テトラスパニンは細胞膜を4回貫通する特殊な構造を持つ膜タンパク質ファミリーで、ヒトでは33種類のメンバーが確認されています。これらの分子は他の膜タンパク質と結合してコンプレックスを形成することから、"molecular organizer"(分子オーガナイザー)と呼ばれています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/joma/136/1/136_33/_article/-char/ja/
テトラスパニンの主要な特徴は以下の通りです。
これらの分子は相互にゆるく結合し合い、細胞膜上にテトラスパニンが豊富なマイクロドメイン(TEM: tetraspanin-enriched microdomain)を構築します。TEMにおいてテトラスパニンがインテグリンなどの機能分子を整然と配置することで、細胞内に正しくシグナルが送られ、細胞運動や細胞融合など細胞骨格のダイナミクスが適切にコントロールされています。
参考)http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/research/r-resp03.html
興味深いことに、テトラスパニンの機能障害は自己免疫疾患、神経疾患、感染症、悪性腫瘍における病態形成に深く関与しており、治療応用の可能性が次々に報告されています。特にがん細胞では、転移に象徴される高い細胞運動性の獲得において、テトラスパニンCD9が重要な役割を果たしていることが明らかになっています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K19913/
エクソソームの膜表面には、テトラスパニンと呼ばれる4回膜貫通タンパク質が豊富に発現しており、CD9、CD63、CD81といった分子が一般的なエクソソームの表面マーカーとして機能しています。これらのテトラスパニンは単なる「マーカー」以上の重要な生物学的機能を担っています。
参考)https://ruo.mbl.co.jp/bio/product/exosome/article/exosome.html
エクソソーム表面のテトラスパニン発現パターンには以下の特徴があります。
テトラスパニンのうち、CD9、CD63、CD81はエクソソームの膜に発現するトップ100のタンパク質に含まれており、これらの分子の発現パターンがエクソソームの機能的特性を大きく左右します。
参考)https://www.beckman.jp/resources/sample-type/extracellular-vesicles/exosomes/interviews/experiment-basics/part-3
特に注目すべきは、エクソソームの膜表面に存在するテトラスパニンが、細胞膜の恒常性を維持する「分子オーガナイザー」として機能していることです。これにより、エクソソームは単なる細胞外小胞ではなく、精密に制御された細胞間コミュニケーションシステムの一部として機能しています。
がん細胞由来のエクソソームでは、CD9が特に高度に発現しており、細胞運動性、細胞膜の曲率制御や膜融合、エクソソームの分泌制御にも深く関与していることが報告されています。
テトラスパニンを介したエクソソームの細胞間コミュニケーションは、従来の細胞間情報伝達とは異なる新しい生物学的システムです。脂質二重膜で包まれるエクソソームは、タンパク質、核酸、脂質を内包し、ドナー細胞からレシピエント細胞へと細胞間や臓器間を移動する革新的なメッセンジャーとして機能しています。
エクソソームによる情報伝達の特徴。
このコミュニケーションシステムは、血液や尿、唾液などの体液を介して隣接もしくは離れた組織に取り込まれ、細胞間情報伝達の担い手として機能します。特に、エクソソーム中のmiRNAの存在が明らかになったことから、エクソソーム由来のmiRNAのプロファイリングと細胞や組織特異性、疾患との関連について注目が集まっています。
テトラスパニンCD9を介したエクソソームの機能制御については、CD9結合性ペプチドを用いることで、がん細胞におけるTetraspanin web形成阻害、エクソソームの分泌および取込みの抑制、細胞遊走および浸潤を抑制する機能を実現できることが示されています。
テトラスパニンを発現するエクソソームは、次世代の診断バイオマーカーとして大きな期待を集めています。特に、がんをはじめとする様々な疾患において、エクソソーム由来の分子を用いた診断薬の開発が急速に進展しています。
診断応用における主な利点。
テトラスパニンマーカーによる疾患特異的診断では、CD9、CD63、CD81の発現パターンが重要な指標となります。これらの分子は、エクソソームの起源細胞の特徴を反映しており、異なる疾患状態での発現変化を検出することで、精密な診断が可能になります。
特に注目されているのは、脳神経疾患におけるバイオマーカーとしてのテロメア、マイクロRNA、エクソソームの複合的解析です。従来の診断法では検出困難な中枢神経系の病変も、血液中のエクソソーム解析により非侵襲的に評価できる可能性が示されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/df0061e317ff970c7f3a8e6a44566ec2b31d2ee9
現在の研究では、エクソソーム内容物である蛋白や核酸が標的細胞へ受け渡されて機能することから、生理的状態だけでなく悪性疾患、免疫疾患、神経疾患から感染症に至るまで多くの疾患における診断への応用が期待されています。
テトラスパニンを活用したエクソソーム治療戦略は、従来の薬物治療を大きく変革する可能性を秘めています。創薬ターゲットとしての可能性や、ドラッグデリバリーシステムのツールとしての利用など、多角的な治療アプローチが研究されています。
革新的治療戦略の特徴。
人工エクソソーム製剤の開発では、エクソソーム上に複数の免疫制御分子(Signal 1, 2, 3)を同時に発現させる技術により、個々の単純な併用では実現できない革新的な免疫制御法の実現が目指されています。高機能・高品質なエクソソーム製剤の製造を実現化することで、がん・感染症・自己免疫・アレルギーなど様々な疾患に対する効果的かつ副作用のない創薬開発が推進されています。
参考)https://www.amed.go.jp/content/000131158.pdf
特にがん治療においては、エクソソームを応用した多角的な治療戦略が注目されています。テトラスパニンCD9の機能を制御するペプチドを設計することにより、がん細胞の浸潤・転移を抑制する新しい治療法の開発が進められており、細胞運動性の制御への関与が実証されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f5667b23836945c54b02f5b8cd92edc757777111
さらに、エクソソームのトラッキング技術も治療応用において重要な要素です。CD9、CD63、CD81とGFPまたはRFPとの融合タンパク質を発現するシステムにより、エクソソームの追跡研究や送達のモニタリングが可能になっています。
参考)https://www.funakoshi.co.jp/contents/67810
テトラスパニンを標的とした治療法は、炎症性疾患や悪性疾患における病態制御において、単なるエクソソームマーカー以上の重要な機能を発揮することが期待されており、次世代医療の基盤技術として位置づけられています。