チーム編成において最も重要な原則は、厚生労働省が定義する「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」の実践です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtc/65/4/65_754/_article/-char/ja/
この基本原則に基づいたチーム編成は、以下の3つの要素から構成されます。
現代医療では、患者の疾患が複雑化・多様化しており、単一の職種だけでは対応できないケースが増加しています。特に急性期病院では、手術や集中治療などの治療の根幹部分において、高い能力を持った専門職種が課題に応じてチームを編成し、カンファレンス等で密接に連携することが求められます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ehf7-att/2r9852000001ehgo.pdf
また、チーム編成の効果は数値でも実証されています。適切なチーム編成を行った医療機関では、疾病の早期発見率が向上し、重症化予防効果も確認されています。さらに、医療従事者の負担軽減により、医療安全の向上も実現されています。
参考)https://journal.epigno.jp/team-medical-care
効果的なチーム構成を実現するためには、各職種の専門性と役割を明確に理解し、適切に配置することが不可欠です。現代医療における主要な職種とその役割は以下の通りです。
医師の役割と責任範囲
医師はチームのリーダーとして、診断と治療方針の決定、他職種への指示、最終的な医学的判断を担います。特に外来化学療法などの専門的治療では、外来化学療法担当医師が各職種に適切な指示を与え、チームが有効に機能するようリーダーシップを発揮することが重要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000128zk-att/2r98520000012e2m.pdf
看護師の多面的機能
看護師は患者との最も密接な接点を持つ職種として、直接ケア、患者・家族への教育、他職種との調整役を担います。慢性疾患専門看護師などの専門性を持つ看護師は、特定の疾患領域でより高度な判断と介入を行います。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000128zk-att/2r98520000012e4v.pdf
薬剤師の専門的貢献
薬剤師は抗がん剤調製、服薬指導、薬物相互作用の確認、副作用モニタリングなど、薬物療法の安全性と有効性を担保する重要な役割を果たします。
コメディカルスタッフの専門性
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)は、それぞれの専門領域でリハビリテーションを提供し、患者の機能回復を支援します。管理栄養士は栄養管理、臨床検査技師は検査業務と結果の解釈、視能訓練士は視機能の評価と訓練を担当します。
これらの職種が連携することで、従来1つの職種では対応困難だった複合的な医療ニーズに対応できるようになります。実際に、日本糖尿病療養指導士の有資格者が14名在籍する医療機関では、糖尿病医療への充実度が飛躍的に向上したという報告もあります。
効果的なチーム編成を実現するためには、情報共有システムの構築が不可欠です。医療現場では、患者の状態変化に迅速に対応するため、リアルタイムでの情報伝達と共有が求められます。
カンファレンスシステムの最適化
定期的なカンファレンスは情報共有の核となる仕組みです。急性期病院では、手術や集中治療などの治療において、専門職種がカンファレンス等で密接に連携することが標準的な運営方法となっています。効果的なカンファレンスでは、患者の医学的情報だけでなく、社会的背景や心理的状態も含めた総合的な情報が共有されます。
デジタル情報共有ツールの活用
現代医療では、電子カルテシステムを中心とした情報共有が主流となっています。各職種が入力した情報をリアルタイムで参照できるシステムにより、診療の継続性と一貫性が保たれます。特に24時間体制の医療機関では、夜勤帯への申し送りや緊急時の情報伝達において、デジタルシステムの重要性が高まっています。
情報伝達プロトコルの標準化
Lingard らの研究によると、手術中のコミュニケーション失敗は頻繁に発生し、チームプロセスに影響を与える可能性があります。これを防ぐため、SBAR(Situation, Background, Assessment, Recommendation)形式などの標準化された情報伝達プロトコルの導入が推奨されています。
患者参画型情報共有
先進的な医療機関では、患者自身をチームの一員として位置づけ、患者教室の際にアンケートを取るなど、患者の要望を積極的に聴取し、診療への参画を促進しています。この approach により、患者満足度の向上とアドヒアランスの改善が報告されています。
情報共有システムの構築には、技術的な側面だけでなく、組織文化の変革も必要です。職種間の垣根を越えた開放的なコミュニケーション文化の醸成が、真の意味での情報共有を実現します。
