オピオイドを処方するとき、あなたは下剤を一緒に出していない——それだけで患者の1/3が疼痛薬を中止してしまいます。

オピオイドは消化管のμオピオイド受容体に直接作用することで、腸管蠕動を低下させ、腸液分泌を減少させ、肛門括約筋の緊張を高めます。 これらの作用が複合的に重なった結果として発症するのがOICであり、単純な「便が出にくい状態」とは病態が異なります。つまりOICは機能性便秘症の一分類です。
参考)7.薬剤性便秘の診断と治療 (臨牀消化器内科 40巻3号)
Rome Ⅳ基準においても、OICは機能性便秘症(C-Ⅱ)の下位分類C-Ⅵとして独立して定義されるようになりました。 日本緩和医療学会のガイドラインでは「腸管内容物の通過が遅延・停滞し、排便に困難を伴う状態」と定義しています。
参考)オピオイド誘発性便秘の診断と治療 (医学のあゆみ 289巻8…
国内の発症頻度はオピオイド内服患者の40〜56%とされています。 予防投与がある場合でも34〜48%が便秘を経験することを考えると、OICを「起きてから対処すればよい」とは言えません。これが基本です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
特に注意すべき点は、吐き気・眠気には数日で耐性がつく一方、便秘には耐性がつかないという事実です。 これはオピオイドを継続する限り、便秘への対策も継続しなければならないことを意味します。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
| 副作用 | 耐性 | 対策の継続 |
|---|---|---|
| 吐き気 | 数日で形成 | 一時的でよい |
| 眠気 | 数日で形成 | 一時的でよい |
| 便秘(OIC) | 形成されない ⚠️ | オピオイド継続中は恒久的に必要 |
日本のOIC治療は長年、酸化マグネシウムや刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)を中心とした「従来型下剤」が主流でした。 2017年にナルデメジン(スインプロイク®)が国内初のOIC適応薬として承認されてから、治療の選択肢が大きく広がっています。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
がん疼痛の薬物療法ガイドラインでは、次のような段階的治療アルゴリズムが示されています。
参考)オピオイドによる便秘(OIC)の処方提案についての考察-情報…
重要なのは、PAMORAをいきなり第一選択として使うわけではないという点です。 ガイドラインでは「他の下剤で十分な効果が得られない場合」の位置づけとされています。これが原則です。
参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20104
便通異常症診療ガイドライン2023でも慢性便秘症の治療アルゴリズムが明確化されており、薬剤性便秘であるOICに関しても参照される基準が整理されています。
参考)7.薬剤性便秘の診断と治療 (臨牀消化器内科 40巻3号)
OIC治療の参考資料として、日本緩和医療学会発行のガイドラインが権威あるソースになります。
便秘の評価・治療方針に関する最新ガイドライン情報(日本緩和医療学会)。
日本緩和医療学会「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン」便秘の章
ナルデメジン(スインプロイク®)は、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)に分類されます。 消化管に存在するμオピオイド受容体に選択的に拮抗することで、オピオイドが引き起こす腸管蠕動低下・腸液分泌減少・括約筋緊張という3つのメカニズムをまとめて解除します。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
これが使えそうです。
ただし、中枢神経系のオピオイド受容体には作用しないよう設計されているため、鎮痛効果を損なわずに便秘だけを改善できる点が他の下剤にはない特長です。 一方で、重大な注意点として消化管閉塞が疑われる症例には禁忌です。
参考)オピオイド誘発性便秘の診断と治療 (医学のあゆみ 289巻8…
従来型下剤とナルデメジンの使いわけを整理すると、以下のようになります。
| 薬剤分類 | 代表薬 | OICへの位置づけ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 浸透圧性下剤(塩類) | 酸化マグネシウム | 第一選択候補 | 腎機能低下例で高Mg血症リスク(死亡例あり) |
| 浸透圧性下剤(PEG) | モビコール® | 第一選択候補 | 依存性・習慣性が少ない |
| 大腸刺激性下剤 | センノシド、ラキソベロン® | 第一選択候補 | センノシドは長期使用で大腸メラノーシスあり |
