慢性疼痛の治療において、フェントステープ(フェンタニルクエン酸塩)は重要な治療選択肢として位置づけられています 。本剤は、非オピオイド鎮痛剤および弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛に対して使用される強オピオイド鎮痛薬です 。
参考)医療用医薬品 : フェントス (フェントステープ0.5mg …
フェントステープの特徴として、フェンタニルは特にμ1受容体に対する親和性が高く、μ2受容体に対する親和性はモルヒネと比較して極めて低いため、便秘などの消化器系副作用が軽度であることが知られています 。この特性により、他のオピオイド鎮痛剤で副作用が問題となる患者において優先的に選択されることがあります。
参考)https://www.jichi.ac.jp/center/sinryoka/yakuzai/kensyuukai/gankagaku/sonota/yakubutsryohou_20240909.pdf
経皮吸収型製剤である本剤は、24時間継続的に薬物が吸収されるため、慢性疼痛の持続的な疼痛管理に適しています 。胸部、腹部、上腕部、大腿部等の比較的貼付しやすい部位に貼付し、1日毎に貼り替えて使用することで、安定した血中濃度を維持できます 。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/650034/a19a4dd3-bdc9-4ab0-8a26-c9eaf32b79d3/650034_8219701S1025_005RMP.pdf
非がん性疼痛に対して強オピオイドを使用する際は、注射薬>経口薬>坐薬>貼付薬の順に乱用・依存が起こりやすいとされており、フェンタニル貼付剤の選択が推奨されています 。これは、貼付薬では血中濃度が急激に上昇しないため、強力な多幸感や気分変調を引き起こしにくいためです。
参考)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/05/di201504.pdf
慢性疼痛におけるフェントステープの使用では、他のオピオイド鎮痛剤からの切り替えが前提となります 。初回貼付用量は、本剤貼付前に使用していたオピオイド鎮痛剤の用法・用量を勘案して、0.5mg、1mg、2mg、4mg、6mgのいずれかの用量を選択します 。
参考)https://www.gifu-upharm.jp/di/mdoc/rmp/2g/r2681871911.pdf
等価換算において、経口オキシコドン40mgがフェントステープ2mgに相当するとされています 。この換算表を参考に、適切な初回用量を設定することが重要です。換算表に基づく適切な用量選択により、過量投与を避けながら効果的な疼痛管理を実現できます。
参考)https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents1/12.html
用量調整は患者の症状や状態により適宜行われますが、増量時には副作用に十分注意が必要です 。特に、本剤貼付前にオピオイド鎮痛剤を使用していない患者で増量する場合、呼吸抑制等の副作用に十分注意することが求められます。
参考)フェントステープ2mgの効能・副作用
貼付部位についても適切な管理が必要で、皮膚刺激を避けるため毎回貼付部位を変更し、発汗や皮膚の落屑の多い状態、浮腫のある部位への貼付では吸収が低下する可能性があります 。温度上昇による吸収量増加にも注意が必要で、貼付中は外部熱源への接触や熱い温度での入浴を避ける必要があります 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067617.pdf
慢性疼痛に対するフェントステープの使用では、厳格な安全管理体制が必要です 。医薬品リスク管理計画を策定し、慢性疼痛の診断・治療に精通した医師によってのみ処方・使用されることが求められます。また、本剤のリスクについて十分に管理・説明できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ用いられる必要があります。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/650034/a19a4dd3-bdc9-4ab0-8a26-c9eaf32b79d3/650034_8219701S1025_01_003RMPm.pdf
