ツルバダ配合錠は、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)300mgとエムトリシタビン(FTC)200mgを含有する固定用量配合剤です。TDFはテノホビルのプロドラッグとして設計されており、細胞内でテノホビル二リン酸(TFV-DP)に変換されてHIVの逆転写酵素を阻害します。
参考)https://hiv-map.net/post/truvada-prep-approved/
HIV治療においてツルバダは長期間にわたって広く使用されており、その効果は十分に実証されています。PrEP(曝露前予防)としても2012年から米国で承認され、デイリー服用では約99%の予防効果を示すことが複数の大規模臨床試験で確認されています。
日本では2024年8月にHIV感染予防薬として薬事承認を取得し、現在はツルバダが国内で唯一承認されたPrEP薬となっています。デイリーPrEPとオンデマンドPrEPの両方で豊富なエビデンスを有しており、男性同性愛者・両性愛者のみならず、異性愛男性や女性に対しても適応が認められています。
参考)https://pcct.jp/blog/2025/01/31/prep%E3%81%AB%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8A%E8%96%AC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
しかし、長期使用における副作用として腎機能障害と骨密度低下が懸念されており、特に既存の腎機能障害がある患者では慎重な投与が求められます。使用前にはeGFR 60以上であることの確認が必要とされています。
参考)http://shclinic.ncgm.go.jp/prep.html
デシコビ配合錠は、テノホビルアラフェナミド(TAF)とエムトリシタビン(FTC)の配合剤で、ツルバダの改良版として開発されました。TAFはより新しいテノホビルのプロドラッグであり、血漿中での安定性が高く、標的細胞により効率的に取り込まれるため、ツルバダの10分の1の用量(25mg)で同等の抗ウイルス効果を発揮します。
参考)https://www.hiv-pt-portal.jp/library/descovy/dvy_onomi.pdf
最も重要な改良点は、長期使用時の副作用プロファイルの大幅な改善です。臨床試験においてデシコビはツルバダと比較して腎機能検査値の変化が有意に小さく、骨密度低下もほとんど認められませんでした。これにより、腎機能障害や骨粗鬆症のリスクが高い患者でも、より安全に長期使用することが可能となっています。
HIV治療においては、多くの医療機関でツルバダからデシコビへの切り替えが進んでおり、特に長期治療が必要な患者では第一選択薬として位置づけられています。デシコビの使用には、クレアチニンクリアランス30ml/min以上という腎機能の条件があり、ツルバダよりも軽い腎機能要件となっています。
参考)https://idaten.clinic/blog/about-hiv-prep/
PrEPとしての使用については、デイリー服用での予防効果はツルバダと同等であることが確認されていますが、日本では現在のところ薬事承認を取得していません。
両薬剤の副作用プロファイルには明確な差異があり、臨床選択において重要な判断材料となります。短期的な副作用については両薬剤とも類似しており、吐き気、腹痛、下痢、頭痛、皮疹などが報告されています。
参考)https://idaten.clinic/en/blog/about-hiv-prep/
しかし、長期使用時の副作用には顕著な違いがあります。ツルバダでは腎機能障害と骨密度低下が主要な懸念事項となっており、定期的な腎機能モニタリングと骨密度検査が必要です。特に高齢患者や既存の腎疾患がある患者では、これらのリスクが高くなる傾向があります。
一方、デシコビは腎機能や骨代謝への影響が大幅に軽減されており、長期使用における安全性が向上しています。この差は、TAFがTDFよりも低用量で効果を発揮し、全身曝露量が少ないことに起因しています。
薬物相互作用についても違いがあり、デシコビは特定の薬剤との併用に注意が必要な場合があります。また、薬剤費用の面では、デシコビがより新しい薬剤であるため一般的に高額になる傾向がありますが、長期的な医療費を考慮すると副作用による追加治療費の削減効果も期待できます。
PrEPとしての使用において、ツルバダとデシコビには適応範囲とエビデンスレベルに差異があります。ツルバダはデイリーPrEPとオンデマンドPrEPの両方で豊富な臨床データを有しており、男性同性愛者・両性愛者、異性愛男性、女性、トランス男性(FtM)など幅広い対象群で効果が確認されています。
特にオンデマンドPrEPについては、ツルバダでのみ明確なエビデンスが確立されており、性行為の前後2-1-1レジメン(性交2-24時間前に2錠、24時間後と48時間後に各1錠)での有効性が実証されています。
デシコビについては、デイリーPrEPでの効果は確認されているものの、オンデマンドPrEPや女性での使用については現時点で十分なエビデンスが蓄積されていません。ただし、CHAPS試験などの初期研究では、デシコビのオンデマンド使用でも有望な結果が示されており、今後のエビデンス蓄積が期待されています。
参考)https://ph-clinic.org/blog/5274/
日本の「HIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用の手引き」では、現在のところデシコビのオンデマンド使用は推奨されていませんが、海外では既に一部の国でオンデマンドPrEPとしても承認されており、今後の指針改訂が見込まれています。
医療従事者にとって適切な薬剤選択は、患者の個別要因と治療目標を総合的に評価することが重要です。ツルバダからデシコビへの移行は、世界的なトレンドとなっており、特に長期治療が必要なHIV陽性患者では積極的に検討されています。
移行のタイミングとしては、腎機能の低下傾向が認められた場合、骨密度低下が検出された場合、または予防的観点から長期安全性を重視する場合が挙げられます。移行時には薬物動態の違いを考慮し、適切な用量調整と効果モニタリングが必要です。
新規患者への処方選択においては、患者の年齢、既存疾患、腎機能、骨密度、併用薬、治療継続期間の予測などを総合的に評価します。若年で腎機能・骨密度に問題がない患者でも、長期使用を前提とする場合はデシコビの選択が推奨される傾向があります。
PrEP使用では、使用方法(デイリーまたはオンデマンド)、対象患者群(性別、性的指向)、現地の承認状況、費用対効果などを考慮した選択が必要です。現在の日本では、薬事承認を受けたツルバダが第一選択となりますが、副作用リスクを重視する場合はデシコビのジェネリック製剤という選択肢もあります。
今後は、デシコビのPrEP適応拡大や、より副作用の少ない新規薬剤の開発が期待されており、医療従事者は最新のエビデンスと承認状況を継続的に把握することが求められます。
参考情報:ツルバダの薬事承認に関する詳細情報
HIV感染予防のためのツルバダ薬事承認に関する包括的解説
参考情報:PrEP薬剤の比較と選択指針
PrEP使用薬剤の詳細な比較検討資料
参考情報:デシコビのオンデマンドPrEP研究データ
CHAPS試験におけるデシコビオンデマンドPrEPの臨床研究結果