アデノウイルスベクターは、DNAウイルスに由来する遺伝子導入ベクターで、遺伝子治療において最も早期に開発・商業化されたベクターの一つです。このベクターは、高い細胞毒性と免疫原性を持つという特徴があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10297569/
構造的特徴:
参考)https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/jgv/10.1099/vir.0.003087-0
アデノウイルスベクターの最大の利点は、高い遺伝子搭載能力にあります。従来の第一世代アデノウイルスベクターでは約7.5kbの外来遺伝子を挿入できますが、全ウイルス遺伝子を除去したガットレス(gutless)ベクターでは36kbまでの大容量遺伝子を搭載可能です。
感染メカニズム:
アデノウイルスは一次受容体への結合後、二次受容体との相互作用により細胞内に取り込まれます。細胞内では、クラスリン被覆小胞を介してエンドソームに輸送され、酸性化によりカプシドが部分的に分解されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1211528/
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、パルボウイルス科に属する小型のDNAウイルスに由来するベクターです。粒子径は18-26nmとDNAウイルスの中で最も小さく、単独では増殖能を持たない特徴的なウイルスです。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%99%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC
構造的特徴:
参考)https://jsv.umin.jp/journal/v57-1pdf/virus57-1_047-056.pdf
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/153/5/153_204/_pdf
AAVの最大の特徴は安全性の高さです。他のウイルスベクターがバイオセーフティーレベル2(BSL2)での取り扱いを必要とするのに対し、AAVは一部例外を除きBSL1での取り扱いが可能です。
受容体特異性:
AAVには多くの血清型が存在し、それぞれ異なる組織指向性を示します:
アデノウイルスベクターによる遺伝子発現は一過性であることが大きな特徴です。これは、アデノウイルスがエピソーマル(染色体外)として存在し、宿主細胞の免疫応答により除去されるためです。
発現期間の制約要因:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10974029/
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10556817/
この一過性発現は、ワクチン応用では利点となりますが、慢性疾患の遺伝子治療では制限となります。一方で、高い導入効率により、短期間で強力な遺伝子発現を誘導できるという利点もあります。
反復投与の問題:
アデノウイルスベクターは反復使用が困難という課題があります。初回投与により中和抗体が産生されるため、同一血清型のベクターでは二回目の投与効果が著しく低下します。
AAVベクターの最も重要な特徴の一つは、非分裂細胞での長期遺伝子発現です。神経細胞や筋細胞などの非分裂細胞では、導入された遺伝子が数年にわたり安定して発現し続けます。
発現持続メカニズム:
しかし、増殖する細胞では導入遺伝子が細胞分裂とともに希釈され、早期に消失するという特徴もあります。この特性により、AAVベクターは標的組織に応じた使い分けが重要となります。
臨床応用実績:
AAVベクターを用いた遺伝子治療は既に臨床で顕著な成果を上げています:
これらの臨床研究では、単回投与による長期的な治療効果が確認されており、AAVベクターの実用性を裏付けています。
アデノウイルスベクターの安全性において最も重要な課題は、強い免疫原性です。この特性は、ベクターの治療効果を制限するとともに、患者の安全性にも影響を与える可能性があります。
免疫反応の種類:
臨床試験では、高用量のアデノウイルスベクター投与により重篤な副作用が報告されています。特に免疫不全患者や小児では、ベクター関連の有害事象のリスクが高まる可能性があります。
安全性向上のアプローチ:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2950567/
近年では、これらの改良により安全性プロファイルが向上しており、COVID-19ワクチンなどで実用化されています。
一方、AAVベクターは卓越した安全性プロファイルを示します。野生型AAVは非病原性であり、ヒトにおける病原性の報告はありません。
参考)https://www.hopaxfc.com/ja/blog/the-four-kinds-of-viral-vectors-which-most-use-in-gene-therapy
AAVの安全性要因:
ただし、AAVベクターにも注意すべき安全性の側面があります。製造過程でヘルパーウイルスとしてアデノウイルスが必要であるため、最終製品からアデノウイルス成分を完全に除去する品質管理が重要です。