医療現場におけるチーム構成の具体的実践例を通じて、成功要因を分析することは、効果的なチーム運営の指針となります。以下に代表的な実践例を示します。
栄養サポートチーム(NST)の実践例
栄養サポートチームは、食欲が低下している患者や栄養状態の悪化した患者に対して包括的な栄養管理を提供します。チーム構成は医師、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などで構成され、それぞれが専門性を発揮します。成功要因として、定期的な栄養アセスメント、職種間での治療方針の共有、患者・家族への教育が挙げられます。
参考)https://www.vbest.jp/medical/columns/g_about/8425/
周術期管理チームの取り組み
周術期管理チームは、手術前から術後まで一貫した医療を提供するチームです。麻酔科医、外科医、看護師、臨床工学技士、薬剤師が連携し、患者の安全性を最優先に管理を行います。このチームの成功要因は、手術前の詳細な情報収集、術中のモニタリング体制、術後のきめ細かなフォローアップにあります。
参考)https://biz.tunag.jp/article/24841
感染対策チーム(ICT)の実践
感染対策チームは、病院内での感染症の発生予防と拡大防止を担当します。感染症専門医、感染管理認定看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職員で構成されます。COVID-19パンデミック時には、このチームの重要性がより一層明確になりました。成功要因として、迅速な情報収集と分析、エビデンスに基づいた対策の立案、全職員への教育と啓発活動が挙げられます。
救急医療チーム(RRT)の運営
院内で患者が急変した際に迅速に対応する救急医療チームは、医師、看護師、臨床工学技士、薬剤師で構成されます。24時間体制での対応が求められるため、シフト制での人員配置と定期的な訓練が不可欠です。成功要因は、明確な起動基準の設定、迅速な意思決定プロセス、継続的なスキル向上のための教育プログラムです。
これらの実践例から得られる共通の成功要因は、明確な役割分担、効果的な情報共有、継続的な教育と訓練、患者中心のアプローチの4点です。特に、チームメンバー全員が患者の利益を最優先に考えるという共通の価値観を持つことが、チーム構成の成功に不可欠な要素となっています。
医療現場におけるチーム編成の効率化は、技術革新と組織変革の両面からアプローチする必要があります。ここでは、従来の枠組みを超えた革新的な取り組みと将来への展望を探ります。
ダイナミックチーミングの導入
従来の固定的なチーム構成に対し、患者の状態や医療ニーズに応じて柔軟にメンバーを組み替える「ダイナミックチーミング」が注目されています。この手法では、基本的なコアメンバーを中心に、必要に応じて専門職種を追加・変更することで、最適な医療提供を実現します。特に外来診療では、診断プロセスの複雑性に対応するため、状況に応じた動的なチーム編成が有効です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11839144/
AI支援によるチーム編成最適化
人工知能(AI)を活用したチーム編成支援システムの開発が進んでいます。患者の医療データ、疾患の複雑度、各職種の専門性とスケジュールを総合的に分析し、最適なチーム構成を提案するシステムです。これにより、経験に依存しがちだったチーム編成を、データドリブンな意思決定に変革できます。
テレメディシンとハイブリッドチーム
COVID-19パンデミックを契機として、遠隔医療技術の活用が急速に拡大しました。物理的な距離を超えたチーム編成により、専門性の高い医療者を遠隔地からチームに参加させることが可能になりました。このハイブリッドチームモデルは、地方医療機関における専門医不足の解決策としても期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8394340/
予測分析による先制的チーム編成
患者の状態変化を予測し、事前にチーム編成を調整する先制的アプローチが研究されています。機械学習アルゴリズムを用いて患者の重症化リスクを予測し、必要となる専門職種を事前に配置することで、緊急事態への対応時間を短縮できます。
職種横断的教育プログラム
チーム医療の質向上には、各職種が他職種の専門性を理解することが重要です。Virtual Realityを活用したシミュレーション教育や、職種混合でのケーススタディなど、革新的な教育手法により、職種間の理解と連携能力の向上を図る取り組みが始まっています。
将来展望と課題
今後のチーム編成では、患者の個別性をより重視したパーソナライズド医療への対応が求められます。ゲノム情報、ライフスタイルデータ、社会的決定要因を統合した包括的な患者プロファイルに基づくチーム編成が、次世代医療の標準となる可能性があります。
しかし、技術革新に伴う課題も存在します。データプライバシーの保護、医療者の技術習得負担、システム導入コストなど、慎重に検討すべき点も多くあります。これらの課題を克服しながら、患者中心の医療を実現するチーム編成の進化が期待されています。