セッコウとは漢方医療で用いる解熱作用を持つ生薬

セッコウとは硫酸カルシウムを主成分とする天然鉱物で、漢方薬や医療用途に幅広く活用される生薬です。その効能や副作用について詳しく知りたくありませんか?

セッコウとは漢方医療における重要な生薬

セッコウの基本情報
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化学組成

硫酸カルシウム二水和物(CaSO₄・2H₂O)を主成分とする天然鉱物

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医療用途

漢方薬として解熱・止渇・鎮静作用を発揮し、多数の処方に配合

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産業利用

建築材料、食品添加物、歯科・外科用材料として幅広く活用

セッコウとは硫酸カルシウムを主成分とする天然鉱物

セッコウ(石膏)とは、硫酸カルシウム(CaSO₄)を主成分とする鉱物で、天然の鉱物名であるとともに物質名でもあります。日本薬局方にも「セッコウ(石膏)」として収載されている生薬で、その主成分は硫酸カルシウム二水和物(CaSO₄・2H₂O、二水石膏)です。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E8%86%8F

 

セッコウは結晶水の存在形態により、以下の3つの形態に分けられます。

  • 二水石膏 - 結晶水を2分子含む通常の石膏(CaSO₄・2H₂O)
  • 半水石膏 - 結晶水を1/2分子含む焼石膏(CaSO₄・1/2H₂O)
  • 無水石膏 - 結晶水を含まない無水塩(CaSO₄)

天然セッコウは無色透明ないし白色の結晶で、水成岩・石灰岩・粘土中に厚い層となって産します。中国の甘粛省、湖北省、湖南省、山東省、四川省などが主要な産地となっています。
参考)https://www.tokyo-shoyaku.com/wakan.php?id=131

 

セッコウとは医療現場で多様な用途を持つ生薬

セッコウは医療分野において、生薬としての用途と工業材料としての用途の両方で重要な役割を果たしています。
生薬としての医療用途
漢方医学において、セッコウは清熱瀉火薬に分類される重要な生薬です。肺、胃を帰経とし、味を甘、辛、性を大寒とする特性を持ちます。主な薬理作用として以下が挙げられます:
参考)https://rheumatology.co.jp/kanpo-online/2016/02/03/%E7%9F%B3%E8%86%8F%EF%BC%88%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B3%E3%82%A6%EF%BC%89%E3%81%AE%E5%8A%B9%E8%83%BD%E3%83%BB%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%BC%A2%E6%96%B9%E8%96%AC%E3%80%80%E8%A5%BF/

 

  • 解熱作用 - 急性の熱病(高熱、大汗)に効果
  • 止渇作用 - のどの渇きを抑制
  • 鎮静・鎮痙作用 - 神経系の興奮を抑制
  • 利尿作用 - 体内の水分代謝を改善

医療用材料としての用途
工業用セッコウは、α型半水石膏またはβ型半水石膏の状態で使用されます:

  • 歯科用模型 - 歯型採取や補綴物製作
  • 外科用ギプス - 骨折治療時の固定材料
  • 整形外科用材料 - 各種医療器具の製造

焼セッコウ(焼石膏)は日本薬局方に「焼セッコウ」として収載されており、水と反応させることで二水石膏として硬化する性質を利用しています。

セッコウとは多数の漢方薬に配合される解熱薬

セッコウを含む代表的な漢方方剤は多岐にわたり、それぞれ異なる症状に対して処方されています。
主要な配合漢方薬

  • 白虎湯(びゃっことう) - 高熱、多汗、口渇に使用
  • 白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) - のどの渇きやほてり、皮膚病のかゆみに使用
  • 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう) - 咳嗽、喘息の治療
  • 五虎湯(ごことう) - 小児喘息の第一選択薬
  • 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) - 肥満症、便秘の改善

具体的な適応症状
セッコウの清熱作用により、以下のような症状に効果を発揮します。

  • 呼吸器系 - 肺熱による咳痰、喘息症状
  • 消化器系 - 胃熱による口内炎、歯周病
  • 皮膚科系 - 発斑、発疹、皮膚のほてり
  • 外用 - 火傷への外用で熱を取り皮膚を収斂

