アドレナリン受容体の種類とサブタイプ

アドレナリン受容体にはα1、α2、β受容体の3つの主要なタイプがあり、それぞれが3つのサブタイプに分類されます。各サブタイプは異なる組織分布や生理作用を持ち、臨床応用において重要な役割を果たしています。これらの受容体の種類を理解することは医療従事者にとって重要ですが、実際にどのように使い分けられているのでしょうか?

アドレナリン受容体の種類とサブタイプ

アドレナリン受容体の基本分類
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α受容体

α1とα2の2種類に分類され、それぞれ3つのサブタイプを持つ。血管収縮や血圧調節に重要な役割を担う。

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β受容体

β1、β2、β3の3つのサブタイプがあり、心機能や気管支、代謝機能の調節に関与する。

Gタンパク質共役

すべてのアドレナリン受容体は7回膜貫通構造を持つGタンパク質共役型受容体である。

アドレナリン受容体は、ノルアドレナリンやアドレナリンといった内因性カテコールアミンに応答する細胞膜受容体です。現在、α1、α2、βの3つの主要なタイプに分類され、それぞれがさらに3つのサブタイプに細分化されており、合計9種類のアドレナリン受容体サブタイプが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2142449/

アドレナリン受容体の分類は1948年にRaymond Ahlquistによって確立されました。彼は3つのカテコールアミン(ノルアドレナリン、アドレナリン、イソプロテレノール)に対する反応の強さの違いから、アドレナリン>ノルアドレナリン>イソプロテレノールの順で反応する受容体をα受容体、イソプロテレノール>アドレナリン>ノルアドレナリンの順で反応する受容体をβ受容体と名付けました。その後、より選択性の高いアゴニストの開発が進み、現在のような詳細な分類がなされるようになりました。
参考)自律神経系の化学伝達物質と受容体|神経系の機能

すべてのアドレナリン受容体はGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、7回膜貫通型の構造を持っています。受容体にリガンドが結合すると、Gタンパク質のGDP型からGTP型への変換が起こり、細胞内シグナル伝達が開始されます。
参考)Gタンパク質共役型受容体 - 脳科学辞典

アドレナリン受容体のα1サブタイプの特徴

 

α1アドレナリン受容体にはα1A、α1B、α1Dの3つのサブタイプが存在します。これらのサブタイプは主にシナプス後エフェクター細胞、特に平滑筋に分布しています。
参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/4.%20serotoninmonoamin.pdf

組織分布と機能の差異は以下の通りです。

  • α1A受容体:前立腺、血管平滑筋、心臓、脳、輸精管に広く分布し、血管平滑筋収縮、血圧上昇、散瞳、立毛などの作用を担います
  • α1B受容体:主に血管、肺、脳に分布し、血管収縮作用に加えて心筋細胞の成長(心肥大)に関与することが報告されています
  • α1D受容体:膀胱平滑筋、前立腺、心臓、血管平滑筋に分布し、膀胱機能や血管収縮に関与します

α1受容体は主にGq/11タンパク質と共役しており、刺激を受けるとイノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DG)の産生が増加し、細胞内Ca2+濃度が上昇します。ノルアドレナリンとアドレナリンに対する親和性はほぼ同等です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/126/Special_Issue/126_Special_Issue_187/_pdf

興味深いことに、心筋細胞では同じα1受容体でもサブタイプによって正反対の作用を示すことが明らかになっています。α1A受容体はGqタンパク質を介してCa2+チャネルを活性化し心収縮力を増強させる一方、α1B受容体はGoタンパク質を介してCa2+チャネルを抑制し心収縮力を減少させます。
参考)最近の話題 122-3-279

アドレナリン受容体のα2サブタイプの機能と分布

α2アドレナリン受容体はα2A、α2B、α2Cの3つのサブタイプから構成されます。α2受容体は主にシナプス前アドレナリン作動性ニューロン、脂肪細胞、血小板、平滑筋に見られます。
参考)ビデオ: アドレナリン受容体(アドレナリン受容体):分類

各サブタイプの特徴は次のとおりです。

  • α2A受容体:脳、大動脈に分布し、中枢性の血圧降下作用や鎮静作用に関与します
  • α2B受容体:肝臓、腎臓に主に分布します
  • α2C受容体:脳に広く分布しています

