱性発疹などが報告されています 。
重大な副作用として、以下の全身性有害事象に特に注意が必要です :
長期使用では、ステロイド成分による皮膚萎縮、毛細血管拡張、ざ瘡様皮疹などの慢性副作用も懸念されるため、定期的な皮膚状態の評価が重要です 。
参考)https://s-b-s-c.com/medicine/Tx3L2UET
医療従事者は、処方時に患者への十分な説明と、使用中の定期的なフォローアップ体制を確立し、副作用の早期発見と適切な対応を心がける必要があります。
ドボベットの治療成功には、**FTU(フィンガーチップユニット)**を基準とした正確な使用量管理が極めて重要です 。
参考)https://nishinomiya-hifuka.com/%E3%83%89%E3%83%9C%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%88%EF%BC%88%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E3%81%A8%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3d%E2%82%83%E3%81%AE%E5%90%88%E5%89%A4%EF%BC%89
1FTUは成人の人差し指先端から第一関節まで薬剤を乗せた量(約0.5g)で、手のひら2枚分の面積(体表面積の約2%)に塗布できます 。この基準により、各部位に必要な薬剤量を正確に算出できます 。
参考)https://www.maruho.co.jp/medical/articles/topicalagent_basics/base02/01.html
具体的な部位別使用量として、頭部全体では約2-2.5FTU(1-1.25g)、片側上肢では約3FTU(1.5g)、片側下肢では約6FTU(3g)が目安となります 。
参考)https://www.shionogi-hc.co.jp/hihushiruwakaru/steroid-column/05.html
週間使用量上限90gの管理では、全身の病変面積と使用頻度を考慮した処方計画が必要です 。例えば、体表面積の20%に病変がある患者の場合、1日1回全面塗布では約5g使用となり、週35g程度の消費量となります。この場合、上限内での安全な長期使用が可能です 。
しかし、広範囲病変患者では90g上限を超える可能性があり、その際は他の治療法との併用(光線療法、内服薬、生物学的製剤等)を検討し、ドボベットの使用面積を制限する必要があります 。
参考)https://sugamo-sengoku-hifu.jp/medicines/dovobet.html
治療効果の最大化には、「薬剤の皮膚吸収を意識した塗布」が重要で、特に頭皮では「髪を完全に乾かす前の湿った状態」での塗布により薬剤吸収率が大幅に向上します 。
また、包帯や密閉型ドレッシングとの併用は、薬剤吸収を過度に増加させ副作用リスクを高めるため、医師の特別な指示がない限り避けるべきです 。