卵巣嚢腫の症状と治療方法を正しく理解するために

卵巣嚢腫の種類や症状、診断方法から治療方法まで詳しく解説します。無症状で経過することも多いこの疾患について正しく理解し、適切な対処法を知ることが大切ではないでしょうか?

卵巣嚢腫の症状と治療方法

卵巣嚢腫の基本情報
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発症率

女性の約5~7%が一生のうちに卵巣嚢腫を経験すると報告されています

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主な症状

初期は無症状のことが多く、増大すると下腹部痛や違和感が現れます

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治療方法

経過観察、手術(腹腔鏡・開腹)、薬物療法など症例に応じて選択します

卵巣嚢腫の種類と発症する原因について

卵巣嚢腫は女性の生殖器官である卵巣に液体や組織が溜まり、袋状(嚢胞状)に腫れる疾患です。発症率は全女性の約5~7%と報告されており、年齢を問わず発症する可能性がある比較的一般的な婦人科疾患です。卵巣嚢腫には主に以下の種類があり、それぞれ特徴的な内容物と発症メカニズムを持っています。

 

  1. 漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ)
    • 特徴:サラサラとした水のような液体が溜まった嚢腫
    • 発症年齢:年齢を問わず発症
    • 性質:ほとんどが良性だが、悪性化する可能性もあり
  2. 粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ)
    • 特徴:黄色や淡白色のドロっとした粘液が溜まった嚢腫
    • 発症年齢:年齢を問わず発症
    • 性質:多くは良性だが、がんの可能性も否定できない
  3. 皮様嚢腫(ひようのうしゅ)
    • 特徴:脂肪・歯・毛髪・骨などの組織が混在する嚢腫
    • 発症年齢:主に若い女性に多い
    • 性質:ほとんどが良性だが、一部が悪性化することもある
    • 両側の卵巣に発生することも珍しくない
  4. チョコレート嚢腫(子宮内膜症性卵巣嚢腫)
    • 特徴:古くなった血液が溜まりチョコレート色に見える嚢腫
    • 発症年齢:初経~閉経までの生殖可能な女性
    • 性質:良性だが、40歳以上で4cm以上のものは悪性化リスクが上昇
    • 不妊症の原因になることもある

卵巣嚢腫の正確な発症原因はまだ完全に解明されていません。しかし、卵巣の正常な働きの過程で生じる機能性嚢胞(排卵後に形成される黄体嚢胞や卵胞嚢胞)と異なり、病的な嚢腫は様々な要因によって発生すると考えられています。特にチョコレート嚢腫は女性ホルモンのエストロゲンと関連しており、子宮内膜症の一種として発生します。

 

遺伝的要因や環境要因も発症に関与していると考えられていますが、詳細なメカニズムについては現在も研究が進められています。定期的な婦人科検診により、早期発見・早期治療が重要です。

 

卵巣嚢腫の主な症状と早期発見のポイント

卵巣嚢腫の症状は、嚢腫のサイズや種類、合併症の有無によって大きく異なります。初期段階では無症状であることが多く、他の症状で婦人科を受診した際や、健康診断などで偶然発見されるケースが少なくありません。実際、渡辺美奈代さんの事例でも、「ちょっとした痛み」を自覚して病院を訪れた際に発見され、嚢腫が急激に肥大化していたため即手術となりました。

 

一般的な症状:

  • 下腹部の違和感や膨満感
  • 軽度の下腹部痛
  • 腹部を触ると感じる腫瘤感(しこり)
  • 月経周期の乱れ
  • 排尿障害(嚢腫が膀胱を圧迫する場合)
  • 性交痛(チョコレート嚢腫の場合に多い)

緊急性の高い症状:
嚢腫が大きくなると、以下のような緊急性の高い合併症を引き起こすことがあります。

 

  1. 嚢腫破裂
    • 症状:急激で激しい下腹部痛、発熱、吐き気・嘔吐
    • 状態:嚢腫内容物が腹腔内に漏れ出し、腹膜炎を起こす可能性がある
    • 対応:緊急手術が必要となることが多い
  2. 卵巣嚢腫の茎捻転
    • 症状:突然の激痛、吐き気・嘔吐、発熱
    • 状態:卵巣を支える靭帯がねじれて血流が阻害される
    • 対応:短時間で卵巣が壊死する可能性があるため、緊急手術が必要

特にチョコレート嚢腫の場合、以下の症状も見られることがあります。

  • 激しい月経痛
  • 慢性的な骨盤痛
  • 不妊症

早期発見のポイント
卵巣嚢腫は初期段階では無症状であることが多いため、次のような対策が早期発見に役立ちます。

  1. 定期的な婦人科検診の受診
    • 年に1回の婦人科検診をお勧めします
    • 超音波検査により小さな嚢腫でも発見可能です
  2. 体の変化に注意を払う
    • 月経痛の悪化や不規則な出血
    • 持続する下腹部の不快感
    • 便秘や頻尿などの変化
  3. 家族歴の確認
    • 卵巣嚢腫や子宮内膜症の家族歴がある場合は注意が必要です
  4. リスク因子の認識
    • 未出産
    • 不規則な月経周期
    • 初経年齢が早い
    • 閉経年齢が遅い