現代の薬理学的研究では、セッコウの煎液をラットに投与した実験において口渇を抑える効果が報告されており、古典的な効能が科学的にも裏付けられています。

セッコウとは副作用や相互作用に注意が必要な生薬

セッコウを含む漢方薬には、適切な使用法を守らないと重篤な副作用が発生する可能性があります。特に「小柴胡湯加桔梗石膏」については、厚生労働省から重要な安全性情報が公表されています。
参考)https://gemmed.ghc-j.com/?p=40147

 

重大な副作用
2021年5月に厚生労働省が発出した通知により、小柴胡湯加桔梗石膏に新たに「間質性肺炎」の重大な副作用が判明しました。症状として以下が挙げられます:
参考)https://medical.tsumura.co.jp/products/109/pdf/109-tenbun.pdf

 

  • 咳嗽 - 持続的な咳の症状
  • 呼吸困難 - 息切れや呼吸の苦しさ
  • 発熱 - 高熱の出現
  • 肺音の異常 - 聴診での異常音

これらの症状が現れた場合には、直ちに投与を中止し、胸部X線、胸部CT等の検査を実施するとともに、副腎皮質ホルモン剤の投与などの適切な処置が必要とされています。
その他の副作用
セッコウを含む漢方薬では、以下のような副作用も報告されています:

  • 偽アルドステロン症 - 低カリウム血症、血圧上昇、浮腫
  • 消化器症状 - 食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢
  • 循環器症状 - ナトリウム・体液の貯留

使用上の注意点
セッコウを含む漢方薬の使用に際しては、以下の点に注意が必要です。

  • 胃腸虚弱者 - 消化器症状が現れやすい
  • 体力衰弱者 - 副作用が現れやすい
  • 併用薬 - グリチルリチン酸含有薬剤との相互作用

定期的な血液検査による電解質バランスの監視や、症状の変化に対する注意深い観察が重要となります。

 

セッコウとは産業分野でも幅広く活用される多機能材料

セッコウは医療用途以外にも、様々な産業分野で重要な役割を果たしている多機能材料です。その特性を活かした応用範囲は非常に広範囲にわたります。

 

建築・建設分野での利用
セッコウボードとして建築材料に広く使用されており、その化学反応を利用した特性が重要です。二水セッコウを120℃~150℃に加熱すると結晶水が放出され、半水セッコウ(焼セッコウ)となります。この焼セッコウに水を加えると再び二水セッコウに戻り、この際に硬化する性質を利用しています。
参考)https://yoshino-gypsum.com/special/sekkou/02

 

食品産業での特殊用途
特別に精製された純度の高いセッコウは、豆腐製造において重要な凝固剤として使用されています。中国南部や台湾では「豆腐花」、日本では絹ごし豆腐の製造に適用されています。セッコウがにがりよりも溶解・イオン化の速度が遅いため、濃厚な豆乳全体を均質に凝固させやすいという特性があります。
工芸・美術分野での応用
工芸分野では塑像の制作等にβ型半水石膏が使用されており、古くから彫刻材料として重宝されてきました。型取りや流し込み作業では、麻屑、紙、針金などの補強材と組み合わせて使用されることが一般的です。
参考)https://kotobank.jp/word/%E7%9F%B3%E8%86%8F-87240

 

品質管理と選別基準
良質なセッコウの選別基準として、以下の特徴が重要視されています:

  • 外観 - 色が白く清らかで、繊維状に結晶がみられる水晶のような外観
  • 物理特性 - 砕けやすく、光沢のある白色の重い繊維状結晶塊
  • 化学的純度 - におい及び味がなく、水に溶けにくい性質

現代では天然セッコウに加えて、化学的に合成されたセッコウや工業プロセスの副生成物として得られるセッコウも利用されており、用途に応じて最適な品質のものが選択されています。