アブミ骨筋 マッサージで耳鳴り聴覚過敏を改善する医療従事者向けガイド

アブミ骨筋 マッサージの効果と臨床応用

アブミ骨筋の解剖学的基礎とマッサージの作用メカニズム

アブミ骨筋（stapedius muscle）は中耳腔内に位置する最小の骨格筋で、アブミ骨の頸部に付着し、顔面神経の分枝であるアブミ骨神経によって支配されています。この筋肉は約1.5mmの長さで、音響刺激に対する反射的収縮により内耳を保護する役割を担っています。
参考）http://natural-clinic.jp/blog/2019/05/07/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%9F%E9%AA%A8%E7%AD%8B%E3%81%AE%E7%AD%8B%E3%83%88%E3%83%AC%EF%BC%9F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%94%E3%83%BC/

 

マッサージによる効果のメカニズムは、以下の生理学的プロセスに基づいています。

• 顔面神経の機能正常化: アブミ骨筋神経は顔面神経から分岐するため、顔面のマッサージが顔面神経全体の機能改善につながります

  参考）https://www.s-treatment.com/17322877096410

   

• 血流改善: 後耳介動脈アブミ骨筋枝への血流促進により、筋肉の酸素供給と代謝が向上します
• 筋緊張の緩和: 慢性的な緊張状態にあるアブミ骨筋の弛緩を促進し、音響調節機能を回復させます

  参考）http://www.itaya.or.jp/?p=886

   

耳小骨筋反射のメカニズムでは、鼓膜張筋とアブミ骨筋が協調して働き、大音量の音響刺激から内耳を保護しています。アブミ骨筋が収縮すると、アブミ骨を前庭窓から引き離すように作用し、音の伝達効率を調整します。
参考）https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/7703/report2014_07.pdf

 

アブミ骨筋マッサージの具体的手技とテクニック

効果的なアブミ骨筋マッサージには、直接的手技と間接的手技の両方が重要です。

 

直接的アプローチ手技:

• 耳周辺マッサージ: 耳たぶを軽く後方に5回回転させ、ほお骨下縁からえらに向かって斜めに軽くなで下ろします

  参考）https://shinchidai-jibi.com/instructions/ksmimi18/

   

• 耳介後方への圧迫: 耳介後方の乳様突起周辺を軽く圧迫し、後耳介動脈の血流を促進します
• リズミカルな刺激: マーチのリズムに合わせて耳栓をした状態で10分程度の歩行を行い、アブミ骨筋をリズミカルにマッサージします

間接的アプローチ手技:

• 顔面表情筋のマッサージ: 顔面神経の機能改善を通じてアブミ骨筋の調節機能を向上させます

  参考）https://miejibika.com/wp-content/uploads/2024/11/r4_5.pdf

   

• 側頭筋マッサージ: 咀嚼筋の緊張緩和により、三叉神経と顔面神経の相互作用を改善します

  参考）https://www.treat-gaku.com/ear_clogging

   

• 音楽療法の併用: 抑揚のある音楽を聴きながらハミングすることで、アブミ骨筋をリズミカルに動かします

  参考）https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20131222-OYTEW56753/

   

施術時の注意点として、過度な力を加えずに優しく行うことが重要です。強すぎるマッサージは逆に筋緊張を増加させる可能性があります。
参考）https://www.yoshijibika.com/archives/15254

 

アブミ骨筋マッサージによる耳鳴りと聴覚過敏の改善効果

アブミ骨筋マッサージは、特に以下の症状に対して有効性が報告されています。

 

耳鳴りに対する効果:

• アブミ骨筋性耳鳴り: 顔の動きに連動して生じる耳鳴りの改善
• 筋収縮による耳鳴り: アブミ骨筋の異常収縮により発生する耳鳴りの軽減

  参考）https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology1968/16/2/16_2_81/_pdf

   

