ダリドレキサント塩酸塩は、オレキシン神経ペプチドによるオレキシン受容体タイプ1(OX1R)およびオレキシン受容体タイプ2(OX2R)の両方の活性を抑制するデュアルオレキシン受容体拮抗薬です。In vitroでのヒトOX1R及びヒトOX2Rに対する見かけの平衡解離定数は、それぞれ0.47nmol/Lおよび0.93nmol/Lと報告されており、OX1R受容体により高い親和性を示します。
覚醒を促進するオレキシンA・オレキシンBの作用を阻害することで、脳の過剰な覚醒状態を抑制し、自然な睡眠への移行を促進します。従来のベンゾジアゼピン系やZ薬とは異なり、GABA受容体に作用しないため、依存性や耐性のリスクが低いという特徴があります。
薬物動態学的には、服用後1~2時間で最高血中濃度に到達し、半減期は約8時間です。ただし、高カロリーの食事後に服用すると、最高血中濃度到達時間が1.3時間遅延することが報告されています。肝臓でCYP3A4酵素により代謝され、血漿タンパク結合率が高いため血液透析では除去できません。
海外で実施された第3相臨床試験では、ダリドレキサントの優れた有効性が確認されています。プラセボ対照試験において、入眠潜時の短縮、中途覚醒時間の短縮、総睡眠時間の増加が統計学的に有意に認められました。
具体的な効果データを見ると、4週間の投与後において。
総睡眠時間の変化
入眠潜時の変化
特に50mg投与群では、日中の症状(眠気、集中力、気分など)についても有意な改善が認められており、睡眠の質の向上だけでなく、日中の機能改善にも寄与することが示されています。
動物実験では、ラットおよびイヌにおいてノンレム睡眠およびレム睡眠時間をともに増加させ、睡眠構造を変えることなく用量依存的に持続入眠潜時を短縮することが確認されています。
ダリドレキサント塩酸塩の副作用は、他のオレキシン受容体拮抗薬と比較して比較的軽微であることが特徴です。国内臨床試験における主な副作用発現率は以下の通りです。
頻度別副作用分類
海外データでは、頭痛(25mg群:6%、50mg群:7%)、傾眠または疲労(25mg群:6%、50mg群:5%)、めまい(25mg群:2%、50mg群:3%)が主な副作用として報告されています。
注目すべき点として、他のオレキシン受容体拮抗薬で問題となることの多い悪夢の副作用報告が比較的少ないことが挙げられます。また、睡眠麻痺(25mg群:0.5%、50mg群:0.3%)や幻覚・幻視(25mg群:0.6%)といった特異的な副作用も低頻度ながら報告されています。
重要な安全性情報
標準的な用法用量
通常、成人にはダリドレキサントとして1日1回50mgを就寝直前に経口投与します。患者の状態に応じて1日1回25mgを投与することも可能です。就寝直前の服用が推奨される理由は、薬物の作用発現時間と睡眠のタイミングを適切に合わせるためです。
薬価設定
2024年11月20日に薬価収載され、以下の価格が設定されています。
禁忌・併用注意
重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者には禁忌です。併用禁忌薬として、イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸が挙げられています。
これらの薬剤は主にCYP3A4阻害作用により、ダリドレキサントの血中濃度を著しく上昇させる可能性があるため、併用は避ける必要があります。
ダリドレキサント塩酸塩は、既存の不眠症治療薬と比較して複数の優位性を有しています。最も重要な特徴は、依存性や耐性の形成リスクが低いことです。長期間使用しても耐性が形成されにくく、使用中止後の反跳性不眠も少ないことが臨床試験で確認されています。
既存DORA薬剤との比較
オレキシン受容体に対する親和性の違いにより、各薬剤の特性が異なります。
この受容体親和性の違いにより、ダリドレキサントは持続時間が比較的短めで、日中の眠気や倦怠感が少ないという特徴を示します。
高齢者における安全性
65歳以上の高齢者と65歳未満の成人を対象とした比較研究では、高齢者において副作用が有意に増加することはなく、翌朝以降への効果の持ち越しも認められませんでした。高齢者においても50mgの用量が睡眠状態と日中症状の改善に必要であることが示されています。
これらの特徴により、ダリドレキサント塩酸塩は特に長期的な不眠症治療や高齢者の睡眠障害治療において、薬剤選択の有力な選択肢となることが期待されています。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査報告書詳細情報
https://www.pmda.go.jp/
日本睡眠学会の不眠症診療ガイドライン
https://jssr.jp/