酸化ストレスの血液検査は、体内の活性酸素と抗酸化物質のバランスを客観的に評価する検査手法です 。血液中に含まれる酸化的損傷の指標物質や抗酸化能力を測定することで、細胞レベルでの「サビつき度」を数値化できます 。
参考)酸化ストレス測定検査 - 健康院クリニック 
現在、医療機関で実施される酸化ストレス血液検査には、d-ROMs(Derivatives of Reactive Oxygen Metabolites)テストとBAP(Biological Antioxidant Potential)テストが主流となっています 。d-ROMsテストは血液中のヒドロペルオキシドを測定し、体内の酸化ストレス度を評価します 。一方、BAPテストは血液の総合的な抗酸化力を測定し、酸化ストレスに対する防御能力を評価します 。
参考)酸化ストレスの評価
これらの検査は少量の血液(約20μL)で実施でき、検査結果は約30分以内に判明するため、外来診療での活用が可能です 。測定結果は4段階の評価(良好ゾーン、抗酸化低下ゾーン、ダメージゾーン、危険ゾーン)で分類され、患者の状態を分かりやすく示します 。
参考)酸化ストレスドック
酸化ストレスの血液検査では、複数の生体マーカーが測定されます 。これらのマーカーは大きく3つのカテゴリーに分類されます:①抗酸化酵素、②抗酸化物質、③活性酸素によって生じた生体内産物です 。
参考)酸化ストレス測定試薬
抗酸化酵素系のマーカーには、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などがあります 。これらの酵素は活性酸素を直接分解・除去する機能を持ち、体内での第一次防御システムとして機能します 。血液検査によってこれらの酵素活性を測定することで、生体の抗酸化能力を評価できます。
参考)治療抵抗性統合失調症の酸化ストレスバイオマーカー
抗酸化物質系では、グルタチオン、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10などが重要な指標となります 。グルタチオンは特に強力な抗酸化作用を持つトリペプチドで、解毒機構や酸化還元反応に重要な役割を果たしています 。コエンザイムQ10はビタミンEに匹敵する抗酸化作用を有し、その酸化率(ユビキノン/ユビキノール比)は体内の酸化ストレス状態を鋭敏に反映します 。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/gurutation.html
酸化ストレスの血液検査は、がん、動脈硬化、糖尿病、アルツハイマー病などの生活習慣病の発症リスク評価に重要な役割を果たします 。これらの疾患は慢性的な酸化ストレスが関与していることが知られており、早期の検出と介入により予防効果が期待できます 。
参考)抗酸化力測定・酸化ストレス度測定 
心血管疾患における酸化ストレス評価では、新規バイオマーカーとしてNADPH酸化酵素(sNox2-dp)やNrf2などが注目されています 。これらのマーカーは心不全患者の予後予測に有用であり、治療効果の判定にも活用されています 。また、冠動脈疾患患者における酸化型アミノチオール(システイン、グルタチオン二硫化物)の測定は、死亡リスクの予測因子として臨床的価値が認められています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10046491/
検査結果の解釈では、酸化ストレス度(d-ROMs値)と抗酸化力(BAP値)の比率が重要です 。潜在的抗酸化能(BAP値/d-ROMs値)の基準値は7.33とされ、この値が低下することで酸化ストレスの増大が示唆されます 。定期的な測定により、生活習慣の改善効果や治療介入の有効性を客観的に評価できます。
参考)https://www.u-tokai.ac.jp/uploads/2024/02/ttj_of_sms_33_p31-36.pdf
酸化ストレス評価には血液検査に加えて、尿中マーカーの測定も重要な役割を果たします 。特に8-OHdG(8-hydroxy-2'-deoxyguanosine)は尿中に排泄されるDNA損傷マーカーとして広く活用されています 。
参考)尿中8-OHdG測定による生体内における酸化ストレスの評価 
8-OHdGは活性酸素によってDNA中のグアニンが損傷を受けた際に生成される物質で、DNA修復酵素の作用により尿中に排泄されます 。尿中8-OHdG測定は非侵襲的で、生体内の酸化ストレス状態を定量的に評価できる優れた方法です 。運動、食事、喫煙、睡眠などの生活習慣や、手術、感染、炎症などの侵襲により変動するため、包括的な健康評価に有用です 。
新たなマーカーとして、尿中バイオピリンも注目されています 。バイオピリンはビリルビンの酸化生成物で、体内の酸化ストレスレベルを反映する信頼性の高いバイオマーカーとして2000年初頭から研究が進められています 。モノクローナル抗体mAb24G7を用いたELISA法により高感度測定が可能となり、酸化ストレス関連疾患の研究に活用されています 。
参考)尿中バイオピリンの酸化ストレスマーカーとしての役割と臨床的意…
酸化ストレス血液検査の結果解釈では、個々のマーカー値に加えて、総合的なバランス評価が重要です 。d-ROMsテストの基準値は正常値200-300 CARR U、ボーダーライン300-320 CARR U、軽度酸化ストレス321-340 CARR U、中程度341-400 CARR U、強度401-500 CARR U、かなり強度501以上CARR Uとされています 。
検査結果に基づく生活指導では、酸化ストレス発生源からの回避、自己の抗酸化能力向上、抗酸化物質の摂取が推奨されます 。抗酸化物質の摂取については、単一成分ではなく複数種類の抗酸化物質を組み合わせることが効果的とされています 。これは、活性酸素やフリーラジカルには様々な種類があり、それぞれに対応する抗酸化物質が異なることと、抗酸化物質同士が相互に協力して働くためです 。
検査の適応となる対象者は、不規則な生活習慣、多量飲酒、偏食、強いストレス、紫外線曝露、激しい運動、喫煙、肥満などのリスク要因を持つ方です 。また、疲労感や老化の自覚症状がある方、健康維持を希望する方にも有用な検査となります 。