温罨法の禁忌と注意すべき患者状態

温罨法は看護技術として有効な手段ですが、急性炎症や出血傾向、消化管閉塞など禁忌となる疾患があります。実施前のアセスメントと観察で低温熱傷などのリスクを防ぐことができるのでしょうか?

温罨法の禁忌

温罨法実施前に確認すべき重要ポイント
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急性期疾患の確認

急性炎症や出血傾向がある患者には温罨法が禁忌となります

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患者状態のアセスメント

意識障害や知覚鈍麻の有無を確認し熱傷リスクを評価します

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禁忌疾患の把握

消化管閉塞や関節リウマチなど特定疾患では実施を避けます

温罨法が絶対禁忌となる疾患

 

温罨法は血管拡張と血流増加を促す効果があるため、特定の疾患や病態では症状を悪化させるリスクがあります。絶対禁忌となる主な疾患には、急性期の関節リウマチと痛風発作による疼痛があります。これらの疾患では温熱刺激により代謝が亢進し、炎症症状が増悪する可能性があるためです。
参考)看護師国家試験 第103回追試改変 午後85問|看護roo!…

出血傾向のある患者も温罨法の絶対禁忌に該当します。温熱刺激による血管拡張と血流増加により、出血が助長される恐れがあるためです。また、絞扼性腸閉塞による腹痛も禁忌となります。腸蠕動が促進されることで腸管内圧が上昇し、穿孔のリスクが高まるためです。
参考)温罨法とは|目的・効果・注意点 〜根拠がわかる看護技術

虚血肢への温罨法も避けるべきです。血流改善により血栓が遊離し、肺や心臓などの重要臓器の血管に詰まる可能性があるためです。悪性腫瘍のある部位への温罨法も禁忌とされており、代謝亢進により腫瘍細胞の増殖や転移を早める恐れがあります。
参考)QBN2019_web立読み

温罨法実施時に慎重な判断が必要な患者

意識障害や知覚鈍麻がある患者は、熱さを正しく感じることができないため、低温熱傷のリスクが高くなります。看護師が継続して観察できない場合は実施を避けるべきです。特に硬膜外麻酔中の患者への温罨法は、知覚が低下しているため禁止されています。
参考)https://www.med-safe.jp/pdf/report_63.pdf

皮膚が脆弱な患者や全身衰弱のある患者も慎重な判断が必要です。これらの患者では温罨法を実施する場合、時間や温度に配慮し、より短時間での実施や低めの温度設定を検討する必要があります。高齢者も知覚が低下していることが多いため、特に注意が必要です。​
消化管穿孔のリスクがある患者も慎重な評価が求められます。麻痺性イレウスでは腸管運動が減弱しているため温罨法が効果的ですが、絞扼性イレウスでは症状が悪化する可能性があるため、イレウスの種類を正確に鑑別することが重要です。
参考)https://jsnas.jp/system/data/20160613221133_ybd1i.pdf

温罨法禁忌の生理学的メカニズム

温罨法が禁忌となる理由は、温熱刺激による生理学的変化にあります。温熱刺激により皮膚温が上昇すると血管が拡張し、血液量が増大します。この血管拡張作用は一酸化窒素(NO)が血管平滑筋細胞に作用することで生じます。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K10602/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K10602/amp;mdash; 研究課題をさがす

研究によると、温罨法を実施すると血中NOが減少することが確認されています。これは血中NOが血管平滑筋細胞に作用し消費されることで、血管平滑筋が弛緩し血管が拡張するためと考えられています。このような血管拡張と血流増加は、正常な組織では治癒促進や疼痛緩和に有効ですが、急性炎症や出血傾向のある患者では症状悪化の原因となります。​
温熱刺激は代謝を上昇させる効果もあります。代謝亢進は酸素需要を増加させ、急性炎症では腫脹や疼痛などの炎症症状を増悪させます。悪性腫瘍では、代謝上昇により腫瘍細胞への栄養供給が増加し、増殖や転移を促進する可能性があります。​

温罨法禁忌を見逃さないためのアセスメント項目

温罨法実施前のアセスメントでは、まず患者の疾患名と病期を確認します。関節リウマチや炎症性疾患がある場合は、現在が急性期か慢性期かを評価することが重要です。血液検査データから出血傾向の有無を確認し、血小板数や凝固機能をチェックします。
参考)温罨法の方法を徹底解説|効果・手順・注意点を押さえた安全な実…

消化器症状の有無と腹部の状態を観察します。腹痛の性質、腸蠕動音、腹部膨満の有無を評価し、イレウスや穿孔のリスクを判断します。既往歴から悪性腫瘍の有無と治療状況を確認し、温罨法予定部位に腫瘍が存在しないかを評価します。
参考)温罨法・冷罨法のポイントと実施方法【いまさら聞けない看護師手…

意識レベルと知覚の状態を評価することも重要です。JCS(Japan Coma Scale)やGCS(Glasgow Coma Scale)を用いて意識レベルを評価し、温痛覚の確認を行います。麻酔の実施状況、特に硬膜外麻酔の有無も必ず確認します。
参考)看護技術の罨法(あんぽう)を習得しよう!温罨法と冷罨法の違い…

温罨法の適応判断における看護師の役割

温罨法は看護師が独自の判断で計画・実施できる看護技術とされていますが、それゆえに適切な判断が求められます。看護師は患者の全身状態を包括的にアセスメントし、禁忌に該当しないか慎重に判断する必要があります。
参考)温罨法等において、ホットパックの不適切使用による熱傷に留意を…