α2受容体はGi/Oタンパク質と共役しており、刺激されるとアデニル酸シクラーゼ活性が抑制され、細胞内cAMPが減少します。また、Ca2+チャネルの抑制とK+チャネルの活性化が起こります。​
α2受容体の重要な機能の一つは、シナプス前膜に存在する自己受容体としての役割です。交感神経終末のα2受容体が刺激されると、ノルアドレナリンの過剰遊離を抑制するネガティブフィードバック機構が働きます。この特性を利用して、クロニジンやメチルドパなどのα2受容体作動薬が高血圧治療薬として使用されています。​
最近の研究では、α2受容体刺激がガン免疫を活性化し、チェックポイント阻害薬との併用で抗腫瘍効果を増強する可能性が示されています。これは、α2受容体が免疫細胞においてcAMP産生を抑制することで、免疫応答を調節する機構によるものと考えられています。
参考)https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2023/06/49664/

アドレナリン受容体のβサブタイプの作用機序

βアドレナリン受容体にはβ1、β2、β3の3つのサブタイプがあります。β受容体はすべて促進性Gタンパク質(Gs)と共役し、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増加させます。​
β1受容体は主に心臓、消化器、脂肪組織、冠血管、大脳皮質に分布しています。ノルアドレナリンとアドレナリンに対して同等の親和性を示します。心臓では最も優位なアドレナリン受容体サブタイプであり、心拍数増加、心筋収縮力増加、刺激伝導速度の増大などの心機能亢進作用を担っています。​
β2受容体は肺、肝臓、膵臓、骨格筋血管、骨格筋、交感神経、白血球、肥満細胞、小脳に広く分布します。アドレナリンに対してノルアドレナリンよりも高い親和性を持ちます。気管支拡張、血管拡張、グリコーゲン分解、骨格筋収縮力増大、化学伝達物質遊離抑制などの作用を発現します。β2受容体は心臓病や喘息の治療薬の重要な標的となっています。
参考)https://www.pharm.tohoku.ac.jp/file/information/20210727.pdf

β3受容体は最後に同定されたβアドレナリン受容体であり、脂肪組織、心臓、血管平滑筋に分布します。β1やβ2受容体とは機能が異なり、主に脂肪分解促進と熱産生に関与しています。ノルアドレナリンとアドレナリンに対して同等の親和性を示します。β3受容体の遺伝子多型は基礎代謝を下げ肥満になりやすいため「倹約遺伝子」として知られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/56/2/56_2_53/_pdf/-char/ja

β3受容体は膀胱平滑筋の弛緩にも関与しており、β3受容体選択的刺激薬であるミラベグロンは過活動膀胱の治療薬として臨床応用されています。興味深いことに、β3受容体は脂肪組織ではGsタンパク質を介してcAMPを増加させるのに対し、心筋ではGi/Oタンパク質を介して心筋収縮を抑制するという組織特異的な機能を持っています。​

アドレナリン受容体サブタイプの臨床応用と薬剤開発

アドレナリン受容体の各サブタイプに対する選択性の高い薬剤が開発され、様々な疾患治療に応用されています。
参考)α1受容体遮断薬一覧・作用機序・服薬指導の注意点「前立腺肥大…

α1受容体作動薬としては、フェニレフリンやミドドリンが血管収縮・血圧上昇作用を目的として使用されます。局所麻酔の効果を長持ちさせるために、アドレナリンの血管収縮作用を活用する手法も広く知られています。
参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/mhiramt/EText/Pharmacol/Pharm-II02-2.html

α1受容体遮断薬は前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療に用いられます。前立腺にはα1A受容体が、膀胱にはα1D受容体が多く分布しており、シロドシン(ユリーフ)はα1A受容体に高い選択性を持ちます。タムスロシン(ハルナール)もα1A受容体選択性が高く、ナフトピジル(フリバス)はα1D受容体に選択性を示します。
参考)302 Found

薬学雑誌のα1アドレナリン受容体分類に関する詳細な解説
α2受容体作動薬のクロニジンやメチルドパは、中枢α2受容体を刺激して交感神経活動を抑制し、高血圧治療に使用されます。メチルドパは特に妊娠中の高血圧に対して用いられます。
参考)薬理学/アドレナリン関係の薬物 - Wikibooks

β1受容体遮断薬は高血圧、狭心症、心不全などの循環器疾患治療に広く使用されています。心臓でのβ1受容体の優位性により、心機能を選択的に抑制できます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo1969/32/2/32_81/_pdf/-char/ja

β2受容体作動薬は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として、気管支拡張作用を目的に使用されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2936015/

β3受容体作動薬のミラベグロンは、膀胱平滑筋のβ3受容体を選択的に刺激し、過活動膀胱の治療に用いられています。β1やβ2受容体への作用が少ないため、心血管系への副作用が少ないという利点があります。​
近年の構造生物学の進歩により、アドレナリン受容体とGタンパク質の複合体構造が詳細に解明されつつあります。これらの知見は、より選択性が高く副作用の少ない新規薬剤の開発につながることが期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6592863/