特に日常生活で違和感を感じた場合は、軽微な症状であっても医療機関を受診することが重要です。卵巣嚢腫は短期間で増大することもあり、適切な時期に医師の診察を受けることが合併症予防につながります。

 

卵巣嚢腫の診断方法と検査の流れ

卵巣嚢腫の診断は、患者の症状や病歴の聴取から始まり、複数の検査を組み合わせて行われます。医療従事者として、診断プロセスを理解することは患者へより良い説明と適切な対応につながります。

 

基本的な診断の流れ

  1. 問診と視診
    • 症状(腹痛、月経不順、不妊など)の確認
    • 既往歴、家族歴の聴取
    • 月経周期や最終月経日の確認
  2. 内診
    • 医師が膣から卵巣の状態を触診
    • 卵巣の腫大や圧痛の有無を確認
    • 骨盤内の他の異常の有無を調べる
  3. 画像診断
    • 超音波検査(経腹的・経膣的)
    • MRI検査
    • CT検査
    • 必要に応じてカラードップラー検査など

超音波検査の重要性
超音波検査は卵巣嚢腫診断の第一選択となる検査法です。非侵襲的で放射線被曝がなく、短時間で実施できる利点があります。

 

  • 経腹的超音波検査:腹部から超音波を当て、骨盤内の状態を観察
  • 経膣的超音波検査:膣内にプローブを挿入して観察するため、より詳細な画像が得られる

超音波検査では以下の情報を得ることができます。

  • 嚢腫の大きさ
  • 嚢腫の性状(単房性か多房性か)
  • 嚢腫内部の状態(充実成分の有無)
  • 腹水の有無

MRI・CT検査の役割
超音波検査で異常が認められた場合や、嚢腫の性状をより詳細に調べる必要がある場合には、MRIやCT検査が追加で行われます。

 

  • MRI検査:軟部組織のコントラストに優れ、嚢腫の内部構造や周囲組織との関係を詳細に評価できる
  • CT検査:広範囲を短時間で撮影可能で、転移巣の検索などに有用

腫瘍マーカー検査
悪性の可能性を評価するため、血液検査で腫瘍マーカーを測定することがあります。

  • CA125(卵巣がんで上昇することが多い)
  • CA19-9
  • CEA
  • AFP(若年性顆粒膜細胞腫などで上昇)
  • HE4(卵巣がんでCA125より特異性が高いとされる)

しかし、腫瘍マーカーは良性疾患や月経周期でも変動することがあり、単独での診断価値は限定的です。総合的な判断が必要となります。

 

最新の診断技術
近年は人工知能(AI)を活用した画像診断支援システムの研究も進んでおり、卵巣嚢腫の良悪性判別において医師の診断精度向上に貢献しています。また、液体生検による卵巣がん早期診断の研究も進められています。

 

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診断が確定した後は、嚢腫の種類、大きさ、患者の年齢や症状、挙児希望の有無などを総合的に考慮し、適切な治療方針が決定されます。確実な診断のためには、総合的な検査アプローチが重要であり、医療従事者は検査の特性を理解し、患者に適切な情報提供を行うことが求められます。

 

卵巣嚢腫の治療法と手術適応について

卵巣嚢腫の治療方法は、嚢腫の種類・大きさ・患者の年齢・症状の有無・挙児希望などを考慮して決定されます。医療従事者として患者に適切な治療選択肢を提示するために、各治療法の特徴と適応について理解しておく必要があります。

 

1. 経過観察(ウォッチフルウェイティング)
小さな嚢腫や機能性嚢胞(排卵後に形成される生理的な嚢胞)の場合、定期的な検査による経過観察が選択されることがあります。

 

適応。

  • 嚢腫が小さい(一般的に5cm未満)
  • 超音波検査で悪性所見がない
  • 症状がない、または軽微

経過観察の方法。

  • 通常3ヶ月ごとの超音波検査
  • 嚢腫の大きさや性状の変化を注意深く観察
  • 増大傾向や性状の変化があれば、治療方針の再検討

2. 薬物療法(ホルモン療法)
特にチョコレート嚢腫(子宮内膜症性卵巣嚢腫)に対して有効です。エストロゲン活性を抑制し、嚢腫の縮小や症状の緩和を図ります。

 

主な薬物療法。

  • 低用量ピル(OC)
  • ジエノゲスト(ディナゲスト®)
  • GnRHアゴニスト(リュープロレリン、