Epstein-Barr virus(EBV)は世界人口の約90%以上が感染している極めて身近なウイルスです 。通常、幼児期の感染では不顕性感染として経過し、成人期での初感染では伝染性単核球症を引き起こします 。感染したEBウイルスは生涯にわたってBリンパ球に潜伏感染し、健常人では免疫機能により制御されています 。
参考)EBウイルス関連Bリンパ腫に対する免疫監視機構と新たな治療法…
しかし、免疫機能の低下や特定の遺伝的要因により、EBウイルス感染細胞が制御されずに増殖し、悪性リンパ腫を発症することがあります 。特に臓器移植後の免疫抑制状態やHIV感染による免疫不全では、EBウイルス感染Bリンパ球が腫瘍化してリンパ腫を形成する危険性が高まります 。
参考)https://nsmc.hosp.go.jp/Subject/26/juku/juku014_cyoukou_kanda.html
最新の研究では、EBウイルスが有するBNRF1遺伝子が感染細胞の細胞死を抑制し、安定した増殖を可能にすることが明らかになっています 。このメカニズムにより、EBウイルス感染細胞は腫瘍形成へと進行していくのです 。
参考)https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/PLO_240202.pdf
EBウイルス関連悪性リンパ腫の症状は多岐にわたり、病型により異なる臨床像を呈します 。慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)では、持続する発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫が主要な症状として現れます 。さらに、貧血、血小板減少、肝機能障害、下痢、下血、ぶどう膜炎といった多臓器にわたる症状を呈することが特徴的です 。
参考)疾患の紹介
特に注目すべきは、蚊刺過敏症や種痘様水疱症などの皮膚症状を主症状とする患者が多いことです 。これらの皮膚症状は、EBウイルス感染T細胞やNK細胞の血管壁への浸潤により血管炎を惹起することで生じると考えられています 。
参考)https://jsv.umin.jp/journal/v61-2pdf/virus61-2_163-174.pdf
診断には血液検査でのEBウイルス抗体価測定、EBウイルスDNAの定量検査、感染細胞の表面マーカー解析が重要です 。組織学的検査では、感染したリンパ球の浸潤と、しばしば血球貪食像が観察されます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/4/102_979/_pdf
EBウイルス関連リンパ増殖性疾患(EBV-LPD)は、発症年齢や臨床経過により4つの病型に分類されます 。慢性活動性(CAEBV)、劇症型、進行性成人発症型(PAEBV)、移植後(PT-LPD)という病型があり、それぞれ異なる臨床的特徴を示します 。
慢性活動性EBウイルス感染症は2〜20歳の小児・若年者に好発し、東アジアに特異的に多い疾患です 。この病型では、EBウイルスがB細胞のみならずT細胞やNK細胞にも感染し、多彩な臨床症状を呈します 。
参考)https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/pdf/02403/024030291.pdf
節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型は、EBウイルス関連悪性リンパ腫の中でも特に予後不良な病型として知られています 。この病型は鼻腔を主座とし、日本をはじめとする東アジア地域で高頻度に発生することが特徴的です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiaio/1/3/1_147/_pdf
EBウイルス関連悪性リンパ腫の治療は、病型と重症度に応じた段階的なアプローチが必要です 。慢性活動性EBウイルス感染症の治療は基本的に3つのステップで構成されています 。第1ステップでは免疫化学療法としてステロイドやシクロスポリン、エトポシドを用いて病気を沈静化させます 。
参考)慢性活動性EBウイルス感染症
第2ステップでは数種類の抗がん剤を用いた化学療法を約1か月ごとのペースで反復し、平均2〜4回実施後に第3ステップへ移行します 。第3ステップは根治療法として位置づけられる造血幹細胞移植で、現在のところ慢性活動性EBウイルス感染症を根治できる唯一の治療法です 。
参考)About EBV Infection
移植治療では、まず移植準備用の抗がん剤により病気のリンパ球を根絶し、その後健康なドナーからの造血細胞を移植します 。近年では骨髄非破壊的前処置を用いた移植により、良好な成績が得られつつあります 。移植後は2〜4週間で初期回復し、2〜4か月で退院可能となり、平均2〜4年で完全復帰が期待できます 。
EBウイルス関連悪性リンパ腫は一般に抗がん剤が効きにくく、予後不良であることが知られています 。多変量解析により、8歳以上の発症と肝障害が独立した生命予後不良因子として同定されており、逆に移植を受けた患者では生命予後が改善することが示されています 。
参考)発がんウイルス(EB ウイルス)に感染した細胞の増殖が促進さ…
現在、新たな治療選択肢として、JAK阻害薬であるルキソリチニブの臨床試験が進行中です 。ルキソリチニブは持続する炎症症状の改善と、EBウイルス感染細胞の腫瘍化に対する効果が期待されており、移植前の疾患活動性を抑制することで移植成績の改善につながる可能性があります 。
参考)慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)外来
また、EBウイルス由来タンパクを治療標的としたペプチドワクチンの開発や 、BNRF1やIFI27を標的とする新たな治療法の開発も進められています 。節外性NK/T細胞リンパ腫に対しては、免疫療法を含めた新規治療戦略の検討が行われており 、今後の治療成績向上が期待されています。
参考)希少な血液がん節外性 NK/T 細胞リンパ腫・鼻型に対して免…
早期診断と適切な治療選択により、EBウイルス関連悪性リンパ腫の予後改善が可能となってきており、継続的な研究開発により更なる治療成績の向上が望まれます 。