ニフェジピンは、血管平滑筋および心筋細胞膜に存在するL型カルシウムチャネルを選択的に遮断するカルシウム拮抗薬です 。カルシウムイオンは筋細胞の興奮収縮連関において重要な役割を担っており、このチャネルを遮断することで血管平滑筋へのカルシウム流入を抑制します 。youtube
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/nifedipine/
この作用機序により、冠血管を持続的に拡張して冠循環を増強するとともに、全末梢血管抵抗を減少させることで安定した降圧作用を発揮します 。特に輸入細動脈に対する選択的拡張作用が強く、腎微小循環レベルでの血行動態改善に寄与するとされています 。
参考)http://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/5101_s12_so2.pdf
L型カルシウムチャネルの分布は臓器により異なるため、ニフェジピンによる血管拡張作用は部位特異性を示します 。腎細動脈では輸入細動脈により強く作用し、輸出細動脈への影響は限定的であることが報告されています 。
ニフェジピンの徐放性製剤として、CR錠(コントロールド・リリース)とL錠(ロング・アクティング)が開発されています 。これらの製剤は、通常のカプセル剤で問題となる急激な血中濃度上昇を抑制し、より安全で安定した降圧効果を実現します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/membrane1976/25/2/25_2_60/_pdf
CR錠では、親水性マトリックス技術により二峰性の血漿中濃度推移を示します 。投与後約3時間と12時間後にピークが現れ、外層部からの徐々な薬物放出と内核錠からの放出が組み合わさることで、約16時間の平均体内滞留時間を達成しています 。
L錠と比較してCR錠では、AUCの低下を伴うことなく最高血中濃度(Cmax)の低下および平均滞留時間(MRT)の延長が認められます 。また、食事の影響を受けにくく、食後投与時でも薬物動態の大きな変動は見られません 。
ニフェジピンによる歯肉肥厚は、カルシウム拮抗薬の代表的な副作用として知られ、発症率は他のカルシウム拮抗薬と比較して最も高い約7.7%とされています 。男性の発症率が女性の約3倍高く、服用開始から3か月程度で症状が現れることが多いです 。
参考)https://www.doyaku.or.jp/guidance/data/H29-10.pdf
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歯肉肥厚の発症機序として、ナトリウムおよびカルシウムチャネルの拮抗作用による細胞内カルシウム処理の異常が関与すると考えられています 。これにより細胞内葉酸レベルの低下が生じ、歯肉組織の異常な増殖を引き起こします 。
参考)https://www.mdpi.com/1422-0067/24/6/5448/pdf?version=1678688400
歯肉溝滲出液中のニフェジピン濃度が高値を示すことが、高い発症率の一因とされています 。歯肉増殖の程度は、薬物の生物学的利用能や蛋白結合率と相関があり、プラークコントロールが不良な患者ほど重症化しやすい傾向があります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8099224/
ニフェジピンは、グレープフルーツに含まれるフラノクマリン誘導体により代謝酵素CYP3A4が阻害され、血中薬物濃度が上昇する相互作用を示します 。この相互作用により、過度な血圧低下や頭痛、ふらつきなどの副作用が強く現れる可能性があります 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/medicine-clinical-questions/t02aqbt-b
フラノクマリンによるCYP3A4阻害は不可逆的であり、グレープフルーツジュース摂取後24時間以上にわたって影響が持続することが知られています 。そのため、ニフェジピン服用患者には、グレープフルーツだけでなく、ブンタンやダイダイなどの柑橘類の摂取も避けるよう指導が必要です 。
参考)https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/99d7d7076b9f977bbef094f8cb79e57e.pdf
薬物代謝能力には個人差があるため、グレープフルーツ摂取による影響の程度も患者により異なります 。特に高齢者や肝機能が低下している患者では、より強い相互作用が生じる可能性があるため、厳重な注意が必要です 。
ニフェジピンの投与禁忌として、妊婦または妊娠の可能性のある女性への投与が挙げられます 。動物実験において妊娠合併症のリスクが報告されており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001015137.pdf
肝機能障害や腎機能障害を有する患者では、薬物の代謝・排泄が遅延し、血中濃度が上昇しやすくなります 。軽度の機能低下であれば投与量を減量して対応できますが、重篤な機能障害がある場合は慎重な検討が必要です 。
他の降圧薬との併用時には、相加的な血圧低下作用により過度な降圧を来す可能性があります 。ACE阻害薬、ARB、利尿薬との併用では、段階的な増量と緊密なモニタリングが重要です 。また、CYP3A4を強く阻害する抗真菌薬やマクロライド系抗生物質との併用も血中濃度上昇のリスクがあるため注意が必要です 。
日本医事新報社による歯肉増殖症の発症率データ
厚生労働省によるニフェジピンの使用上の注意改訂について