ミトコンドリアDNA変異がある患者は、わずか1回の投与でも高度難聴になることがあります。
ストレプトマイシン(SM)はアミノ配糖体系抗生物質に分類される薬剤で、結核や非結核性抗酸菌症の治療に今も使用されています。 その耳毒性の標的となるのは、内耳蝸牛の外有毛細胞(OHC)です。 matsuyama-shogai(https://matsuyama-shogai.com/11528/)
外有毛細胞はいったん破壊されると再生しません。これが原則です。 www4.fctv.ne(http://www4.fctv.ne.jp/~kurokawa/ototoxicity.html)
アミノ配糖体系抗生物質は内耳に取り込まれると、活性酸素種(ROS)を産生し、外有毛細胞のアポトーシス(細胞死)を引き起こします。 障害は蝸牛の基底部(高音域を担う部位)から始まるため、初期には8,000Hzの高音域から急峻な閾値上昇として現れます。 気づかないうちに進行するという点が、この薬剤性難聴の怖さです。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411101112)
臨床的には両側性・対称性の感音難聴という形をとることがほとんどです。 投与を継続するにつれ障害は中音域・低音域へと進展し、最終的には高度難聴・全聾に至ることもあります。 初期に自覚症状が出にくい点を考慮すると、患者の自己申告だけに頼った管理では見落とすリスクがあるといえます。 u-ryukyu.repo.nii.ac(https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/record/2016122/files/v23p79.pdf)
| 障害部位 | 症状 | 可逆性 |
|---|---|---|
| 蝸牛外有毛細胞 | 感音難聴(高音域→中低音域) | ❌ 不可逆 |
| 前庭感覚細胞 | めまい・平衡障害 | △ 部分的 |
| 腎尿細管 | 腎毒性 | △ 可逆的なことも |
「同じ量を投与したのに、なぜこの患者だけ難聴になったのか?」という疑問の答えは、遺伝子にあります。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204842482432)
ストレプトマイシンによる難聴は個人差が非常に大きいことが知られています。 重要な要因の一つが、ミトコンドリアDNA 1555番目のA→G変異(A1555G変異)です。 この変異を持つ人は、アミノ配糖体系抗生物質に対する感受性が著しく高く、通常量以下の投与でも高度感音難聴を発症しやすいと報告されています。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/9793)
感音難聴患者68例中のA1555G変異保有率は約5.9%(4例)でしたが、アミノ配糖体による難聴群に限定すると50%(8例中4例)が変異保有者でした。 つまり難聴になった患者の半数がこの変異を持っていたことになります。これは使えそうな情報です。 u-ryukyu.repo.nii.ac(https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/record/2016122/files/v23p79.pdf)
さらに、家族性ストマイ難聴という概念も重要です。 A1555G変異はミトコンドリアDNAの変異であるため、母系遺伝(母から子へのみ伝わる)という特徴を持ちます。 父からは伝わらない点が、常染色体遺伝の疾患とは異なります。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204842482432)
投与前の家族歴確認が原則です。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2009/093161/200936269A/200936269A0006.pdf)
ミトコンドリアDNA A1555G変異の簡易スクリーニング系の開発も進んでおり、将来的にはベッドサイドでの変異検出が可能になると期待されています。 こうした検査体制が整備されれば、ハイリスク患者への不用意な投与を未然に防げるようになります。 mhlw-grants.niph.go(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/9793)
参考:ミトコンドリアDNA A1555G変異とアミノ配糖体難聴の関係・スクリーニング研究の概要
厚生労働省科学研究費補助金:ミトコンドリアDNA遺伝子変異による高頻度薬剤性難聴発症の予防法開発に関する研究
「基準量を守っていれば大丈夫」という考え方は、ハイリスク患者には通用しません。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1p01.pdf)
厚生労働省の重篤副作用対応マニュアルによると、ストレプトマイシンは1日1g注射で、累積投与量20g前後から副作用(難聴)が現れることが多いとされています。 1日1g×20日間で累積20gに達する計算です。長期治療では特に注意が必要ということですね。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1p01.pdf)
現在の用法・用量の標準は以下の通りです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000034ryy-att/2r98520000034s4x_2.pdf)
参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬剤性難聴)の詳細と臨床対応フロー
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬剤性難聴)
難聴が自覚される頃には、すでに高音域の有毛細胞が広範囲に失われているケースが大半です。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411101027)
早期発見のカギとなるのが、定期的な純音聴力検査(オージオグラム)の実施です。 投与開始前にベースラインの聴力値を記録しておき、投与中は定期的(推奨は2〜4週ごと)に再検査して比較することが重要です。 数値の変化を追うことが条件です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0225-5m.pdf)
初期変化のパターンを知っておくと、早期発見につながります。
高音域から始まる変化はオージオグラムでしか捉えられません。そこが重要です。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411101027)
重篤な難聴で補聴効果が不十分な場合は、人工内耳が有効な選択肢になることがあります。 ただし、人工内耳は術前評価・適応判断が必要であり、難聴の進行が確認された段階で早期に耳鼻咽喉科・聴覚専門医へ紹介することが、患者にとっての最善につながります。 u-ryukyu.repo.nii.ac(https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/record/2016122/files/v23p79.pdf)
チェックリストがなければ、忙しい外来で副作用確認は後回しになりがちです。厳しいところですね。
医療現場の現実として、ストレプトマイシンを含むアミノ配糖体系薬の副作用管理は、「知っているけれど確認が抜けてしまう」という状況が起きやすい領域です。 特に結核の長期治療では担当医・担当病棟が変わることもあり、情報の引き継ぎが途切れるリスクがあります。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1p01.pdf)
そのため、投与開始時から以下の管理フローを電子カルテ上にチェックリスト形式で組み込むことが、見落とし防止に効果的です。
「難聴は出てから対応すればいい」という姿勢では手遅れになることがあります。 薬害として問題になったストマイ難聴の歴史的事例が示すように、予防的管理の欠如が取り返しのつかない健康被害につながるリスクがあります。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1492201572)
また、非結核性抗酸菌症(MAC症)の治療などで本剤が使用されるケースも増えており、結核以外の領域でも同様の管理が求められます。 適応疾患が結核に限らないと知っておくだけで、投与機会の把握漏れを防げます。これだけ覚えておけばOKです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000034ryy-att/2r98520000034s4x_2.pdf)
参考:薬剤性難聴の臨床情報と対応マニュアル(医療関係者向け)
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者の皆様へ)
参考:薬剤性聴器毒性の病態・診断・治療の国際標準情報
MSDマニュアル プロフェッショナル版:薬剤性聴器毒性