疑わしい症状や所見がある場合は、医師に相談し実施の可否を確認することが重要です。例えば、微熱がある患者で急性炎症の可能性が疑われる場合や、腹痛を訴える患者でイレウスの鑑別が必要な場合などです。また、実施中も継続的な観察を行い、異常があればただちに中止する判断力が求められます。​
看護記録には温罨法実施の判断根拠、実施方法、患者の反応、皮膚の状態などを詳細に記載します。特に禁忌事項の確認を行ったこと、患者に説明し同意を得たことを明記することで、医療安全と質保証につながります。
参考)看護記録とは|目的と必要性

温罨法実施時の低温熱傷予防と安全管理

低温熱傷のメカニズムと発生リスク

低温熱傷は、皮膚に60~65℃以上の温熱刺激が加わり、組織細胞のたんぱく質が熱凝固し細胞が死滅することで生じます。しかし、心地よいと感じる40℃程度の温度であっても、長時間にわたり同一部位に温熱刺激を与え続けると低温熱傷を起こすリスクがあります。​
具体的には、皮膚表面温度が50℃では2~3分、46℃では30分~1時間、44℃では3~4時間で低温熱傷が発生する可能性があります。湯たんぽの湯温は8~10時間経つと40℃程度にまで下がりますが、この温度でも長時間皮膚に直接当たっていると低温熱傷が生じることがあります。
参考)https://www.nara-kango.or.jp/pdf/m-20100107.pdf

低温熱傷は通常の熱傷と異なり、見た目では軽度に見えても深部まで損傷が及んでいることが多く、治癒に時間がかかる特徴があります。特に意識障害や知覚鈍麻のある患者では、熱さを感じることができず、気づいたときには重度の熱傷を負っている恐れがあります。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/5395/

適切な温度管理と実施時間の設定

湯たんぽを使用した温罨法では、60℃のお湯を準備します。これより高温のお湯を使用すると、ゴム製品である湯たんぽが劣化する可能性があります。湯たんぽの1/2~2/3までお湯を入れ、空気を抜いてから栓をしっかり閉めます。
参考)温罨法の実施

実施時は、低温熱傷を防ぐため湯たんぽを患者の身体から10cm程度離して置くことが重要です。直接皮膚に接触させることは避け、必ず湯たんぽカバーを使用します。また、お湯が漏れる危険性を考慮し、注湯口は患者側に向けないようにします。​
上肢への温罨法では、加温部の皮膚表面温度が40±2℃になるように加温し、15分間の実施が効果的とされています。この条件で静脈怒張に有効であることが研究で明らかになっており、血管断面積が16.8%増加することが示されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnas/12/3/12_14/_pdf

実施中の観察ポイントと中止基準

温罨法実施中は定期的に患者の状態を観察することが大切です。皮膚の状態を確認し、発赤や水疱などの異常がないかをチェックします。特に温罨法開始後5分、10分、15分の時点で皮膚の色調と温度を確認することが推奨されます。​
全身状態の観察も重要です。発汗や熱感の有無、バイタルサインの変動、症状の悪化がないかを評価します。患者の訴えに注意を払い、熱すぎる、痛い、不快感があるなどの訴えがあれば、ただちに中止する必要があります。​
湯たんぽなどの道具の状態も継続的に確認します。温度の低下、お湯の漏れ、カバーのずれなどがないかをチェックし、必要に応じて調整します。脱水症状にも注意を払い、適宜水分補給を促すことも忘れてはなりません。​

電子レンジ加温による温罨法の危険性

電子レンジで温罨法用のタオルを温める方法は、熱傷のリスクが高く禁止すべき手技です。電子レンジでの加温は温度が不均一になりやすく、一部が非常に高温になることがあります。また、取り出し直後は外側の温度が低くても、内部が高温になっており、使用中に急激に熱くなる危険性があります。
参考)https://www.med-safe.jp/pdf/report_2020_3_T003.pdf

医療安全の観点から、多くの医療機関で電子レンジを用いた温罨法用タオルの加温は明確に禁止されています。代わりに、温度管理が可能なホットパックウォーマーや、適切な温度に調整したお湯を使用した湯たんぽを用いるべきです。​
硬膜外麻酔中の患者への温罨法も同様に禁止されています。硬膜外麻酔により知覚が低下しているため、患者は熱さを適切に感じることができず、重度の熱傷に至るリスクが極めて高いためです。​

温罨法における医療安全対策の実践

温罨法実施前には、患者への十分な説明と同意取得が必要です。温罨法の目的、方法、予想される効果、起こりうるリスクについて説明し、患者が理解したうえで同意を得ます。特に熱すぎると感じたらすぐに知らせるよう伝えることが重要です。​
使用する道具の点検も欠かせません。湯たんぽに破損や劣化がないか、カバーに汚染や破れがないかを確認します。水温計を用いて湯温を正確に測定し、適切な温度であることを確認してから実施します。​
インシデント報告と再発防止の取り組みも重要です。温罨法による熱傷が発生した場合は、速やかにインシデントレポートを作成し、発生状況や原因を分析します。硬膜外麻酔中の患者への看護について再学習を行い、温罨法の安全な実施方法を全スタッフで共有することが求められます。​

 

 


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