アドレナリン受容体の相互作用とシグナル伝達経路

アドレナリン受容体のシグナル伝達は、単純な受容体刺激だけでなく、複雑な相互作用や調節機構によって制御されています。
参考)受容体と細胞内情報伝達系(1)|細胞の基本機能

Gタンパク質は、α、β、γの3つのサブユニットから構成され、不活性状態ではαサブユニットにGDPが結合した三量体として存在します。受容体にリガンドが結合すると、GαサブユニットがGDPをGTPに交換し、GβγサブユニットとGα-GTPが解離して、それぞれが効果器にシグナルを伝えます。Gα-GTPは自身のGTPアーゼ活性によってGTPをGDPに加水分解し、再びGβγと結合して不活性状態に戻ります。​
受容体とGタンパク質の共役にも特異性があり、α1受容体はGq/11、α2受容体はGi/O、β受容体はGsと選択的に共役しています。しかし、同じα1受容体でもサブタイプによって異なるGタンパク質と共役することがあります。例えば、心筋細胞のα1A受容体はGqと、α1B受容体はGi/Oと共役し、それぞれ正反対の生理作用を示します。
参考)062.心筋α1アドレナリン受容体刺激によるCa2+チャネル…

受容体タイプ 共役Gタンパク質 主要なシグナル伝達経路 細胞内応答
α1受容体 Gq/11 ホスホリパーゼC活性化 IP3/DG増加、Ca2+上昇
α2受容体 Gi/O アデニル酸シクラーゼ抑制 cAMP減少、Ca2+チャネル抑制
β受容体 Gs アデニル酸シクラーゼ活性化 cAMP増加、PKA活性化

最近の研究では、アドレナリン受容体がGタンパク質経路だけでなく、アレスチンを介した別のシグナル伝達経路も持つことが明らかになっています。アレスチンは受容体の脱感作だけでなく、独自のシグナル伝達を媒介する分子としても機能します。
参考)Gタンパク質共役型β2アドレナリン受容体がシグナル伝達活性を…

また、GPCR同士がヘテロマーを形成し、互いのシグナル伝達を修飾する現象も報告されています。このような受容体間の相互作用は、組織特異的な薬理作用を生み出す基盤となっており、新たな治療標的としても注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11072997/

受容体の細胞内局在も重要な調節機構です。刺激に応じて細胞内に存在する受容体が細胞膜に動員される「受容体リクルートメント」という現象が、受容体感作のメカニズムとして機能しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC22075/

アドレナリン受容体研究の臨床的意義と展望

アドレナリン受容体は創薬標的として極めて重要であり、現在使用されている医薬品の約30%がGPCRを標的としています。アドレナリン受容体を標的とした薬剤は、循環器疾患、呼吸器疾患、泌尿器疾患、代謝疾患など幅広い領域で使用されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4031317/

心臓におけるアドレナリン受容体の役割は特に重要です。心筋細胞には少なくとも6種類のアドレナリン受容体(β1、β2、β3、α1A、α1B、α1D)が存在しています。β1受容体は心収縮機能の急性調節に、α1B受容体は心肥大などの長期的な細胞成長に、α1A受容体は心収縮機能の調節に関与するという機能分担が明らかになっています。​
構造生物学の進展により、アドレナリン受容体の立体構造が次々と解明されています。2007年にβ2アドレナリン受容体の結晶構造が初めて報告されて以来、様々な受容体の活性型・不活性型構造、さらには受容体-Gタンパク質複合体の構造も明らかになってきました。2021年にはβ3受容体の構造も解明され、βアドレナリン受容体すべての立体構造が揃いました。
参考)エンドセリンB型受容体の結晶構造と活性化機構の解明

東北大学によるβ3アドレナリン受容体の立体構造解明に関するプレスリリース
これらの構造情報は、リガンドが受容体に結合して活性化する詳細なメカニズム、受容体とGタンパク質が相互作用する分子基盤を明らかにしており、より効果的で選択性の高い薬剤設計を可能にしています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9170043/

アドレナリン受容体の遺伝子多型と疾患との関連も注目されています。β3受容体の遺伝子多型は肥満や2型糖尿病のリスク因子として知られており、個別化医療への応用が期待されます。​
💡 アドレナリン受容体は、単にノルアドレナリンやアドレナリンの作用を媒介するだけでなく、組織特異的な発現パターンやサブタイプ特異的なシグナル伝達機構によって、極めて精緻な生理機能調節を実現しています。9種類のサブタイプそれぞれの機能と臨床応用を理解することは、適切な薬物療法を行う上で不可欠です。​
今後、アドレナリン受容体のシグナル伝達の多様性、受容体間相互作用、組織特異的な機能調節機構の解明がさらに進むことで、副作用が少なく効果の高い新規治療薬の開発や、個々の患者に最適化された治療法の確立が期待されています。​

 

 


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