セロイクは、遺伝子組換え技術により製造されたインターロイキン2製剤で、血管肉腫治療に用いられる重要な抗癌剤です。日本では1992年に武田薬品工業から発売され、現在も血管肉腫治療の選択肢として重要な位置を占めています。
参考)https://nigawa.co.jp/gan_jiten/cytokine/ir_celeuk.html
セロイクの主成分は遺伝子組換え型インターロイキン2であり、生物学的応答調節剤(BRM)として分類されています。この製剤は、抗原特異的キラーT細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、LAK(リンパ球活性化キラー)細胞などの抗原非特異的キラー細胞を活性化し、それらの増殖を促進することで抗腫瘍作用を発揮します。
参考)https://www.anticancer-drug.net/BRM/interleukin.htm
特に注目すべきは、セロイクが免疫システムの中心的役割を果たすT細胞の増殖を促進する点です。T細胞はがん細胞を認識し攻撃する免疫応答の主要な担い手であり、セロイクの投与により、これらの細胞が活性化され、腫瘍に対する免疫攻撃が強化されます。
セロイクの薬理学的特徴として、投与量依存性の抗腫瘍効果が認められていることが挙げられます。投与量が多いほど抗腫瘍効果が高まりますが、同時に副作用も強くなるため、実際の臨床現場では患者の状態に応じた慎重な用量調整が必要です。
セロイクの保険適応は血管肉腫に限定されています。血管肉腫は悪性度の高い軟部肉腫の一種で、治療選択肢が限られているため、セロイクのような免疫療法薬の存在は極めて重要です。
参考)https://www.aids-chushi.or.jp/word/yougo_ver8.pdf
用法用量については、点滴静注と局所投与の2つの方法があります。点滴静注の場合、通常成人には1日1回40万国内標準単位を点滴静注します。症状により適宜増減が可能ですが、最大投与量は1日160万単位とされています。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=6399410D1036
局所投与(腫瘍周縁部投与)の場合は、通常成人に1日1回全病巣あたり40万国内標準単位を添付の日局「注射用水」1mLに溶解して腫瘍周縁部に投与します。この局所投与は、全身への影響を最小限に抑えながら、局所的な抗腫瘍効果を期待する投与方法です。
現在使用可能なインターロイキン2製剤として、セロイク(40万U/V)の他に、イムネース(35万U/V)があり、両製剤とも血管肉腫に保険適応を有しています。添付文書上、セロイクは静注・局注の両方に記載があるのに対し、イムネースは静注のみの記載となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/skincancer/31/2/31_97/_pdf/-char/en
セロイクの使用において最も注意すべきは、その特徴的な副作用プロファイルです。最も頻度の高い副作用は発熱で、40%以上の患者に認められます。発熱は治療開始直後から現れることが多く、解熱剤の投与等の適切な対症療法が必要です。
参考)https://medley.life/medicines/prescription/6399410D1036/doc/
重大な副作用として特に注意すべきは脈管漏出(vascular leak)です。これは血管透過性の亢進により、浮腫(顔面、上下肢等)、肺水腫、胸水、腹水、尿量減少等の体液貯留症状が現れる状態で、0.1~5%未満の頻度で発現します。このような症状が認められた場合は直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
間質性肺炎やPIE症候群も重篤な副作用として報告されており、発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常、好酸球増多等の症状に注意が必要です。これらの症状が現れた場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等を検討します。
その他の頻出副作用として、悪寒、倦怠感、頭痛、関節痛、好酸球増多、悪心、食欲不振、発疹、掻痒感などが報告されています。血液検査では好酸球増多が5%以上の患者に認められ、定期的な血液検査による監視が重要です。
セロイク投与前には十分な患者評価が必要です。慎重投与対象として、アレルギー素因のある患者、心疾患又はその既往歴のある患者、重篤な肝障害・腎障害のある患者、遺伝性果糖不耐症の患者が挙げられています。
特に心疾患患者では症状が増悪する可能性があり、肝・腎障害患者でも症状増悪のリスクがあるため、これらの患者への投与時は特に慎重な観察が必要です。遺伝性果糖不耐症患者では、添加物のD-ソルビトールが正常に代謝されず、低血糖、肝不全、腎不全等を誘発する可能性があります。
投与に際しては、過敏症等の反応を予測するため、十分な問診とともに、あらかじめプリック試験を行うことが推奨されています。これは重篤なアレルギー反応を予防するための重要な前処置です。
妊婦への投与は避けるべきとされており、動物試験で催奇形作用が報告されています。授乳中の女性に投与する場合は授乳を中止することが望ましく、動物試験で母乳中への移行が確認されています。
小児への投与については、低出生体重児、新生児、乳児、幼児、小児に対する安全性は確立されておらず、使用経験もないため推奨されていません。
セロイクの調製・保存には厳格な管理が求められます。本剤は用時調製を原則とし、溶解後は速やかに使用する必要があります。やむを得ず保存が必要な場合でも、12時間以内に使用しなければなりません。この時間制限は薬剤の安定性と無菌性を確保するための重要な規定です。
調製時には添付の日局「注射用水」を使用し、特に局所投与の場合は正確な希釈が重要です。不適切な調製は薬効の低下や副作用の増強につながる可能性があります。
セロイクの保存は室温で行いますが、光や温度変化による薬剤劣化を防ぐため、適切な保管環境の維持が必要です。医療機関においては、調製から投与まで一連の工程での品質管理体制の確立が重要です。
インターロイキン2製剤の大量投与により好中球機能が抑制され、誘発感染症や感染症の増悪のリスクが高まるとの報告があるため、投与中は感染症の早期発見・治療にも注意を払う必要があります。また、抑うつや自殺企図といった精神症状の報告もあり、患者の精神状態の観察も重要な管理項目です。
副腎皮質ホルモン剤はセロイクの抗がん作用を弱める可能性があるため、併用薬剤との相互作用にも十分な注意が必要です。このような薬剤相互作用の評価は、治療効果を最大化し副作用を最小化するための重要な要素となります。