子宮頸がんの最大の特徴は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。そのため、定期的な検診なしでは早期発見が難しいがんの一つとされています。前がん病変(CINやAIS)の時期には、おりものの異常や出血、痛みといった症状はありません。
進行に伴って現れる主な症状には以下のようなものがあります。
これらの症状が出現した場合、がんがかなり進行している可能性があります。特に性交渉後の出血は、子宮頸がんを示す重要な兆候の一つです。進行期Ⅲ期・Ⅳ期になると、腰痛や脚のむくみ、尿路閉塞による腎不全のリスクも高まります。
医療従事者として重要なのは、これらの症状を訴える患者に対して子宮頸がんの可能性を念頭に置き、適切な検査を迅速に実施することです。特に20歳以上の女性には、2年に1回の子宮頸がん検診を強く推奨すべきでしょう。
手術療法は子宮頸がんの主要な治療法の一つであり、特に初期段階で有効です。ステージと患者の妊娠希望に応じて、さまざまな術式が選択されます。
子宮温存手術(妊孕性温存が可能):
子宮摘出手術:
手術の選択において留意すべき点は、子宮全摘出後は妊娠機能は失われますが、卵巣を温存できる場合はホルモンバランスへの影響を最小限にとどめられることです。また、妊娠希望のある患者に対しては、適応可能な場合「広汎子宮頸部切除術」を行い、子宮体部を温存する選択肢も検討すべきです。
重要なのは、ステージⅢ期・Ⅳ期の進行した子宮頸がんには手術療法は推奨されておらず、放射線療法や化学療法が主体となることを認識することです。
放射線治療は子宮頸がんのほぼすべての病期で適用可能な重要な治療法です。特にステージⅢ期・Ⅳ期の進行した子宮頸がんにおいては、主たる治療選択肢となります。
放射線治療の種類:
より効果を高めるために、同時化学放射線療法(CCRT)が進行した子宮頸がんに対して広く用いられています。これは放射線治療と同時に、シスプラチンなどの細胞障害性抗がん薬を併用する治療法です。研究によれば、同時化学放射線療法後に別の化学療法を追加しても生存期間の延長は見られず、毒性の頻度が増加するため、現時点では同時化学療法のみの施行が推奨されています。
化学療法単独では、主に遠隔転移のある進行がんや再発したがんに対して用いられます。その目的は生活の質(QOL)を保ちながら生存期間を延長することです。白金製剤(シスプラチンなど)を中心に、他の細胞障害性抗がん薬との併用療法が行われています。
臨床の現場で注意すべきは、放射線治療を受けると卵巣機能が失われ、更年期障害様の症状が出現する可能性があることです。患者への適切な説明と対策が必要となります。
近年、子宮頸がん治療の分野では従来の手術・放射線・化学療法に加えて、免疫療法が新たな治療選択肢として注目されています。免疫療法は体の免疫システムを活性化してがん細胞を攻撃する治療法で、副作用が比較的少ないという利点があります。
主な免疫療法アプローチ:
加えて、がん特異的な分子を標的とする「標的療法」も発展しています。特にHPV由来のがんタンパク質を標的とする治療薬は、正常細胞への影響を最小限に抑えながら効果を発揮する可能性を秘めています。
さらに最先端の治療法として、RNA干渉技術を活用した核酸医薬治療も研究されています。これはがんの成長に関わる遺伝子(CDC6, KRAS, IL6 など)をピンポイントで抑制するアプローチで、子宮頸がんの遺伝子異常に合わせた個別治療を可能にします。
ただし、これらの新規治療法の多くは現時点では自由診療となっているため、保険適応の標準治療を中心に、補完的な位置づけで患者に提案することが適切でしょう。免疫療法の効果予測バイオマーカーの開発も進んでおり、今後はより効果的な患者選択が可能になると期待されています。
子宮頸がんの治療法選択において最も重要なのは、病期(ステージ)に応じた適切な治療戦略の立案です。ここでは、ステージ別の治療選択肢と臨床判断のポイントをまとめます。
前がん病変・ステージⅠA1期:
ステージⅠA2期~ⅡB期:
ステージⅢ期・Ⅳ期:
再発・転移性子宮頸がん:
重要なのは、治療法の選択に際して患者の年齢、全身状態、妊娠・出産の希望、合併症の有無などを総合的に考慮することです。また、治療による副作用(特に放射線治療による卵巣機能の喪失など)についても事前に十分説明し、必要に応じて対策を講じる必要があります。
初診時からの多職種によるチームアプローチや、エビデンスに基づいた意思決定支援も、治療成績向上に寄与します。患者のQOLを維持しながら最適な治療効果を得るためのバランスを常に念頭に置くことが、臨床判断の要となるでしょう。