兎眼の原因として最も頻度が高いのは顔面神経麻痺です。顔面神経麻痺による兎眼は「麻痺性兎眼」と呼ばれ、眼輪筋の機能不全により眼瞼閉鎖が不完全となります。
顔面神経麻痺の原因は多岐にわたり、以下のような要因が挙げられます。
Bell麻痺は自然治癒率が高いものの、治療後も麻痺が残存するケースがあり、これが慢性的な兎眼の原因となることがあります。初期段階では「夜間性兎眼」として現れることが多く、睡眠中のみ症状が顕在化するため見逃されやすい特徴があります。
顔面神経麻痺による兎眼では、眼症状以外にも以下の症状を併発します。
これらの症状の組み合わせにより、兎眼の原因が顔面神経麻痺であることを早期に判断することが可能です。
兎眼の初期症状は、眼瞼閉鎖不全による角膜と結膜の乾燥から始まります。涙液の保護機能が低下することで、以下のような症状が段階的に現れます。
初期症状の特徴:
これらの症状は一般的なドライアイと類似しているため、初期診断で見落とされることがあります。しかし、兎眼によるドライアイは通常のドライアイと異なり、眼瞼閉鎖不全による機械的な乾燥が主因であるため、点眼治療のみでは根本的な改善が困難です。
進行期の症状:
症状が進行すると、以下のような重篤な合併症を発症します。
角膜潰瘍が深部に及ぶと、細菌感染を併発し重症化するリスクが高まります。特に夜間に症状が悪化しやすく、朝の起床時に強い症状を訴える患者が多いのも特徴的です。
長期間放置すると角膜が白濁し、永続的な視力障害を残す可能性があるため、早期の診断と治療介入が重要です。
外傷や手術による瘢痕拘縮は、兎眼の重要な原因の一つです。瘢痕性兎眼は、眼瞼の形態学的変化により機械的に眼瞼閉鎖が妨げられる病態です。
主な原因:
眼瞼下垂手術後の兎眼は医原性合併症として注意が必要です。上眼瞼を過度に挙上することで、眼瞼閉鎖不全を生じるケースが報告されています。手術適応の慎重な検討と術後の経過観察が重要です。
眼瞼外反による兎眼:
下眼瞼の外反も兎眼の原因となります。
外反の程度により症状の重篤度が決まり、軽度では軽微な乾燥症状のみですが、高度外反では完全な眼瞼閉鎖不全を呈します。
眼瞼欠損:
先天性または後天性の眼瞼欠損も兎眼の原因となります。外傷や腫瘍切除により眼瞼組織が失われた場合、再建手術が必要となることが多く、形成外科との連携が重要です。
甲状腺眼症による眼球突出は、兎眼の重要な原因の一つです。甲状腺機能亢進症、特にバセドウ病患者に多く見られますが、橋本病などの甲状腺機能低下症でも稀に発症します。
甲状腺眼症の病態:
甲状腺眼症では以下のメカニズムにより兎眼が発症します。
眼球突出により眼瞼が眼球表面を完全に覆えなくなり、機械的な兎眼が生じます。さらに、上眼瞼後退を併発することが多く、症状が増悪します。
その他の眼球突出原因:
これらの疾患では、原疾患の治療と並行して兎眼に対する対症療法が必要です。
診断のポイント:
甲状腺眼症による兎眼の診断では以下の点が重要です。
内分泌科との連携により、甲状腺疾患の適切な管理が兎眼の改善に直結します。
医療従事者として兎眼の早期診断において重要なのは、患者の主訴を詳細に聴取し、見逃されやすい夜間症状を含めた包括的な評価を行うことです。
診察時の注意点:
一般的に見落とされがちなのが「部分的兎眼」です。完全な眼瞼閉鎖不全ではなく、眼瞼縁の一部に小さな隙間が生じるケースで、軽微な症状のため患者自身も気づいていないことがあります。
夜間兎眼の重要性:
夜間のみ症状が現れる夜間兎眼は、日中の診察では発見が困難です。以下の症状がある場合は夜間兎眼を疑う必要があります。
鑑別診断のポイント:
兎眼と類似症状を呈する疾患との鑑別が重要です。
ドライアイとの鑑別:
眼瞼痙攣との鑑別:
検査所見の解釈:
細隙灯顕微鏡検査では以下の所見に注目します。
治療選択の判断基準:
兎眼の重症度に応じた治療選択が重要です。
軽症例。
中等症例。
重症例。
医療従事者として最も重要なのは、兎眼の早期発見により重篤な合併症を予防することです。特に顔面神経麻痺の既往がある患者や甲状腺疾患患者では、定期的な眼科スクリーニングを推奨し、適切な医療連携を構築することが患者の視機能保護につながります。
参考:日本眼科学会による兎眼診療ガイドライン
https://www.nichigan.or.jp/