| PAMORA | ナルデメジン(スインプロイク®) | 従来型下剤で不十分な場合に追加 | 消化管閉塞は禁忌 |
酸化マグネシウムは使用頻度が高い薬剤ですが、腎機能低下症例では高マグネシウム血症を引き起こすリスクがあり、死亡例の報告もあります。 高齢がん患者では特に注意が必要です。厳しいところですね。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
OICは「発症してから治療する」より「予防する」ほうが患者QOLへの影響が小さくなります。 予防投与がある場合の発症率は34〜48%、ない場合は55〜65%と約15〜20ポイントの差があります。この差は実臨床で非常に大きな意味を持ちます。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
オピオイド導入と同時に下剤を処方する。これが基本です。
注目すべき知見として、強オピオイドと弱オピオイドの間でOIC発症率に有意差はないとされています。 トラマドール(弱オピオイド)を使用している患者でも、強オピオイドと同様のOICリスクがあると考えて予防策を講じる必要があります。排便周辺症状(いきみ、肛門閉塞感、腹部膨満感、硬便、残便感)にも差がない点が確認されています。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/omic/omic_sample.pdf
オピオイドの種類の選択においても便秘への影響は考慮されます。 2024年改訂の「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第3版」では、副作用プロファイルを含めた薬剤選択の視点が強調されています。
参考)非がん性慢性疼痛へのオピオイド、副作用対策と適切な使用のポイ…
最新の非がん性疼痛ガイドラインにおける副作用管理についての解説はこちらが参考になります。
CareNet「非がん性慢性疼痛へのオピオイド、副作用対策と適切な使用」2025年3月掲載
OICの管理において、定量的な評価ツールを使うことが治療効果の確認と医療者間での情報共有に不可欠です。 よく使われるツールを2つ紹介します。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_06.pdf
まずブリストル便性状スケール(BSFS)は、便の形状を7段階(タイプ1〜7)に分類した患者自己評価ツールです。 タイプ1〜2は硬便(通過時間が長い)、タイプ3〜4は正常、タイプ5〜7は軟便〜水様便を示します。OICではタイプ1〜2が多くみられ、治療効果の指標として改善前後を比較することができます。
参考)オピオイドによる便秘(OIC)の処方提案についての考察-情報…
次に、Constipation Assessment Scale(CAS)は8項目を3段階で評価する主観的便秘評価ツールです。 最高点は16点で、点数が高いほど重症です。日本語版の妥当性も確認されており、緩和ケア領域での活用が推奨されています。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_06.pdf
排便回数の評価では「自然排便(SBM)」の数を記録することが推奨されます。 SBMとは追加の下剤投与によらない排便のことで、薬剤効果を正確に評価するための指標として臨床試験でも使われています。「昨日は出た」ではなく、「自然に出た回数は何回か」の視点で確認するのが条件です。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_06.pdf
継続的なモニタリングの観点から、排便パターンの変化と自覚症状の改善・悪化を経時的に観察することが重要です。 便秘の原因が複数あるがん患者では特に、定期的な再評価を行い、対応する薬剤を調整していく必要があります。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/02_06.pdf
| 評価ツール | 内容 | OICでの活用場面 |
|---|---|---|
| ブリストル便性状スケール(BSFS) | 便形状を7段階で評価 | 治療前後の便性状変化の確認 |
| Constipation Assessment Scale(CAS) | 8項目16点満点で重症度評価 | 便秘重症度のスクリーニングと経過観察 |
| 自然排便回数(SBM) | 下剤なしの排便回数 | 薬剤効果の客観的評価 |
治療薬の有効性研究を含むOICの薬の使いわけの詳細は以下も参考になります。
日本医事新報社「オピオイド誘発性便秘に対する薬の使いわけ」排便回数・QOL・Rome Ⅳ改善率の比較データ掲載
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