CLIA法 原理について
CLIA法の主なポイント
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高感度な検出
ゼプトモル(10^-21 mol)レベルの超高感度検出が可能
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迅速な測定
短時間で結果が得られ、ハイスループット分析に適している
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広いダイナミックレンジ
幅広い濃度範囲での測定が可能で臨床検査に最適
CLIA法の基本原理と測定メカニズム
CLIA法(Chemiluminescent Immunoassay:化学発光免疫測定法)は、免疫反応の特異性と化学発光の高感度性を組み合わせた先進的な測定技術です。この方法は、従来の比色ELISA法に代わる高感度かつハイスループットな検査法として広く活用されています。
CLIA法の基本原理は以下のステップで構成されています。
- 抗原抗体反応:固相化された抗体(または抗原)に検体中の目的分子(抗原または抗体)を反応させます。
- 標識抗体の結合:続いて、化学発光性物質で標識された抗体を二次反応させます。
- 化学発光反応:最後に、適切な条件下で化学発光反応を誘導します。
- 発光量測定:放出される光の量を測定することで、検体中の目的分子を高感度に検出・定量します。
この測定法の特徴は、酵素反応により生成された中間体が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出する現象を利用している点にあります。発光量は検体中の目的分子の濃度に比例するため、定量的な分析が可能となります。
CLIA法で測定される発光は「相対的発光量(RLU:Relative Light Unit)」として計測され、サンプル中のアナライト(分析対象物質)の量に比例する特性を持っています。
CLIA法とCLEIA法の違いと特徴比較
CLIA法とよく混同されるのが、CLEIA法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay:化学発光酵素免疫測定法)です。両者は似た名称を持ちますが、測定原理に重要な違いがあります。
CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)の特徴:
- 固相化した抗体に対して抗原を反応させた後、酵素標識した抗体を抗原に二次反応させます。
- 化学発光基質を加えて発光強度を測定します。
- ELISAと同様の抗原抗体反応を利用しますが、吸光度ではなく発光量で酵素活性を測定します。
- 多くの場合、磁性粒子を担体として使用します。
CLIA法(化学発光免疫測定法)の特徴。
- 固相化した抗体に対して抗原を反応させた後、化学発光性物質で直接標識した抗体を抗原に二次反応させます。
- 発光反応を直接誘導して測定します。
- 酵素反応を介さず、化学発光物質自体が光を放出します。
両者の最大の違いは、CLEIAでは酵素標識抗体を用いるのに対し、CLIAでは化学発光性化合物で直接標識した抗体を使用する点にあります。この差異により、反応過程や測定感度に違いが生じます。
以下の表で両者の特徴を比較してみましょう。
特性 |
CLIA法 |
CLEIA法 |
標識物質 |
化学発光性物質 |
酵素 |
反応段階 |
少ない |
やや多い |
測定感度 |
極めて高い |
高い |
反応時間 |
短い |
やや長い |
操作の複雑さ |
比較的シンプル |
やや複雑 |
CLIA法の主な種類と測定プロセス
CLIA法は標識方法や測定原理によっていくつかの種類に分類されます。主な種類は以下の通りです。
1. 酵素マーカーを用いたCLIA間接法
この手法は一般的なCLIA法として広く利用されています。特徴は以下の通りです。
- ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(AP)を二次抗体と結合させて使用します。
- HRPまたはAPと二次抗体の複合体が、ルミノールやCSPD試薬などの化学発光性基質を変換します。
- 例えば、ルミノールは過酸化水素により酸化されると、波長425 nmの光を放出します。
- フェリシアン化カリウムや過ヨウ素酸カリウムなどのエンハンサーを添加することで、電子の活性化が促進され、分析感度が向上します。
2. 発光分子マーカーを用いたCLIA直接法
この方法では、発光分子を直接標識として使用します。
- アクリジニウムエステルなどの発光分子をモノクローナル一次抗体と直接結合させます。
- アクリジニウムエステルは、アルカリ性過酸化水素の存在下で自発的に酸化し、約2秒間にわたり429 nmの波長の光を放出します。
- ルミノールと比較して発光時間は短いものの、非常に強い光を放出するという特徴があります。