• 顔面神経麻痺後の耳鳴り: 顔面神経麻痺の回復過程で生じる耳鳴りの緩和

聴覚過敏に対する効果:
聴覚過敏は、アブミ骨筋の機能不全により音の調節ができなくなることで発症します。マッサージによる改善メカニズムは以下の通りです：

• 音響反射の正常化: アブミ骨筋反射の機能回復により、大きな音に対する保護機能が改善されます
• 神経機能の正常化: 顔面神経とアブミ骨筋の協調性が向上し、音量調整機能が回復します
• 血流改善による代謝向上: 筋肉の酸素供給改善により、筋機能が正常化されます

臨床報告では、スーパーの冷蔵庫の低音が耳に響くという訴えが最も多く、これらの症状がマッサージにより改善されることが確認されています。

アブミ骨筋マッサージと顔面神経麻痺の関連性

顔面神経麻痺とアブミ骨筋の関係は、診断と治療の両面で重要な意味を持ちます。

 

診断における重要性:
アブミ骨筋反射の消失は、顔面神経麻痺の障害部位診断に有用です。アブミ骨筋反射が消失している場合、障害部位は顔面神経の水平部より近位側（suprastapedial lesion）であることが判明します。108例の末梢性顔面神経麻痺の研究では、75例で発症時にsuprastapedial lesionが認められました。
参考）https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1492208506

 

治療における応用:

• 早期マッサージの重要性: 発症直後からの顔面表情筋マッサージにより、筋肉のこわばりを防ぎ後遺症を予防します
• 病的共同運動の予防: 正しいマッサージ手技により、目と口の異常な連動を防ぐことができます
• アブミ骨筋反射の回復促進: マッサージによる血流改善と神経機能正常化により、反射機能の早期回復が期待されます

予後予測への活用:
アブミ骨筋反射の回復時期と顔面神経麻痺の回復率には良好な相関関係があり、反射の早期回復は良好な予後を示唆します。これにより、マッサージ治療の効果判定と治療方針の決定に役立てることができます。

アブミ骨筋マッサージの新しい臨床応用と未来展望

従来の聴覚系疾患治療に加えて、アブミ骨筋マッサージの新たな応用分野が注目されています。

 

音楽療法との統合アプローチ:
セーフ・アンド・サウンド・プロトコル（SSP）の概念を応用し、特定の周波数で変調された音楽を聴きながらマッサージを行うことで、より効果的な治療が可能となります。この方法は、アブミ骨筋の調節機能活性化と社会交流神経系の改善を同時に図れる画期的なアプローチです。
自律神経系への影響:
最新の研究では、アブミ骨筋マッサージが腹側迷走神経を刺激し、社会交流神経系の機能改善に寄与することが示唆されています。これにより、聴覚症状の改善だけでなく、ストレス軽減や心理的安定にも効果が期待されます。
予防医学への展開:
日常的なアブミ骨筋のメンテナンスとして、以下の予防的アプローチが提案されています。

• 音楽のある生活習慣: 抑揚のある音楽を日常的に聴くことで、アブミ骨筋の柔軟性を維持します
• 発声練習の活用: ハミングや歌唱による自然なアブミ骨筋運動の促進
• 定期的な耳周辺マッサージ: 予防的なセルフケアとしての活用

テクノロジーとの融合:
将来的には、音響解析技術と組み合わせたバイオフィードバック療法や、超音波を用いた非侵襲的なアブミ骨筋刺激法の開発が期待されています。これらの技術により、より精密で個別化されたマッサージ治療が可能になると考えられます。

 

多職種連携の重要性:
アブミ骨筋マッサージの効果を最大化するためには、耳鼻咽喉科医、理学療法士、音楽療法士、鍼灸師等の多職種連携が不可欠です。各専門職の知識と技術を統合することで、より包括的で効果的な治療アプローチが実現できるでしょう。
この新しい治療分野の発展により、従来の薬物療法や手術療法に加えて、非侵襲的で副作用の少ない治療選択肢として、アブミ骨筋マッサージがますます重要な位置を占めることが予想されます。

 

アブミ骨筋セラピーに関する臨床応用について - ナチュラル心療内科クリニック
聴覚過敏の鍼灸治療におけるアブミ骨筋の役割について詳細に解説