卵巣嚢腫は女性の生殖器官である卵巣に液体や組織が溜まり、袋状(嚢胞状)に腫れる疾患です。発症率は全女性の約5~7%と報告されており、年齢を問わず発症する可能性がある比較的一般的な婦人科疾患です。卵巣嚢腫には主に以下の種類があり、それぞれ特徴的な内容物と発症メカニズムを持っています。
卵巣嚢腫の正確な発症原因はまだ完全に解明されていません。しかし、卵巣の正常な働きの過程で生じる機能性嚢胞(排卵後に形成される黄体嚢胞や卵胞嚢胞)と異なり、病的な嚢腫は様々な要因によって発生すると考えられています。特にチョコレート嚢腫は女性ホルモンのエストロゲンと関連しており、子宮内膜症の一種として発生します。
遺伝的要因や環境要因も発症に関与していると考えられていますが、詳細なメカニズムについては現在も研究が進められています。定期的な婦人科検診により、早期発見・早期治療が重要です。
卵巣嚢腫の症状は、嚢腫のサイズや種類、合併症の有無によって大きく異なります。初期段階では無症状であることが多く、他の症状で婦人科を受診した際や、健康診断などで偶然発見されるケースが少なくありません。実際、渡辺美奈代さんの事例でも、「ちょっとした痛み」を自覚して病院を訪れた際に発見され、嚢腫が急激に肥大化していたため即手術となりました。
一般的な症状:
緊急性の高い症状:
嚢腫が大きくなると、以下のような緊急性の高い合併症を引き起こすことがあります。
特にチョコレート嚢腫の場合、以下の症状も見られることがあります。
早期発見のポイント
卵巣嚢腫は初期段階では無症状であることが多いため、次のような対策が早期発見に役立ちます。
特に日常生活で違和感を感じた場合は、軽微な症状であっても医療機関を受診することが重要です。卵巣嚢腫は短期間で増大することもあり、適切な時期に医師の診察を受けることが合併症予防につながります。
卵巣嚢腫の診断は、患者の症状や病歴の聴取から始まり、複数の検査を組み合わせて行われます。医療従事者として、診断プロセスを理解することは患者へより良い説明と適切な対応につながります。
基本的な診断の流れ
超音波検査の重要性
超音波検査は卵巣嚢腫診断の第一選択となる検査法です。非侵襲的で放射線被曝がなく、短時間で実施できる利点があります。
超音波検査では以下の情報を得ることができます。
MRI・CT検査の役割
超音波検査で異常が認められた場合や、嚢腫の性状をより詳細に調べる必要がある場合には、MRIやCT検査が追加で行われます。
腫瘍マーカー検査
悪性の可能性を評価するため、血液検査で腫瘍マーカーを測定することがあります。
しかし、腫瘍マーカーは良性疾患や月経周期でも変動することがあり、単独での診断価値は限定的です。総合的な判断が必要となります。
最新の診断技術
近年は人工知能(AI)を活用した画像診断支援システムの研究も進んでおり、卵巣嚢腫の良悪性判別において医師の診断精度向上に貢献しています。また、液体生検による卵巣がん早期診断の研究も進められています。
日本産科婦人科内視鏡学会における卵巣腫瘍診断の最新知見について詳しく解説されています
診断が確定した後は、嚢腫の種類、大きさ、患者の年齢や症状、挙児希望の有無などを総合的に考慮し、適切な治療方針が決定されます。確実な診断のためには、総合的な検査アプローチが重要であり、医療従事者は検査の特性を理解し、患者に適切な情報提供を行うことが求められます。
卵巣嚢腫の治療方法は、嚢腫の種類・大きさ・患者の年齢・症状の有無・挙児希望などを考慮して決定されます。医療従事者として患者に適切な治療選択肢を提示するために、各治療法の特徴と適応について理解しておく必要があります。
1. 経過観察(ウォッチフルウェイティング)
小さな嚢腫や機能性嚢胞(排卵後に形成される生理的な嚢胞)の場合、定期的な検査による経過観察が選択されることがあります。
適応。
経過観察の方法。
2. 薬物療法(ホルモン療法)
特にチョコレート嚢腫(子宮内膜症性卵巣嚢腫)に対して有効です。エストロゲン活性を抑制し、嚢腫の縮小や症状の緩和を図ります。
主な薬物療法。