血糖コントロールがHbA1c 7%台でも、神経障害は発症することがあります。

糖尿病の三大合併症は、神経障害(し)→網膜症(め)→腎症(じ)、頭文字をとって「しめじ」という語呂合わせで知られています。 この順番は、細い血管(細小血管)が傷みやすい組織に対して障害が進む生理学的な順序を反映しています。
高血糖状態が約8年続くと細小血管障害が顕在化してくると言われています。 神経は毛細血管への依存度が高く血流障害に敏感なため、最も早く障害が現れます。
| 合併症 | 発症の目安 | 主な症状 | 語呂 |
|---|---|---|---|
| 糖尿病性神経障害 | 罹患5〜10年 | 足底のしびれ・ピリピリ感、ED、起立性低血圧 | し |
| 糖尿病性網膜症 | 罹患5〜10年 | 視力低下、飛蚊症、失明リスク | め |
| 糖尿病性腎症 | 罹患10〜15年 | 蛋白尿、浮腫、透析移行 | じ |
神経障害と網膜症は発症時期がほぼ重なるケースも多いです。 腎症は最も遅く出現し、症状が現れた段階では透析に移行するリスクが非常に高い状態になっています。 つまり「順番通り」だけを意識すると、腎症の発見が遅れる危険があります。
関連)https://www.yukawa-naika.com/complications/
「しめじの順番は絶対」という認識は危険です。
HbA1cが7%台で比較的コントロール良好でも、糖尿病性神経障害が発症する症例は報告されています。 神経障害の発症にはHbA1cの絶対値だけでなく、罹病期間・血糖変動の幅が大きく影響します。
関連)https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/10.pdf
また、高血圧や脂質異常症を合併している患者では、大血管障害(心筋梗塞・脳梗塞)が三大合併症よりも先に顕在化することがあります。 この場合は「えのき(壊疽・脳卒中・心筋梗塞)」と呼ばれる合併症が先行します。
関連)https://www.yukawa-naika.com/complications/
これは見落とせないポイントですね。定期的な尿蛋白・eGFR確認が、腎症の早期発見に不可欠です。
参考:MSDマニュアル プロフェッショナル版「糖尿病の合併症」
MSD Manuals - 糖尿病の合併症(プロフェッショナル版)
神経障害は最初に現れる合併症ですが、患者自身が気づかないことが多いです。
足底のしびれや「靴下をはいているような感覚」が神経障害の典型的な初期症状です。 ただし自律神経障害が先行するケースでは、便秘・起立性低血圧・発汗異常などが先に現れ、末梢神経症状より前に気づくこともあります。
関連)https://www.akabaneheart-clinic.com/complication/
スクリーニングには以下の3つが標準的です。
結論はスクリーニングの早期実施です。 HbA1c 8%前後から神経障害の出現頻度が上昇するとされており、外来での定期評価が重症化予防の鍵になります。
関連)https://ishinkai-mc.net/menu/diabetes/diabetes-complication/
日本糖尿病学会の診療ガイドライン(第23章 神経障害)に、スクリーニング推奨事項の詳細が掲載されています。
日本糖尿病学会 診療ガイドライン2024 第10章 糖尿病性神経障害(PDF)
腎症は「しめじ」の最後に位置しますが、最も社会的コストが高い合併症です。
日本の透析患者の約40%が糖尿病性腎症を原因疾患としており、透析導入後の平均生存期間は約5〜6年とされています。 透析費用は1人あたり年間約500万円にのぼり、医療経済的なインパクトは非常に大きいです。
関連)https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3
腎症の進行ステージは以下の5段階で評価されます。
| ステージ | 特徴 | eGFR目安 |
|---|---|---|
| 第1期(腎症前期) | 正常アルブミン尿、過濾過状態 | ≧30 |
| 第2期(早期腎症) | 微量アルブミン尿(30〜299mg/g Cr) | ≧30 |
| 第3期(顕性腎症) | 蛋白尿300mg/g Cr以上 | さまざま |
| 第4期(腎不全期) | GFR著明低下 | <30 |
| 第5期(透析療法期) | 透析・腎移植 | — |
第2期で発見・介入できれば腎症の進行を大幅に遅らせることが可能です。 腎症前期〜早期は無症状であることがほとんどで、尿検査なしでは発見できません。
関連)https://www.yotsuya-naishikyo.com/diabetes-lab/untreated/
これが重要な点です。微量アルブミン尿の測定を定期外来に組み込む体制が、腎症の早期発見につながります。
参考:日本糖尿病学会 市民向け合併症解説ページ(腎症の進行ステージを確認できます)
日本糖尿病学会 - 糖尿病合併症について
三大合併症の「しめじ」に加え、大血管障害は「えのき(壊疽・脳卒中・虚血性心疾患)」と呼ばれます。 えのきは細小血管障害とは独立して発症するため、「しめじの順番」が完了する前に心筋梗塞が起こるリスクを忘れてはなりません。
関連)https://ishinkai-mc.net/menu/diabetes/diabetes-complication/
これは非常に重い数字ですね。フットケアの徹底が求められます。
参考:ダイヤモンド・オンライン「糖尿病患者の脚切断リスク、非糖尿病者の10倍にも」(具体的な切断発生率の数値が確認できます)
「しめじの順番」を知っているだけでは、臨床現場で活かしきれていないケースがあります。
外来診療の時間は1回平均5〜10分程度であることが多く、医師だけで合併症の全スクリーニングを完遂するのは構造的に困難です。そこで重要になるのが、看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士による多職種チームでの役割分担です。
関連)https://knowledge.nurse-senka.jp/500237
具体的な分担例を示します。
これは使えそうです。
特に神経障害が進行した患者は、足底の感覚低下から転倒→骨折というリスクチェーンが生じやすく、理学療法士の早期介入が入院リスクを下げる可能性があります。合併症の「順番」を把握したうえで、どのステージの患者に誰が介入するかを事前にプロトコル化しておくことが、チーム医療の質向上につながります。
関連)https://knowledge.nurse-senka.jp/500237
参考:ナース専科「糖尿病の看護|分類、治療、合併症、看護計画」(看護介入の実践的な内容が詳しく解説されています)
ナース専科 - 糖尿病の看護|合併症と看護計画