悪性リンパ腫は、リンパ系の細胞ががん化することによって生じる血液腫瘍です。この疾患は、免疫システムの重要な部分であるリンパ節やリンパ組織に発生し、体の防御機能に深刻な影響を与えます。主に「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つに大別されています。
ホジキンリンパ腫は、特徴的なリード・シュテルンベルグ細胞の存在によって定義され、比較的均一な疾患群として知られています。一方、非ホジキンリンパ腫は多様性に富み、30種類以上の異なるサブタイプが存在します。非ホジキンリンパ腫は臨床的な進行速度によって、以下のように分類されることがあります。
悪性リンパ腫の原因は完全には解明されていませんが、染色体異常によるがん遺伝子の活性化が主な機序と考えられています。また、一部の症例ではウイルス感染との関連や、免疫不全状態との関連も指摘されています。
発生頻度としては、日本人の悪性リンパ腫の約90%が非ホジキンリンパ腫であり、中でもびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が最も多いサブタイプです。年齢分布としては、ホジキンリンパ腫が若年者と高齢者に二峰性のピークを持つのに対し、非ホジキンリンパ腫は高齢者に多い傾向があります。
悪性リンパ腫の症状は多岐にわたりますが、最も一般的で特徴的な症状はリンパ節の腫れです。これは主に頸部、腋窩、鼠径部など、リンパ節の多い部位に無痛性の腫瘤として現れます。病型によって症状の進行速度は異なりますが、腫れたリンパ節は通常以下のような特徴を持ちます。
全身症状として特徴的なのが「B症状」と呼ばれる以下の3つの症状です。
これらのB症状の有無は病期分類(Ann Arbor分類)において「A」または「B」として記載され、予後予測にも影響します。B症状が見られる場合は、腫瘍細胞から産生されるサイトカインによって全身が炎症状態になっていると考えられます。
さらに、腫瘍が増大することで周囲の組織や臓器を圧迫し、以下のような部位特異的な症状を引き起こすこともあります。
これらの症状は、悪性リンパ腫の進行とともに徐々に悪化することが多く、特に高悪性度リンパ腫では症状の進行が急速であるため、早期発見・早期治療が重要です。
悪性リンパ腫の正確な診断は適切な治療選択のために不可欠です。診断プロセスは複数のステップから成り、それぞれが重要な情報を提供します。
まず、身体検査では、腫大したリンパ節の触診や、肝臓・脾臓の腫大の有無を確認します。
次に行われる検査には以下があります。
診断確定後は、疾患の広がりを評価するために**病期分類(Ann Arbor分類)**が行われます。
さらに、全身症状の有無によって「A」(症状なし)または「B」(B症状あり)と表記されます。
予後予測のために、非ホジキンリンパ腫では**国際予後指標(IPI)**が用いられます。これは以下の5つの予後不良因子に基づいています。
これらの因子数によって、Low(0-1)、Low-intermediate(2)、High-intermediate(3)、High(4-5)のリスクグループに分類され、治療方針決定の重要な指標となります。
悪性リンパ腫の治療は、病型、病期、患者の全身状態などを総合的に評価して決定されます。主な治療法には化学療法、放射線療法、分子標的療法、造血幹細胞移植などがあります。
化学療法は悪性リンパ腫治療の中心的な役割を担っています。一般的に複数の薬剤を組み合わせた多剤併用療法が行われ、代表的なレジメンには以下があります。
治療は通常3~4週を1コースとし、病型・病期に応じて4~8コース程度実施します。化学療法の主な副作用には、骨髄抑制(好中球減少、貧血、血小板減少)、消化器症状(悪心・嘔吐、下痢)、脱毛などがあり、適切な支持療法が重要です。
限局性のリンパ腫に対しては、化学療法と放射線療法の併用、または放射線療法単独での治療も選択肢となります。特に早期ホジキンリンパ腫では、少ないコース数の化学療法後に限局的な放射線療法を行う「combined modality therapy」が標準となっています。
最新の放射線治療技術として、強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線治療などがあり、正常組織への照射を最小限に抑えながら腫瘍に十分な線量を投与することが可能になっています。
悪性リンパ腫の分子病態解明が進み、特定の分子を標的とした治療法が開発されています。
再発・難治例や高リスク症例では、自家または同種造血幹細胞移植が考慮されます。
低悪性度リンパ腫。
中・高悪性度リンパ腫。
治療効果判定には、PET-CT検査が用いられることが多く、Deauville score(5段階評価)による客観的評価が標準となっています。完全奏効(CR)が得られた場合も、再発リスクに応じた定期的なフォローアップが必要です。
悪性リンパ腫治療の新たな選択肢として注目されているのが「光免疫療法」です。この革新的な治療法は、従来の治療法の限界を克服する可能性を秘めており、特に再発・難治性リンパ腫に対する新たなアプローチとして期待されています。
光免疫療法は、がん細胞の表面に特異的に結合する抗体に光感受性物質(光に反応する色素)を結合させた複合体を投与し、特定の波長の光(近赤外線)を照射することでがん細胞を選択的に破壊する治療法です。この治療法の最大の特徴は、以下の2点にあります。
現在、日本では頭頸部がんに対して2021年1月に保険適用となっていますが、悪性リンパ腫への応用については研究段階にあります。
悪性リンパ腫は細胞表面に特徴的な抗原(CD20、CD30など)を発現しているため、光免疫療法の理想的な対象となり得ます。特に、以下のような状況での応用が期待されています。
実際、CD30陽性リンパ腫(ホジキンリンパ腫や未分化大細胞型リンパ腫など)に対する抗CD30抗体を用いた光免疫療法の前臨床研究では、有望な結果が報告されています。
メリット。
課題。
光免疫療法の興味深い点は、がん細胞を破壊する過程で腫瘍特異抗原が放出され、抗腫瘍免疫応答が誘導されることです。この特性を活かし、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ、ペンブロリズマブなど)との併用によって、さらなる治療効果の向上が期待されています。
こうした「第5の治療法」と呼ばれる光免疫療法は、既存の治療法(手術、化学療法、放射線療法、免疫療法)と相補的に機能し、悪性リンパ腫治療の選択肢を広げるものとして、今後の臨床応用が注目されています。
悪性リンパ腫の治療は日進月歩で進化しており、光免疫療法以外にもCAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体T細胞療法)やバイスペシフィック抗体などの革新的な治療法が登場しています。これらの新規治療法は、それぞれ独自のメカニズムでリンパ腫細胞を攻撃するため、患者の状態や病型に応じた最適な治療選択が重要です。
光免疫療法は、その高い選択性と低侵襲性から、特に局所治療が有効な症例や、他の全身療法との併用療法として有望視されています。今後は実臨床での有効性・安全性データの蓄積とともに、悪性リンパ腫治療における光免疫療法の適切な位置づけが確立されていくことが期待されます。