アシドーシスとアルカローシスの病態解析

酸塩基平衡異常であるアシドーシスとアルカローシスについて、代謝性・呼吸性の分類、症状、治療法まで医療従事者向けに詳しく解説します。これらの病態はどのような症状を呈し、どう管理すべきでしょうか?

アシドーシスとアルカローシスの病態

酸塩基平衡異常の全体像
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正常pH範囲

血液pHは7.35-7.45の狭い範囲で維持される

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アシドーシス

pH<7.35の酸性側への偏移

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アルカローシス

pH>7.45のアルカリ性側への偏移

アシドーシス代謝性アシドーシスの病態機序

代謝性アシドーシスは体内の酸塩基平衡において最も重要な病態の一つであり、血液中の重炭酸イオン(HCO3-)の減少により引き起こされます 。この病態は酸産生の増加、重炭酸塩の喪失、腎臓の酸排泄機能低下という3つの主要な機序により発症します 。
参考)代謝性アシドーシス - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - …

 

代謝性アシドーシスの発生機序は複雑で、アニオンギャップ(AG)の測定により分類されます 。AG増加性代謝性アシドーシスでは、糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、尿毒症性アシドーシス、メタノール中毒などが原因となります 。一方、AG正常性代謝性アシドーシスでは下痢による重炭酸塩喪失、尿細管性アシドーシス、腎不全初期などが関与します 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d070911/

 

臨床症状として、代謝性アシドーシス患者では吐き気、嘔吐、疲労感が頻繁に認められ、特徴的な深く速い呼吸(クスマウル呼吸)が観察されます 。これは呼吸性代償により二酸化炭素を排出し、pHの正常化を図る生体反応です 。
参考)代謝性アシドーシス - Wikipedia

 

アルカローシス代謝性アルカローシスの診断と管理

代謝性アルカローシスは血液中の重炭酸イオン(HCO3-)の増加により生じる病態で、主に胃液の嘔吐、利尿薬の使用、副腎皮質ホルモン過剰などが原因となります 。診断には動脈血ガス分析と血清電解質(カルシウム、マグネシウムを含む)の測定が必要です 。
参考)代謝性アルカローシス - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 -…

 

尿中クロール濃度の測定は病因の鑑別に有用で、尿中クロールが20mEq/L未満の場合、腎臓での著明なクロール保持が示唆されます 。これは嘔吐、胃管吸引、利尿薬使用などの体液量減少性の原因を示します。
治療は原因疾患の是正と同時に、水分と電解質(ナトリウム、カリウム)の補充が基本となります 。重篤な場合には薄めた酸の静脈内投与が検討されますが、これは極めて稀な治療法です 。代謝性アルカローシスは低カリウム血症を併発することが多く、カリウム補充も重要な治療方針となります。
参考)アルカローシス - 12. ホルモンと代謝の病気 - MSD…

 

アシドーシス呼吸性アシドーシスの臨床的意義

呼吸性アシドーシスは肺の換気機能低下により二酸化炭素が体内に蓄積し、動脈血CO2分圧(PaCO2)が上昇することで発症する病態です 。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、重症筋無力症、薬物による呼吸抑制、胸部外傷などが主要な原因となります 。
参考)アシドーシスとアルカローシス

 

急性呼吸性アシドーシスでは意識障害、頭痛、眠気などの中枢神経系症状が顕著に現れます 。これは二酸化炭素が血液脳関門を容易に通過し、脳組織のpHを低下させるためです。重篤な場合には昏睡に陥る危険性があります 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0f0336ed08f03a77489cfa01d29992ec77e9a4e6

 

治療は原因疾患の改善が最優先で、酸素療法、非侵襲的陽圧換気(NPPV)、必要に応じて気管内挿管による機械的換気が検討されます 。慢性例では在宅酸素療法や長期的な呼吸管理が必要となる場合があります 。
参考)http://www.med.niigata-u.ac.jp/nephrol/pdf/achievement/research_achievement/2012/09_sousetsu/2012-023.pdf

 

アルカローシス呼吸性アルカローシスの病因と対策

呼吸性アルカローシスは過換気により二酸化炭素が過剰に排出され、PaCO2が低下することで発症します 。不安、恐怖、疼痛、発熱、低酸素血症、代謝要求の増大などが主要な誘因となります 。
参考)呼吸性アルカローシス - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 -…

 

過換気症候群は呼吸性アルカローシスの典型例で、手足や口唇周囲のしびれ、めまい、呼吸困難感などの症状を呈します 。重篤な場合にはテタニー様症状やけいれんが出現し、てんかん発作と鑑別が必要となることがあります 。
治療は基礎疾患の発見と治療に重点を置きます 。呼吸性アルカローシス自体は生命を脅かすことは少なく、pHを低下させるための積極的介入は通常不要です 。不安による過換気では患者の安心と適切な呼吸指導が効果的で、「ゆっくり呼吸しましょう」との声かけとともに背中をさするなどの支援的ケアが重要です 。

アシドーシス血液ガス分析による鑑別診断法

酸塩基平衡異常の診断では血液ガス分析が必須で、pH、PaCO2、HCO3-の値から病態を系統的に評価します 。まずpHが7.35未満(アシデミア)か7.45超(アルカレミア)かを判定し、次にPaCO2とHCO3-の値から一次性病変と代償反応を鑑別します 。
参考)アシドーシス・アルカローシスとは

 

アニオンギャップ(AG = Na+ - (Cl- + HCO3-))の計算は代謝性アシドーシスの病因診断に有用で、正常値は8-12mEq/Lです 。AG増加性では有機酸の蓄積(乳酸、ケトン体など)、AG正常性では重炭酸塩の喪失や酸の負荷が示唆されます 。
参考)https://www.kashiwazaki-ghmc.jp/wp/wp-content/uploads/2023/08/shortlecture_20230525h.pdf

 

Na-Cl差の評価も診断に有効で、正常値は36です 。Na-Cl >36はAGまたはHCO3-の増加を示し、Na-Cl <36はAGまたはHCO3-の減少を示唆します 。これらの指標を組み合わせることで、血液ガス測定前でも酸塩基平衡異常を予測できる場合があります。
MSDマニュアル:代謝性アシドーシスの病因分類と治療指針
国府台病院:血液ガス分析の系統的評価法