ノロウイルス感染症は、ウイルスが体内に侵入してから症状が現れるまでの潜伏期間が24~48時間と比較的短いのが特徴です。個人差により短い場合は数時間、長い場合は3日以上かかることもありますが、平均的には1~2日間の潜伏期間を経て発症します。
主な症状は急性胃腸炎を引き起こし、突然の激しい嘔吐から始まることが多く、その後水様性の下痢、腹痛、軽度の発熱(37~38℃)が見られます。特に嘔吐は「突然、強烈に起きる」のが特徴的で、1日に何回も繰り返されることがあります。下痢は通常1日2~3回程度ですが、重症例では十数回に及ぶこともあります。
参考)https://chibanaika-clinic.com/2024/10/norouirusurotauirusu/
症状の持続期間は通常1~3日程度で、多くの場合は特別な治療をしなくても軽快しますが、症状が治まった後も1週間程度、場合によっては1か月以上にわたって便からウイルスが排出され続けるため、二次感染の予防に注意が必要です。
参考)https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/kansen2012110602.html
現在、ノロウイルスに対する特効薬や抗ウイルス薬は存在せず、治療は主に対症療法が中心となります。症状に応じて吐き気止め、整腸剤、解熱剤などを使用しますが、下痢止めは病気の回復を遅らせる可能性があるため基本的に使用を避けることが多いです。
参考)https://www.kenei-pharm.com/tepika/column/disinfection/column123/
治療における最も重要なポイントは脱水症状の予防と改善です。激しい嘔吐や下痢により体内から大量の水分と電解質が失われるため、こまめな水分補給が不可欠となります。経口補水液による脱水状態の改善が有用で、嘔吐が激しい場合は無理に水分を摂らず、症状が落ち着いてから少量ずつ段階的に摂取することが推奨されます。
参考)https://kantoh.johas.go.jp/column/20210416_3.html
重症化した場合や経口摂取が困難な場合には、医療機関での点滴による輸液治療が必要になることもあります。特に免疫力の低い乳幼児や高齢者では、十分な栄養と休養を取りながら慎重な経過観察が重要です。
参考)https://www.kindai.ac.jp/health/about/gastroenteritis/gastroenteritis02.html
高齢者や乳幼児は免疫機能が低下しているため、ノロウイルス感染症により重篤な合併症を引き起こすリスクが高く、特に注意が必要です。65歳以上の高齢者では、加齢に伴う胃腸機能の低下により少量のウイルスでも感染しやすく、胃酸などの自然な防御機能が十分に働かないためウイルスが腸内で活発に増殖しやすくなります。
参考)https://gen-kids.clinic/%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9
最も深刻な合併症として誤嚥性肺炎があり、嘔吐物が誤って気道に入り込むことで発生します。高齢者では嚥下機能(飲み込む力)が低下し、咳反射も弱まっているため、気道に入った異物を排出できずに肺に細菌が繁殖して炎症が起こり、命に関わる重篤な状態となる場合があります。
参考)https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kansenshou/norovirus.html
脱水症状も深刻な合併症の一つで、高齢者は喉の渇きを感じにくいため脱水の進行に気付きにくく、重度の脱水は腎不全や意識障害を引き起こし生命に危険を及ぼします。乳幼児においても、体重に対する体液の割合が高いため、短時間で重篤な脱水状態に陥りやすく、適切な水分補給と医療機関での治療が必要です。
ノロウイルス感染症の特徴的な点として、症状が治まった後も長期間にわたってウイルスの排出が続くことが挙げられます。通常、症状が改善しても1週間程度は便からウイルスが排出され、場合によっては2週間から1か月以上続くこともあります。この期間中は感染者が無症状であっても他者への感染リスクが存在するため、継続的な感染対策が重要です。
参考)https://www.kindai.ac.jp/health/about/gastroenteritis/gastroenteritis01.html
二次感染を防ぐためには、症状が治まった後も手洗いや消毒の励行が必須です。特に食品を扱う職業に従事する場合や、高齢者施設・保育施設などの集団生活の場では、より長期間の注意が必要となります。感染者の排泄物や嘔吐物には大量のウイルスが含まれているため、適切な処理と環境の消毒が重要です。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/2zcm8o0340
ノロウイルスは感染力が非常に強く、わずか10~100個のウイルス粒子でも感染・発症するため、接触感染や飛沫感染による感染拡大のリスクが高く、家庭内や施設内での集団感染が起こりやすい特徴があります。そのため、感染者の隔離期間の設定や、共用物品の消毒、適切な換気などの総合的な感染管理が求められます。
参考)https://family.saraya.com/kansen/virus/noro.html
ノロウイルス感染症の予防において最も重要で効果的な対策は、適切な手洗いの実施です。石鹸を十分に泡立て、指先、指の間、爪の間を含めて30秒以上流水で洗い流すことが推奨されます。調理前、食事前、トイレ後、汚物処理後、おむつ交換後などのタイミングで徹底的な手洗いを行うことが重要です。
参考)https://www.hcc.keio.ac.jp/ja/infection/2022/11/norovirus.html
食品の安全管理も重要な予防策で、特にカキなどの二枚貝類は十分に加熱(85~90℃で90秒以上)してから摂取する必要があります。ノロウイルスに感染した魚介類と一緒に調理した食材にもウイルスが付着する可能性があるため、調理器具の適切な洗浄と消毒が必要です。
医療従事者においては、患者との接触時における標準予防策の徹底が重要です。ノロウイルスはアルコール系消毒薬に対する抵抗性が高いため、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)を用いた環境消毒が効果的です。また、患者の嘔吐物や排泄物の処理時には、適切な個人防護具(手袋、マスク、ガウン)の着用が必須となります。集団感染を防ぐため、感染患者の早期発見と適切な隔離措置、職員の健康管理と感染予防教育の徹底が求められます。