ノコギリヤシの効果と医療従事者が知るべき摂取方法

ノコギリヤシは前立腺肥大症や男性型脱毛症への効果が期待される植物由来成分ですが、エビデンスや安全性についてはどこまで確立されているのでしょうか?

ノコギリヤシの効果と医療従事者の知識

ノコギリヤシの医療従事者向け基本情報
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DHT抑制メカニズム

5α-還元酵素を阻害し、ジヒドロテストステロンの生成を抑制する作用機序

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臨床エビデンス

前立腺肥大症に対する大規模RCTでは有意差なし、薄毛改善は限定的効果

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適切な摂取量

1日320-360mg、食後摂取で吸収率向上、2-3回分割服用が推奨

ノコギリヤシの作用機序とDHT抑制効果

ノコギリヤシ(Serenoa repens)は、北米原産のヤシ科植物で、その果実エキスには5α-還元酵素阻害作用があることが知られています。この酵素は、男性ホルモンのテストステロンをより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換する役割を担っており、DHTは男性型脱毛症(AGA)や前立腺肥大症の主要な原因物質とされています。
参考)https://www.aska-pharma.co.jp/media_men/column/saw-palmetto/

 

ノコギリヤシの主要有効成分であるβ-シトステロールは、5α-還元酵素の働きを抑制することで、DHT生成を阻害し、毛包の萎縮を防ぐメカニズムを有しています。さらに、ノコギリヤシには抗炎症作用も認められており、炎症物質のLTB4を抑制することで頭皮環境の改善にも寄与するとされています。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/aga/serenoa-repens/saw-palmetto-zinc-hair-growth/

 

このような薬理学的作用により、ノコギリヤシは男性型脱毛症や前立腺肥大症に対する補完的治療選択肢として注目されています。ただし、これらの効果は主に基礎研究や小規模臨床試験に基づくものであり、大規模な臨床試験では必ずしも一貫した結果が得られていないのが現状です。
参考)https://levcli.jp/articles/male-aga/9/

 

ノコギリヤシの前立腺肥大症への臨床エビデンス

前立腺肥大症に対するノコギリヤシの効果について、これまでに複数の大規模臨床試験が実施されています。しかし、米国国立衛生研究所(NIH)が助成した2件の質の高い大規模研究では、369人の男性を対象とした二重盲検多施設共同プラセボ対照ランダム化試験において、ノコギリヤシ果実エキスの服用量を増やしてもプラセボを上回る下部尿路症状の軽減は得られませんでした。
参考)https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c04/41.html

 

さらに、32のランダム化比較試験を対象とした2012年のコクランレビューでは、前立腺肥大症と一致する下部尿路症状がみられる男性にノコギリヤシを2倍および3倍量で投与しても、尿量も前立腺の大きさも改善しなかったと結論付けられています。これらの結果から、前立腺肥大症に対するノコギリヤシの確実な有効性は証明されていないのが現状です。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/24-%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF/%E6%A0%84%E9%A4%8A%E8%A3%9C%E5%8A%A9%E9%A3%9F%E5%93%81/%E3%83%8E%E3%82%B3%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%83%A4%E3%82%B7

 

一方で、ノコギリヤシの特定の製剤に関する研究では、異なる結果も報告されています。特定のヘキサン抽出物に関する27の研究(5,800例)を対象とした2018年のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、夜間頻尿の減少および尿量の改善が示されており、製剤の種類や抽出方法によって効果に差がある可能性が示唆されています。

ノコギリヤシの薄毛改善への効果と限界

ノコギリヤシの薄毛改善効果については、研究結果が一様ではなく、効果を支持する報告と否定する報告が混在しています。2002年に公表された研究では、ノコギリヤシエキスを含む製品を半年間使用した群において、プラセボ群と比較して頭頂部の毛髪密度の増加、毛髪の太さの改善、脱毛の進行抑制が観察されました。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/aga/serenoa-repens/saw-palmetto-hair-growth/

 

