高血圧患者の約10%がアルドステロン症です。あなたが「血圧の薬を増やしても効かない」と感じている患者を診ているなら、それはアルドステロン症かもしれません。
原発性アルドステロン症(PA)は、副腎皮質からアルドステロンが自律的かつ過剰に分泌されることで高血圧が引き起こされる内分泌疾患です。 アルドステロンは腎臓の遠位尿細管に作用してナトリウムを再吸収し、カリウムを排泄させるホルモンです。ナトリウムが体内に貯留することで循環血液量が増加し、血圧が上昇します。
関連)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/x8487klpove
高血圧患者全体の5〜14%にPAが潜んでいると報告されており、抵抗性高血圧(3剤以上の降圧薬でも血圧がコントロールできない状態)では約30%にのぼるとされています。 つまり高血圧の原因の中で最も頻度の高い二次性高血圧の一つです。
これが基本です。降圧薬が効きにくいケースでは、まずPAを疑う視点が重要になります。
アルドステロン過剰によりカリウムが尿中に排泄され続けると、血清カリウムが低下します。 低カリウム血症の主な症状として、四肢の脱力・筋力低下・こむら返り(筋痙攣)・多尿・多飲・不整脈があります。
特に筋力低下は見落とされやすい症状の一つです。血清カリウムが3.0 mmol/L未満に低下すると、筋肉の刺激伝達が障害され、脚に力が入らなくなって立ち上がれなくなる患者もいます。 重症化すると四肢麻痺・テタニー・意識消失に至ることもあります。
関連)https://seibu.marianna-u.ac.jp/medical/cases/10626/
多尿は低カリウム血症による腎尿細管機能障害が原因で起こります。 また、横紋筋融解を来した場合には赤褐色の尿(ミオグロビン尿)が認められることもあります。 意外ですね。
関連)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf
PAの筋症状で重要なことは、「低カリウム血症の症状を伴う症例は重症例」という位置づけになっていることです。 多くの軽症例では筋症状は前面に出てこないため、診断が遅れやすくなります。
参考:低カリウム血症の病態とアルドステロン作用についての詳細(MSDマニュアル・プロフェッショナル版)
MSDマニュアル:低カリウム血症(ミネラルコルチコイド過剰との関連)
PAの心血管リスクは、同程度の高血圧の本態性高血圧患者と比べても明らかに高いことが知られています。心房細動合併患者での合併率が42.5%に達するとの報告もあります。 高血圧の背景にPAが潜んでいると、脳卒中・心不全・慢性腎臓病のリスクが本態性高血圧より大きくなります。
スクリーニングを怠ると、適切な治療が遅れるだけでなく、臓器障害が進行するリスクがあります。これは健康上の大きなデメリットです。一次スクリーニングとして有用なのは、外来での血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)または直接レニン濃度(DRC)を測定するARR(アルドステロン/レニン比)です。
関連)https://k-enshu.ja-shizuoka.or.jp/jacms/wp-content/uploads/2014/03/popuro_pa.pdf
| 指標 | カットオフ値 | 補足 |
|---|---|---|
| ARR(PAC/PRA比) | ≧200 | 感度は高いが偽陽性あり |
| PAC | ≧150 pg/mL | ARRと組み合わせると特異度向上 |
| 血清カリウム | 必ずしも低値でない | 半数以上が正常範囲 |
参考:原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021(Minds掲載)
Minds:原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021(日本内分泌学会編)
「偽アルドステロン症」という概念を混同しないよう整理が必要です。 偽アルドステロン症とは、アルドステロン自体は増加していないにもかかわらず、アルドステロン症と同様の症状(高血圧・低カリウム血症・むくみ)が現れる病態です。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d02.pdf
主な原因は甘草(かんぞう)またはその主成分グリチルリチンを含む医薬品の服用です。 漢方薬・市販のかぜ薬・胃腸薬・肝臓疾患の医薬品などに広く含まれているため、複数の薬を服用している患者では特に注意が必要です。
関連)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d02.pdf
症状の頻度として、厚生労働省の資料によれば四肢脱力・筋力低下が約60%、高血圧が35%で、この2つが本症発見の契機として最も多いとされています。 偽アルドステロン症の自覚症状としては、四肢の脱力・筋肉痛・こむら返り・全身倦怠感・浮腫・動悸が代表的です。
関連)https://medical.tsumura.co.jp/sites/default/files/resources/pdf/products/safety/PSA.pdf
原発性アルドステロン症と偽アルドステロン症の鑑別は、血中PAC・レニン活性の測定で行います。偽アルドステロン症ではレニンもアルドステロンも抑制されていることが典型的です。これだけ覚えておけばOKです。
参考:厚生労働省による偽アルドステロン症の解説(医療従事者向け)
厚生労働省:偽アルドステロン症(PDF)症状・頻度・重症化の過程について詳細に解説
一次スクリーニングでARRが高値であった場合、確定診断のために負荷試験が必要です。 主な確定試験としてカプトプリル負荷試験・フロセミド立位負荷試験・生理食塩水負荷試験があり、いずれか2種以上を実施してPAを確定します。
関連)https://k-enshu.ja-shizuoka.or.jp/jacms/wp-content/uploads/2014/03/popuro_pa.pdf
確定後は治療法の選択に向けてサブタイプ分類を行います。CTや副腎シンチグラフィ、副腎静脈サンプリング(AVS)などが活用されます。 サブタイプは大きく以下の2つに分かれます。
関連)https://k-enshu.ja-shizuoka.or.jp/jacms/wp-content/uploads/2014/03/popuro_pa.pdf
>🔸 アルドステロン産生腺腫(APA):片側性。腹腔鏡下副腎摘除術が第一選択で、術後に血圧の改善・正常化が期待できる
>🔸 特発性アルドステロン症(IHA):両側性の副腎過形成。手術ではなくミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)による薬物療法が基本
薬物療法では、スピロノラクトン・エプレレノン(セララ)・エサキセレノン(ミネブロ)などのMRAが使用されます。 これらの薬剤使用時はカリウムが上昇することがあるため、定期的な採血によるモニタリングが必要です。結論は「サブタイプ分類なしに治療方針は決まらない」です。
| サブタイプ | 特徴 | 治療の原則 |
|---|---|---|
| アルドステロン産生腺腫(APA) | 片側性・腺腫 | 腹腔鏡下副腎摘除術 |
| 特発性アルドステロン症(IHA) | 両側性・過形成 | MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬) |
参考:原発性アルドステロン症の診断・治療の概要(聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院)
聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院:原発性アルドステロン症のスクリーニング・確定・治療の流れを解説