連用により薬物依存を生じることがあるため、観察を十分に行い慎重に使用することが重要です 。乱用や誤用により過量投与や死亡に至る可能性があるため、これらを防止するための観察が必要です。慢性痛患者に対するフェンタニル貼付剤の鎮痛効果と依存/嗜癖について検証した研究では、1年以上継続投与された患者において痛みの程度が有意に低下したものの、依存/嗜癖のリスクも報告されています 。
参考)慢性痛における強オピオイド鎮痛薬の効果と依存/嗜癖─フェンタ…
重篤な副作用が発現した場合には、本剤剥離後のフェンタニルの血中動態を考慮し、剥離から24時間後まで観察を継続することが必要です 。フェンタニルの半減期は3.6時間とされていますが、経皮吸収製剤では皮膚に蓄積された薬物の放出により、剥離後も一定時間作用が持続するためです 。
参考)https://www.ra.opho.jp/wp-content/uploads/2021/05/seminar_2017_02_b.pdf
投与量の急激な減量は退薬症候があらわれることがあるため避けるべきです 。長期間高用量使用患者でのオピオイドスイッチング時には、血清濃度を測定しながら慎重な管理が必要で、適切な減量により患者のADLおよびQOLの改善が期待できます 。
参考)長期間高用量フェンタニル貼付剤使用の慢性疼痛患者に血清濃度測…
フェントステープの主な副作用として、傾眠、めまい、貼付部のかゆみ、食欲不振、吐き気、嘔吐、便秘などが報告されています 。これらの副作用は10%以上の患者に認められ、日常的な観察が必要です。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
フェンタニルは他のオピオイド鎮痛剤と比較して消化器系副作用が少ないとされていますが、頻度は低いものの腹痛、頭痛、疲労、息切れ、呼吸抑制、無呼吸、尿閉などの重篤な副作用も報告されています 。特に呼吸抑制は生命に関わる重篤な副作用であり、慎重な観察が必要です。
参考)フェンタニル - Wikipedia
副作用対策として、患者の状態に応じた適切な用量設定と段階的な増量が重要です 。フェンタニル増量時には呼吸状態の変化がないことを確認し、血液ガスデータ等の客観的評価も併用することが推奨されます。意識レベルや呼吸回数を綿密に観察し、必要に応じて用量調整を行うことで安全性を確保できます。
参考)Fentanyl Patch in Reducing Int…
貼付部位における皮膚反応についても注意が必要で、皮膚刺激を避けるため貼付部位を毎回変更し、適切な皮膚ケアを行うことが大切です 。発汗や皮膚の状態が薬物吸収に影響することもあるため、貼付状況の定期的な確認が必要です。
参考)フェントステープの使用法と注意すべき点とは?
慢性疼痛におけるフェントステープの適正使用では、確認書を用いた管理体制が重要な役割を果たしています 。2014年6月より慢性疼痛の効能・効果が追加承認されて以来、適正使用ガイドに基づく管理が求められています 。
参考)https://www.jshp.or.jp/content/2014/0703-2-2.pdf
適正使用の実際において、オピオイドナイーブ患者(オピオイド未使用患者)に対する使用は原則として避けられ、他のオピオイド鎮痛剤からの切り替えが前提となります 。これは、急激な血中濃度上昇による重篤な副作用を防ぐためです。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/09b9200f3bb50f20cf214d780053395bb4160fa6
疼痛管理においては、患者の疼痛強度、機能状態、QOLの改善を総合的に評価することが重要です 。単純に疼痛スコアの改善だけでなく、ADLや生活の質の向上を目標とした治療が求められます。長期使用例では、定期的な効果判定と必要に応じたオピオイドスイッチングの検討も重要な選択肢となります。
医療用麻薬適正使用ガイダンス令和6年版では、フェンタニル貼付剤の適正使用に関する詳細な指針が示されており、これに基づいた管理体制の構築が必要です 。特に、処方医師の要件、薬局での調剤時の確認事項、患者への説明内容等が具体的に規定されており、これらの遵守が適正使用の前提となります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001245820.pdf
フェントステープの慢性疼痛に対する適正使用ガイドが詳細に記載されています - PMDA適正使用ガイド
医療用麻薬の適正使用に関する包括的なガイダンスが掲載されています - 厚生労働省医療用麻薬適正使用ガイダンス