測定プロセスの流れ。
- サンプル準備:検体を適切に調製します。
- 一次反応:固相化された抗体(または抗原)と検体を反応させます。
- 洗浄:未結合の物質を除去します。
- 二次反応:標識抗体を添加して反応させます。
- 再洗浄:未結合の標識抗体を除去します。
- 発光反応:化学発光基質や発光誘導剤を添加します。
- 測定:ルミノメーターを用いて発光強度を測定します。
- 解析:検量線を用いて定量分析を行います。
CLIA法の感度と精度における優位性
CLIA法は現代の臨床検査において最も感度の高い検出方法の一つとして広く認識されています。その高い感度と精度の源泉は以下のような特性にあります。
1. 超高感度検出能力
- 検出限界はゼプトモル(10^-21 mol)オーダーに達し、極微量の生体分子も正確に検出できます。
- バックグラウンドノイズが少なく、シグナル対ノイズ比(SN比)が高いため、微量物質の検出精度が向上します。
- 特にホルモン、腫瘍マーカー、感染症マーカーなどの微量物質の検出に有用です。
2. 広いダイナミックレンジ
- 低濃度から高濃度まで広い範囲で直線性を保ちながら測定可能です。
- サンプル希釈の必要性が減り、操作エラーを減少させます。
3. 測定効率の高さ
- 早い反応時間と持続的な発光シグナルにより、迅速かつ安定した測定が可能です。
- エンハンサーの使用により、光の出力量を低下させることなく発光反応を長時間持続させることができます。
4. 自動化システムとの相性
- 全てのマイクロプレートのフォーマットとサイズに適合し、自動化やハイスループットスクリーニングにも適しています。
- 白色の不透明なマイクロプレートを使用することで、バックグラウンドとクロストークを最小限に抑えることができます。
従来のELISA法と比較したCLIA法の優位点。
特性 |
CLIA法 |
従来のELISA法 |
感度 |
ゼプトモルオーダー |
ピコモル~ナノモルオーダー |
測定時間 |
短時間(分単位) |
長時間(時間単位) |
操作手順 |
比較的少ない |
多段階 |
停止試薬 |
不要 |
必要 |
インキュベーション |
短時間 |
長時間 |
定量範囲 |
広い |
比較的狭い |
これらの特性から、CLIA法は特に低濃度の測定が必要な場面や、多検体処理が求められる大規模な臨床検査において優れた性能を発揮します。
CLIA法の臨床応用と最新技術動向
CLIA法は、その高感度・高精度の特性から、臨床検査の様々な分野で重要な役割を果たしています。現在の主な応用分野と最新の技術動向についてご紹介します。
臨床検査における主な応用分野。
- 内分泌学的検査
- 甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4など)の微量定量
- 性ホルモン(エストラジオール、テストステロン、プロゲステロンなど)の測定
- 副腎皮質ホルモンなどの測定
- 腫瘍マーカー測定
- CEA、AFP、CA19-9、PSAなどの微量マーカーの高感度検出
- 早期がんの診断における低濃度マーカーの検出能力向上
- 感染症診断
- 自己免疫疾患診断
- 自己抗体の定量的評価
- 複数自己抗体の多項目同時測定システム
- 薬物モニタリング
- 免疫抑制剤など治療域の狭い薬物の血中濃度測定
- 乱用薬物のスクリーニング
最新の技術動向と革新。
- マイクロ流体技術との融合
- 極少量のサンプルで高感度検出が可能なマイクロCLIAチップの開発
- 現場即時検査(POCT)への応用拡大
- マルチプレックスCLIA
- 単一反応系で複数の分析対象を同時測定できるシステム
- 診断効率の向上と検査コスト削減の実現
- AIと機械学習の統合
- 発光パターン解析による検出精度の向上
- データ処理の自動化と結果解釈の支援システム
- ナノ粒子を活用した次世代CLIA
- 量子ドットや金ナノ粒子を活用した超高感度検出システム
- 従来検出が困難だった生体分子の測定を実現
- デジタルCLIA
- 単一分子検出技術を応用したデジタルカウンティング方式
- 従来の定量限界を超える超高感度アッセイの実現
臨床検査室における実装面では、自動化システムとの統合が進み、サンプル前処理から測定、データ解析までの一連のプロセスが効率化されています。また、検査室間での標準化や精度管理も進んでおり、結果の信頼性向上に貢献しています。
将来的には、CLIA法のさらなる感度向上と簡易化が進み、ベッドサイド検査や在宅検査への応用も期待されています。特に新興感染症の迅速診断や、個別化医療に対応した超微量バイオマーカー検出など、医療の発展に重要な役割を果たすでしょう。
CLIA法における最適なマイクロプレート選択と品質管理
CLIA法の測定精度と信頼性を最大化するためには、適切なマイクロプレートの選択と厳格な品質管理が不可欠です。特に発光測定に特化したプレート選びは、測定結果に大きな影響を与える重要な要素となります。