また、ノコギリヤシエキスを24か月間摂取した被験者の38%に発毛効果があったという報告もあります。別の研究では、ノコギリヤシ群で60%の参加者に毛髪の改善が見られたのに対し、プラセボ群では11%にとどまったという結果も示されています。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/aga/serenoa-repens/serenoa-repens-hair/

 

しかし、2012年に発表されたより規模の大きな研究では、ノコギリヤシ単独での使用では有意な効果が認められなかったという結果も報告されています。フィナステリドなどの薬事承認された薄毛治療薬と比較すると、ノコギリヤシの効果は劣るという結果も存在します。これらの相反する結果から、ノコギリヤシの効果には個人差があり、また長期間の摂取が必要である可能性が示唆されています。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/aga/serenoa-repens/serenoa-repens-hair-loss-no-effect/

 

ノコギリヤシの適切な摂取方法と用量

ノコギリヤシの推奨摂取量については、日本では健康食品としての位置づけであるため、明確な摂取量は決められていませんが、研究でよく用いられる量として1日あたり320mgが基準とされています。国内で販売されているノコギリヤシサプリメントのほとんどは320mg~360mgの範囲で設定されており、年齢や体格に応じて20代〜30代では320mg〜640mg/日、40代〜50代では640mg〜800mg/日、60代以上では320mg〜640mg/日の範囲で段階的に調整することが推奨されています。
参考)https://scalp-d.angfa-store.jp/hair-growth/saw-palmetto/

 

摂取タイミングについては、空腹時の服用は吸収率が低下する傾向にあるため、食後30分以内の摂取が推奨されています。特に脂質を含む食事と一緒に摂取することで、有効成分の吸収率が向上します。1日の総摂取量を2〜3回に分けて服用することで、体内での有効成分の濃度を安定させることができ、より効果的な結果が期待できます。
参考)https://ningyocho-cl.com/saw-palmetto-hair

 

サプリメント選択において、カプセルタイプは消化吸収が良好で有効成分の利用効率が高く、錠剤タイプは携帯性に優れ長期保存が可能、液体タイプは嚥下が容易で即効性があるといった特徴があります。信頼性の高いメーカーの製品を選択し、成分表示を精査してノコギリヤシエキスの含有量を確認することが重要です。
参考)https://oogaki.or.jp/hifuka/aga/serenoa-repens/serenoa-repens-thinning-hair/

 

ノコギリヤシの副作用と医薬品との相互作用

ノコギリヤシは適切に使用すれば比較的安全な成分とされていますが、人によっては軽微な副作用が報告されており、最も多いのは吐き気や腹痛、下痢や便秘といった消化器系の症状です。その他にも頭痛、めまい、ホットフラッシュ(ほてり)がときに生じることがありますが、重篤な副作用はほとんど報告されていません。
参考)https://agacare.clinic/josei/hair-loss-supplements/how-to-take-choose-saw-palmetto-supplement/

 

医薬品との相互作用については、特に注意が必要な薬剤があります。抗凝固薬ワルファリンなど)や抗血小板薬(アスピリンなど)を服用中の患者がノコギリヤシを摂取すると、出血傾向が増すリスクがあります。過去にはノコギリヤシを服用中の患者の手術中に多量の出血を起こした報告もあり、これらの薬剤との併用は避けるべきです。
参考)https://asc-biyoclinic.com/column/saw-palmetto-side-effects/

 

また、ホルモン剤(経口避妊薬、ホルモン補充療法など)との相互作用も報告されており、ノコギリヤシがエストロゲン療法や経口避妊薬の有効性を低下させる可能性があります。妊娠中および授乳中の女性に対するノコギリヤシの安全性は確立されておらず、胎児や乳児への影響が懸念されるため、この期間の使用は避けるべきです。医療従事者として患者指導を行う際は、これらの相互作用について十分な説明と注意喚起が必要です。
参考)https://agacare.clinic/josei/hair-loss-supplements/saw-palmetto-women-effects/