ダウノルビシン塩酸塩の効果と副作用:急性白血病治療における重要な抗がん剤

ダウノルビシン塩酸塩は急性白血病治療に用いられるアントラサイクリン系抗がん剤です。DNA合成を阻害する強力な効果がある一方で、心筋障害や骨髄抑制などの重篤な副作用も報告されています。医療従事者として知っておくべき適切な投与方法と安全管理について詳しく解説しますが、その効果と副作用のバランスをどう理解すべきでしょうか?

ダウノルビシン塩酸塩の効果と副作用

ダウノルビシン塩酸塩の基本情報
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薬剤分類

アントラサイクリン系抗悪性腫瘍抗生物質として急性白血病治療に使用

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作用機序

DNA合成とRNA合成を阻害し、がん細胞の増殖を抑制

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主要副作用

心筋障害、骨髄抑制、消化器症状などの重篤な副作用に注意が必要

ダウノルビシン塩酸塩の作用機序と治療効果

ダウノルビシン塩酸塩は、がん細胞のDNAの塩基間に入り込み、トポイソメラーゼⅡという酵素の働きを抑制することによって、DNAのコピーを阻害します。この剤は細胞の核酸合成過程に作用し、直接DNAと結合してその結合部位はpurine及びpyrimidine環上にあると考えられており、このためDNA合成とDNA依存RNA合成反応を阻害します。

 

急性白血病に対する臨床効果として、総症例数88例中寛解率46.6%(41/88例)という成績が報告されています。この薬剤は急性白血病(慢性骨髄性白血病の急性転化を含む)に適応があり、特にL1210白血病の担癌マウスに対して延命効果を示し、Methotrexate、6-Mercaptopurine及び5-Fluorouracil耐性株にも効果を示すことが確認されています。

 

また、吉田肉腫の担癌ラットに対しても延命効果を示し、Cyclophosphamide、Nitromine、Thiotepa、6-Mercaptopurine、5-Fluorouracil、Mitomycin C及びChromomycin A3耐性株にも効果を示すという幅広い抗腫瘍スペクトラムを有しています。

 

ダウノルビシン塩酸塩の用法用量と投与方法

ダウノルビシン塩酸塩の標準的な投与方法は、成人では体重1kg当たり0.4~1.0mg(力価)を1日量として、小児では体重1kg当たり1.0mg(力価)を1日量として投与します。投与は連日あるいは隔日に3~5回静脈内又は点滴静注し、約1週間の観察期間をおいて投与を反復します。

 

他の抗悪性腫瘍剤との併用においては、通常成人はダウノルビシン塩酸塩として1日25~60mg(力価)/m²(体表面積)を2~5回、小児は1日25~45mg(力価)/m²(体表面積)を投与します。

 

使用に際しては、1バイアル20mg(力価)に10mLの日局生理食塩液を加え軽く振盪して完全に溶かしてから静脈内注射します。溶解後のpHは5.0~6.5、浸透圧比は約1(日局生理食塩液対比)となります。

 

投与時の重要な注意点として、総投与量が25mg/kgを超えると重篤な心筋障害を起こすことが多いため、累積投与量の管理が極めて重要です。

 

ダウノルビシン塩酸塩の重大な副作用と対策

ダウノルビシン塩酸塩の使用において最も注意すべき重大な副作用は心筋障害です。心筋障害の発現頻度は0.1~5%未満とされており、さらに心不全(0.1%未満)があらわれることがあります。特に総投与量が25mg/kgを超えると重篤な心筋障害を起こすことが多く、他のアントラサイクリン系の抗悪性腫瘍剤投与後症例への本剤の投与には十分な注意が必要です。

 

骨髄抑制も重要な副作用で、貧血、顆粒球減少、血小板減少、出血傾向等の骨髄抑制があらわれる頻度は5%以上と報告されています。副作用調査された総症例302例では、血液障害が212件70.20%と最も多く、消化管障害97件32.12%、一般的全身症状79件26.16%、皮膚障害60件19.87%が続いています。

 

その他の重大な副作用として、ショック(0.1%未満)やネフローゼ症候群(0.1%未満)の報告もあります。これらの副作用に対しては、頻回に臨床検査(血液検査、肝機能・腎機能検査、心機能検査等)を行い、患者の状態を十分に観察することが重要です。

 

ダウノルビシン塩酸塩の薬物動態と代謝

ダウノルビシン塩酸塩の薬物動態は複雑な多相性を示します。血漿中濃度では、投与5分後の濃度が228.00±204.00ng/mL、半減期はα相0.0351±0.0157時間、β相1.82±2.01時間、γ相15.8±8.4時間となっています。

 

赤血球中では、投与5分後の濃度が237.00±111.00ng/g、半減期はα相0.0738±0.0714時間、β相2.86±2.86時間、γ相97.3±210.8時間と、血漿中よりも長い半減期を示します。

 

代謝については、肝で速やかに活性代謝物であるダウノルビシノールになり、さらに肝で代謝されます。排泄は主に胆汁中に排泄されますが、高度に腸肝循環することが知られています。尿中回収率は11.8%で、未変化体6.3%、ダウノルビシノール5.3%となっています。

 

クリアランスは177±59L/hrで、分布相45分、消失相18.5時間、活性体26.7時間の半減期を示します。この薬物動態の特徴により、尿中排泄により尿が赤色になることがあります。

 

ダウノルビシン塩酸塩使用時の安全管理と注意点

ダウノルビシン塩酸塩の使用にあたっては、厳格な安全管理が必要です。本剤は緊急時に十分対応できる医療施設において、造血器悪性腫瘍の治療に対して十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投与することが警告されています。

 

禁忌として、心機能異常又はその既往歴のある患者、本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者への投与は避けなければなりません。また、妊婦又は妊娠している可能性のある女性への投与は望ましくないとされています。

 

相互作用についても注意が必要で、投与前の心臓部あるいは縦隔への放射線照射や潜在的に心毒性を有する他の抗悪性腫瘍剤、アントラサイクリン系薬剤等との併用では心筋障害が増強されるおそれがあります。他の抗悪性腫瘍剤や放射線照射との併用では骨髄機能抑制等の副作用が増強することがあります。

 

腎機能低下患者への投与については、副作用が強くあらわれるおそれがあるため慎重投与が必要ですが、血清クレアチニン3mg/dLを超える患者では50%に減量することが推奨されています。

 

保存については室温保存で、有効期間は2年となっています。調製時には適切な無菌操作を行い、溶解後は速やかに使用することが重要です。

 

医療従事者として、これらの安全管理事項を遵守し、患者の状態を継続的にモニタリングしながら治療を進めることが、ダウノルビシン塩酸塩の効果を最大化し、副作用を最小化するために不可欠です。

 

日本がん治療学会のガイドライン
https://www.jsco.or.jp/
厚生労働省医薬品医療機器総合機構の安全性情報
https://www.pmda.go.jp/