最適なマイクロプレート選択の基準。
- 材質と色
- 不透明な白色プレートが最も一般的に使用されます
- 白色プレートは発光シグナルを効率よく反射し、検出感度を向上させます
- 無地の白色または底が透明なウェルのプレートが推奨されます
- プレート形状と構造
- ウェル形状(平底、U底、V底など)は分析対象や固相化方法に応じて選択
- ウェル間のクロストーク(光の漏れ)を最小限に抑える設計が重要
- 高感度測定では、ウェル壁の厚さと光学特性も考慮すべき要素
- 表面処理と固相化特性
- 抗体や抗原の固相化に適した表面処理(高吸着性、共有結合性など)
- 非特異的吸着を抑制する処理の有無
- 洗浄耐性と安定性の高さ
- 自動化システムとの互換性
- 使用する機器に適合するフォーマットとサイズの選択
- バーコード対応など自動識別システムへの適合性
- 耐化学薬品性と機械的強度
品質管理のポイント。
- 検量線の適正評価
- 広いダイナミックレンジをカバーする複数ポイントの検量線作成
- 検量線の直線性と再現性の確認
- 検出限界と定量限界の適切な設定と定期的検証
- 内部精度管理
- 既知濃度のコントロール試料を用いた日内・日間変動の監視
- レビー・ジェニングスチャートなどによる測定システム安定性の継続的評価
- 異常値の早期検出と対応手順の確立
- 外部精度管理プログラムへの参加
- 第三者機関による外部精度管理調査への定期的参加
- 他施設との測定値比較による標準化レベルの確認
- 測定バイアスの検出と補正
- 測定プロセスの最適化
- 洗浄工程の効率と完全性の確認
- インキュベーション条件(時間、温度)の厳密な管理
- 試薬の安定性と有効期限の管理
- 装置メンテナンス
- 発光検出器の定期的な校正と感度チェック
- 温度制御システムの精度確認
- 自動分注システムの精度検証
適切なマイクロプレート選択と徹底した品質管理により、CLIA法の持つ高感度・高精度というポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になります。臨床検査現場では、これらの要素に細心の注意を払いながら、信頼性の高い検査結果を提供することが求められます。
CLIA法と他の免疫測定法との比較と使い分け
CLIA法は優れた測定法ですが、臨床検査室では目的や状況に応じて様々な免疫測定法が使い分けられています。それぞれの特徴を理解し、最適な方法を選択することが重要です。
主要免疫測定法の比較。
測定法 |
原理 |
感度 |
操作性 |
コスト |
特徴 |
CLIA法 |
化学発光免疫測定 |
極めて高い |
比較的簡便 |
中~高 |
高感度・広ダイナミックレンジ |
CLEIA法 |
化学発光酵素免疫測定 |
高い |
やや複雑 |
中~高 |
高感度・安定した測定 |
ELISA法 |
酵素免疫測定 |
中程度 |
多段階 |
低~中 |
汎用性高・特殊機器不要 |
RIA法 |
放射性免疫測定 |
高い |
複雑 |
高い |
高感度・放射性物質管理必要 |
ECLIA法 |
電気化学発光免疫測定 |
極めて高い |
簡便 |
高い |
超高感度・背景ノイズ低減 |
EIA法 |
酵素免疫測定 |
中程度 |
やや複雑 |
中程度 |
汎用性高い |
使い分けのポイント。
- 検出感度が最優先の場合
- 微量物質(ホルモン、サイトカインなど)の検出にはCLIA法またはECLIA法が最適
- 特に低濃度域での精度が求められる場合はCLIA法の選択が有利
- 多検体処理が必要な場合
- 大量検体の効率的処理にはCLIA法の自動化システムが適している
- 処理速度と精度のバランスが取れている
- コストと設備の制約がある場合
- 小規模施設や予算制約がある場合はELISA法が経済的
- 特殊な機器が不要で導入コストが低い
- 特殊な測定対象の場合
- 特異性が極めて重要な場合は、適切な抗体選択とともにCLIA法やECLIA法が推奨
- 複雑なマトリックス効果がある検体ではELISA法の方が安定した結果を得られることも
- 測定環境と要求される迅速性
- 緊急検査や短時間での結果報告が必要な場合はCLIA法が有利
- フィールド検査や特殊環境下ではポータブルなELISAキットの方が実用的なケースも
選択のための実践的アプローチ。
適切な免疫測定法を選択する際には、以下の点を総合的に評価することが重要です。
- 測定対象の特性(分子量、安定性、標準物質の有無)
- 必要な検出限界と測定範囲
- サンプル数と検査頻度
- 利用可能な設備と技術者のスキル
- 検査結果の報告に求められる迅速性
- コスト制約(機器、試薬、人件費を含む総コスト)
多くの臨床検査室では、これらの要素を総合的に判断した上で、複数の免疫測定法を保有し、測定対象や状況に応じて使い分けるアプローチを採用しています。特に中核病院では、CLIA法を主軸としながらも、特定の検査項目では他の方法を併用することで、効率性と正確性を両立させています。